表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/195

第百十三話:理の調停(アレンジメント)

 時間が巻き戻らない世界。

 勇者パーティは、ついに神クロノスを「詰み」の盤面へと追い詰めようとしていた。

 アルトの放つ《ステイシス・アンカー》が、広場中央、半径数十メートルの“戦闘領域”のみを因果の楔で固定している。鼻から滴る鮮血は止まらず、思考と肉体の同期はズレ続けている。それでも、彼の瞳には冷徹な演算の火が灯っていた。

「……アルト! お前、まだ動けるか!?」

 シエラの鋭い声が、霞みゆくアルトの意識を現実へと繋ぎ止める。

「……はい。……死んでも、離しません」

「なら――あれを使え。三人でやった、成功率三割のあの“因果を喰らう未完成解”――その続きだ」

 その言葉に、ライトとレイナが息を呑んだ。あの暴走し、未完成に終わった訓練の記憶が鮮明に蘇る。

「……あれを、戦場で完成させるっていうのか!?」

「理論上の成功率は、九割を超える。――今なら、な」

 シエラは不敵に笑い、迫りくるクロノスの圧力を剣一本で受け流しながら断言した。あの時の実験に立ち会い、アルトの数式を横で“結果だけ”見ていたシエラには確信があった。

「訓練場で失敗したのは、時間の流動によって二人の魔力が常に揺らいでいたからだ。だが今、アルトのアンカーが戦場を『相対的に完全静止』させている。……標的は動かねえ。なら、楔を打ち込む場所を予測する必要すらねえんだよ」

「……そうか!」

 アルトの脳内に、勝利への数式が組み上がる。

 本来、光と炎……正反対の性質を持つ魔力を融合させるには、一瞬の揺らぎも許されない。訓練場ではその「予測」だけで脳のリソースを使い果たしていた。だが今は、魔力の粒子さえも、凍りついたように動かない。

「ライトさん、レイナさん! ……僕を信じて、全てを預けてください!」

 アルトの両手に、淡い金色の光――【慈愛のピース・メーカー】が宿る。

 ライトが右側に立ち、剣から「拒絶の光」を。

 レイナが左側に立ち、杖から「激越の炎――闇としか呼べない破壊衝動」を。

 二つの巨大な魔力がアルトという回路へ流れ込む。

(……予測が不要になった分、演算の“質”だけに集中できる。これほどスムーズだなんて……!)

 訓練場での、脳が焼き切れるような苦痛がない。ステファニーの《聖癒》がアルトの精神に触れ、膨大な演算結果が精神を焼き切らないよう、緩衝材となって受け止めている。彼女の祈りが、アルトの自己が霧散するのを、かろうじて現実に繋ぎ止めていた。

「【慈愛の楔】――接続リンク!!」

 アルトの掌の中で、光と炎が一つに噛み合った。

 中心に生まれたのは、色彩情報が欠落したかのような「虚無」の球体。光を吸い込み、影を吐き出さない、因果の特異点。

『……馬鹿な。……何だ、あれは』

 クロノスは、理解してしまった。

 その球体が「自らの権能システムを喰らい尽くす穴」であることを。因果を操る神にとって、因果を消滅させるその力は、唯一の「死」そのもの。

『否定だ。時間が固定される事象も、神が人の子に討たれることも……あってはならぬのだ!!』

 逃げるという選択肢を失い、恐怖に駆られたクロノスが、なりふり構わず大鎌を振り回し、三人へと突進する。それは修正のための構えではない。死の恐怖に怯えた、ただの破壊衝動。

「――させるかよ。お前の相手は俺だ。……神の“管理権限”ごと、叩き斬ってやる」

 シエラがその前に立ちはだかる。神の鎌がシエラの黒剣を削り、火花が散る。だが、因果を切り裂いた男の背中は、一歩も引かない。

「アルト、完成させろ! この一撃で、神の逆転劇ごと消し飛ばしてやれ!」

「……了解!! 《原初爆ぜる一撃オリジン・バースト》――!」

 広場から全ての音が消えた。時間だけが、意味を失った。

 虚無の球体が脈動を止め、完全な静寂へと至る。

 それは、世界で最も美しく、最も残酷な「終止符」の形。

 神を殺す一撃が、今――“確定”しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ