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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十三話:剣が振れる事実

 森の奥へと進みながら、俺は自分の手を見つめていた。さっき、俺は確かに魔獣を倒した。四頭ものスモール・ボアを、自分の剣でだ。


そして――何より驚いたのは。


(剣が、振れたんだ)


人間ではない、魔獣相手だと剣を握る手に、あの嫌な震えがなかった。前世のトラウマに邪魔されることなく、持てる剣術の知識と光属性の魔法を合わせて、本気で剣を振るうことができた。恐怖や躊躇に体が硬直することはなかった。


「ライト」


シエラさんが、不意に声をかけてきた。


「はい」


「お前、気づいてるか?」


「何を……ですか?」


「さっきの戦いで、お前の剣には躊躇がなかった」


シエラさんは、立ち止まって俺の方を向いた。


「魔獣相手には、本気で剣を振れるんだな」


「……はい」


俺は、正直に答えた。


「魔獣は、人間じゃないから……あの、トラウマが出ませんでした。ただ、敵を倒すことだけに集中できました」


「そうか」


シエラさんは、満足そうに頷いた。


「それが、お前の第一歩だ」


「第一歩……」


「ああ。人間相手には、まだ本気で剣を振れねえだろう。そこは正直に認めるしかねえ」


シエラさんは、真剣な目で俺を見た。


「だが、魔獣相手には振れる。それが分かっただけでも、大きな大きな進歩だ」


「ありがとうございます」


「礼なんていらねえよ。自分の努力の結果だ」


シエラさんは、笑って俺の頭を軽く叩いた。


「だが、問題もある」


「問題……ですか?」


「ああ。人間大の魔物相手には、まだ躊躇が残るかもしれねえ」


シエラさんは、森の奥を見つめた。


「スモール・ボアは、体高一メートルほどだ。人間よりも小さい。お前のトラウマが反応しにくいサイズだ」


「……」


俺は、言葉に詰まった。


確かに、人間大のゴブリンやオークのような魔物となると、また状況は違うかもしれない。あの記憶が蘇って、体が動かなくなるかもしれない。


俺は、ゴブリンのような、人の形をした魔物を想像して少し顔を曇らせた。


「……ゴブリンとか、そういう……人の形をしたものも、いつかは倒さなきゃいけないんですよね」


「そうだ。……だが、焦るな」


シエラさんは、俺の肩を叩いた。


「一歩ずつだ。今日は、魔獣相手に剣が振れることが分かった。これは揺るぎない事実だ」


「はい」


「次は、もう少し大きな魔物と戦う。そうやって、少しずつ慣れていけばいい。人間大の魔物でも『人間じゃない』と割り切れるように、実戦で経験を積むんだ」


シエラさんは、優しく言った。


「俺が、お前を守りながら成長させてやる。俺が壁だ」


「ありがとうございます……」


俺は、深く頭を下げた。シエラさんは、本当に俺のことを考えて、成長の道筋を作ってくれている。この人がいてくれるから、俺は前に進めるんだ。


「さて、あと三頭だ」


シエラさんが、再び歩き出した。


「気を抜くなよ。油断は最大の敵だ」「はい!」


俺は、剣を握り直して、シエラさんの後を追った。


しばらく歩くと、また新たなスモール・ボアの群れが見えてきた。


「今度は、三頭だな」


シエラさんが、小声で言った。


「ちょうど、依頼の目標数だ」


「はい」


「じゃあ、さっきと同じだ」


シエラさんは、俺を見た。


「俺が誘導する。お前は、チャンスを逃さず、光を込めて攻撃しろ」


「わかりました!」


俺は、剣を抜いた。さっきよりも、手の震えは少ない。集中力が増している。


「いくぞ」


シエラさんが、再び石を投げた。


「グルル!」


スモール・ボアたちが、こちらに気づいて突進してくる。


「右から!速度が速いぞ!」


シエラさんの声が響く。俺は、右側を見た。突進してくるスモール・ボア。横に避け、避けた瞬間に、剣を振り下ろす。光を纏った剣が、スモール・ボアの脇腹を斬る。


「ギャア!」


一頭目が、倒れた。


「次、正面!」


俺は、すぐに構え直した。正面から、スモール・ボアが突進してくる。今度は、さらに避けるタイミングを早くした。シエラさんの指導を思い出す。避けて、反撃。


「ギャア!」


二頭目も、倒れた。


「最後の一頭!ライト、全力を出せ!」


シエラさんが、最後のスモール・ボアを俺の方に誘導してくれた。俺は、深呼吸をして、構えた。最後の一頭が、俺に向かって突進してくる。


(これで、最後だ)


俺は、冷静に避けた。そして――光属性の魔力を最大限に剣に集中させ、全力で、剣を振り下ろす。


「せいや!」


光を纏った剣が、スモール・ボアを一刀両断する。


「ギャア!」


 最後の一頭が倒れ、周囲に静寂が戻った。


「……っ、はぁ、はぁ……」


 すべてが終わった瞬間、急に足の力が抜けて、俺はその場に座り込んでしまった。全身から汗が噴き出し、心臓の鼓動が耳の奥でうるさいほど鳴っている。


「おう、心地いい疲れだろ?」


 シエラさんが笑いながら、大きな手を差し伸べてくれた。その手を握り、俺は立ち上がる。


「さて、座ってる暇はねえぞ。次は証拠品の回収だ」


「証拠品の……回収?」


「ああ。スモール・ボアなら右の牙が討伐の証になる。ほら、見てろ」


 シエラさんは腰から手際よく短刀を抜くと、倒れた魔獣の口元に刃を当てた。迷いのないナイフ捌きで、硬い牙を根元から「パキッ」と抜き取る。その鮮やかさに、俺は思わず息を呑んだ。


「ほら、やってみろ。これも冒険者の大事な仕事だ。命を奪ったんなら、最後まで責任を持って利用させてもらう。それがこの世界の流儀だ」


「……わかりました」


 俺はおそるおそる短刀を借り、魔獣の死体に触れた。まだ温かい。訓練の木剣や人形とは違う、「本物の命」の重みが、手のひらを通じて伝わってくる。


 戸惑いながらも、シエラさんの教え通りに牙を抜く。自分の手が少し汚れ、魔獣の匂いが鼻をついたが、不思議と嫌な感じはしなかった。


「俺の三頭、お前がさっき仕留めた四頭と今の三頭で――合計十頭だな」


 シエラさんは布で牙を拭き、革袋にまとめた。


「ライト、今日はよくやった。お前の剣は、確実に成長してる。この事実は、お前の自信になるはずだ」


「ありがとうございます、シエラさん」


俺は、息を整えながら答えた。


「さっきよりも、避けるタイミングが良くなった。反応速度が上がっている」


「本当ですか?」


「ああ。それに、光属性の魔法も、最後まで安定してた。これなら、もっと強い魔物とも戦える」


「ありがとうございます」


俺は、深く頭を下げた。


「さて、ギルドに戻って報告するぞ」


シエラさんが、森の出口を指差した。


「依頼を完了させて、報酬を受け取る」


「はい!」


俺たちは、森を出て、街へと向かった。歩きながら、俺は自分の剣を見つめた。この剣で、魔獣を倒すことができた。まだ、人間相手には本気で振れないかもしれない。だけど――魔獣相手には、振れる。


(これが、第一歩なんだ)


シエラさんの言葉が、胸に響く。一歩ずつ、前に進んでいけばいい。焦る必要はない。シエラさんがいてくれる限り、俺は成長できる。


街が、見えてきた。ヴァルセリアの門が、遠くに見える。


「もうすぐだな」


シエラさんが、言った。


「ああ、街に戻ったら、まずはギルドで報告だ」


「はい」


俺は、力強く返事をした。


「ライト」


シエラさんが、不意に声をかけてきた。


「はい」


「今日は、よくやった。お前の剣は、確実に成長してる。この事実は、お前の自信になるはずだ」


「ありがとうございます」


「これからも、一緒に頑張っていこうな。お前のトラウマ克服への道のり、俺が必ず見届けてやる」


俺は、力強く頷いた。


シエラさんと共に、俺は確実に成長している。まだまだ先は長い。だけど、この人と一緒なら、きっと乗り越えられる。そう信じて、俺は街へと歩き続けた。

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