表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/164

第百三話:信頼の崩壊とレイナの怒り

 因果の刃が、意識を失いかけたアルトの喉元に触れようとした、その刹那。

 広場の空気を力技で塗りつぶすような、暴力的なまでの魔力の奔流が爆ぜた。

「――ふざけないでっ!!」

 絶叫と共に放たれたのは、漆黒に濁った極光。本来、純白であるはずのレイナの魔力が、持ち主の制御を離れた激昂によって変質し、物理的な衝撃波となってクロノスの大鎌を側面から強引に叩いた。

 死の軌道が、数センチだけ外れる。

 首を跳ねるはずだった刃は、アルトの肩の鎧を削るに留まった。

「ふざけないでよ……! あんた、何なのよ……!!」

 レイナの叫びが、広場の静寂を切り裂く。

 杖を握りしめる彼女の手は、怒りと屈辱で白くなるほどに震えていた。

「三年間……。私たちが笑ってる横で、私たちが死ぬところを……何度も、何度も見続けてたっていうの……?」

 レイナの瞳から、大粒の涙が溢れ出す。

「なんで一人で背負ったのよ……! 私たちは、あんたに守られるだけの無力な存在じゃない。戦士としてここに立ってるの! なのに、あんたの『隣』にいることさえ、私たちは許されなかったの……?」

 その言葉が、アルトの胸を深く貫く。

「あんたが一人で地獄を見ている間、私たちは何も知らずに笑ってた……。それが、何よりも許せないのよ! あんたにとって、私たちは……ただ守るべき『弱者』でしかなかったの!?」

「違う……そんなこと……っ」

 アルトが、掠れた声で否定しようとする。だが、言葉は続かない。

 その横で、ライトが拳を石畳に叩きつけた。鈍い音と共に、彼の拳から血が滲む。

「……気づけなかった」

 ライトの声には、勇者としての矜持を傷つけられた男の、血を吐くような悔恨が混じっていた。

「俺たちが必死に剣を振るっていた理由を、お前は……『知らないほうがいい秘密』として処理した。隣にいたはずなのに、俺は、お前の孤独に気づくことさえできなかったんだ……!」

 ステファニーもまた、癒しの光を灯せないほどに震える手で、アルトを見つめていた。

「アルトさん……私、役に立ってましたか? 私の魔法は……あなたの心を、少しも救えていなかったんですか……?」

「違う……皆さんは、誰よりも強い……! ただ、秘密を知られたら、俺を……拒絶するんじゃないかって、それが怖くて……!」

「……馬鹿」

 レイナが、絞り出すように言った。

「あんたは、本当に馬鹿よ……。拒絶する暇さえ、私たちにくれなかったじゃない……」

 絶望的な沈黙が広場を支配する。

 パーティの心には、目に見えるほどの深い亀裂が入っていた。

『精神的結合の崩壊。魔力暴発による再詠唱不能。……算定終了。次なる消去対象を確定』

 クロノスの声が、感情の熱量を冷笑するように響く。

 漆黒の大鎌が狙ったのは、動揺と魔力枯渇で完全に隙を晒したレイナの首だった。

 アルトが反射的に魔力を練ろうとするが、すでに枯渇した回路からは火花すら飛ばない。

 三年間見続けてきた悪夢が、今度こそ現実になろうとした、その時――。

 一筋の閃光が、レイナの目前でクロノスの刃を真っ向から受け止めた。

 キィィィィィィィィィィン!!

 鼓膜を劈くような衝撃音。

 シエラだった。かつて時属性の権能を持つ神格存在を屠ったとされる『対因果剣技』。彼女が黒い剣を構えただけで、狂っていた周囲の時間干渉が、物理的な圧力に押されるようにして一時的に静止する。

「……シエラさん……」

 アルトが呆然と呟く。

 シエラは振り返らず、ただ背中で語るように静かに言った。

「死人に口なしだ。言い合いを続けたいなら、あの世でやれ」

 その声は冷徹だが、戦場に漂う混乱を一瞬で鎮める圧倒的な重みがあった。

 シエラは、かつて何度も見た「独善的な英雄たちの末路」を、再び目の前の少年に見ていた。彼女は何も言わず、ただすべてを受け止めるかのように目を伏せる。

 だが、その重心は微かに沈み、呼吸は鋭く整えられていた。

「アルト。お前もだ。一人で背負って勝てるほど、因果の番人は甘くない」

 シエラは剣を引き、再びクロノスへと正対した。彼女の周囲だけが因果の束縛を脱したかのように透明に澄み渡る。

「お前たちが本当の仲間かどうか……証明する時間は、もう残っていないぞ」

 彼女は仲間たちに、アルトの孤独を断罪するのではなく、その重さの正体を突きつけるために語り始めた。

「――お前たちは、まだ知らない。こいつが、お前たちに拒絶される可能性ごとすべてを背負って、三年間何度その『死』を代わりに見受けてきたかを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ