第百五話:受け入れと和解
シエラが剣を石畳に突き立て、裁定を終えた静寂の中。
四人は、互いに向き合っていた。
ライトが、震える手で剣を握り直す。その手は、もう迷いで震えているのではなかった。
強い決意で、震えていた。
「アルト……」
ライトの声が、静かに響く。
「俺は……お前の秘密を知って、最初は裏切られたと思った」
その言葉に、アルトは顔を伏せる。
「でも、今なら分かる。お前は……俺たちを守るために、一人で地獄を見続けてきたんだな」
ライトが、一歩前に出る。
「お前が見てきた『俺が死ぬ未来』――それを、何度も見続けてきたんだろう」
その言葉に、アルトの身体が震える。
「……はい。何百回も……何千回も……」
アルトの声が、掠れる。
「ライトさんが、敵に斬られて倒れる。そんな未来を、何度も見ました。そして、それを避けるために……必死に、計算して……」
「そうか……」
ライトが、剣を鞘に納める。
そして――アルトの前に、手を差し出した。
「なら、もう一人で見るな」
その言葉に、アルトは顔を上げた。
「ライトさん……?」
「お前が見てきた『俺が死ぬ未来』――それを避けるのは、もうお前一人の仕事じゃない」
ライトの手が、アルトの肩を掴む。
「俺も一緒に戦う。お前の計算を信じて、俺は剣を振るう。そして――お前が見落とした危険は、俺が剣で切り払う」
ライトの瞳が、真っ直ぐにアルトを見つめる。
「もう一度、俺たちの仲間として――共に戦ってくれ」
その言葉に、アルトの瞳から涙が溢れ出す。
「ライトさん……」
「ふん、遅いわよ、ライト」
レイナが、涙を乱暴に拭いながら前に出る。
「アルト、あんたに一つだけ言っておくわ」
レイナが、杖を握りしめる。
「私の火力を、二度と『計算の範囲内』なんて言わせないわよ」
その言葉に、アルトは目を見開く。
「どういう……」
「私の魔法は、あんたの計算を超える。それくらいの自信はあるわ」
レイナが、不敵に笑う。
「だから、あんたが『失敗するかもしれない』と思った時――私の火力が、その失敗を焼き尽くしてみせる」
レイナの瞳が、アルトを見据える。
「もう、一人で背負わせない。あんたの計算が外れたら、私の魔法で軌道修正してやるわ」
その言葉に、アルトは何も言えなかった。
ただ、涙が止まらなかった。
「アルトさん……」
ステファニーが、杖を握りしめて前に出る。
「私……ずっと、何も気づけなくて……ごめんなさい……」
ステファニーの声が、震える。
「でも、これからは違います。アルトさんの心を、私が癒します。アルトさんが一人で抱え込まないように、私が……そばにいます」
ステファニーの杖から、柔らかな光が溢れ出す。
「だから……もう、一人で泣かないでください」
その光が、アルトを包み込む。
温かい、優しい光。
三年間、一人で耐え続けてきたアルトの心を、ようやく癒す光。
「みんな……」
アルトの声が、震える。
「俺は……俺、みんなを……」
「分かってるわよ」
レイナが、優しく笑う。
「あんたは、私たちを愛してくれてたのよ。歪んだ形だったけど、それでも――確かに、愛してくれてた」
「だから、今度は俺たちの番だ」
ライトが、アルトの肩を強く叩く。
「お前を、俺たちが守る。お前が一人で地獄を見ることがないように、俺たちが隣にいる」
「二度と、一人で背負わせない」
三人の声が、重なる。
その言葉が、アルトの心を満たしていく。
三年間、閉じ込めてきた感情が、ようやく解放される。
「……ありがとう、ございます……」
アルトの声は、もう掠れていなかった。
涙は流れていたが、それは悲しみの涙ではなかった。
初めて――本当に初めて、アルトは仲間を信じることができた。
計算ではなく。
未来予測ではなく。
ただ、純粋に――信じることができた。
アルトの瞳に、新しい光が宿る。
それは、計算の光ではなかった。
仲間への、信頼の光だった。
「みんな……俺、もう大丈夫です」
アルトが、立ち上がる。
その身体は傷だらけだったが、その瞳は――誰よりも強く、輝いていた。
「これからは、一人じゃない。みんなと一緒に、未来を作ります」
アルトの言葉に、三人は頷いた。
そして、四人は――互いに手を重ね合った。
ライトの手、レイナの手、ステファニーの手、そしてアルトの手。
四人の手が、一つになる。
その瞬間、四人の魔力が共鳴した。
光、闇、癒し、そして演算。
四つの力が、一つに溶け合い、新しい力を生み出す。
「これが……俺たちの、絆……」
ライトが、その力を感じ取る。
「ええ。計算じゃない、本当の――絆よ」
レイナが、微笑む。
「みんなで、一緒に戦いましょう〜」
ステファニーが、嬉しそうに笑う。
「はい……みんなで、勝ちましょう」
アルトが、静かに頷いた。
シエラは、その光景を見て、静かに笑った。
「……ようやく、本当のパーティになったな」
その言葉が、四人の心に響く。
そして――四人は、クロノスへと向き直った。
もう、迷いはなかった。
一人で戦うのではない。
四人で、共に戦うのだ。
「行くぞ、みんな」
ライトの号令に、三人が応える。
「ああ!」
「当たり前でしょ!」
「はい〜!」
四人の声が、一つになる。
そして――真の結束を果たした勇者パーティが、因果を操る魔族へと、その刃を向けた。
新たな戦いが、今、始まろうとしていた。




