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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第百話:予定調和の終焉


 フォートレス・ノール中央広場。そこは、街のあらゆる通りが収束する、巨大な石畳の文字盤だった。中心に足を踏み入れた瞬間、五人は心臓を冷たい手で掴まれたような感覚に襲われ、硬直した。外界の反響音は一切排除され、自分たちの脈動さえもこの「剥製」と化した街では異物のように響く。

 広場の中央、巨大な日時計の影が落ちる場所に、それは「存在」していた。

 漆黒の鎧――クロノス。

 光の反射を拒絶するその装甲は、現実世界に穿たれた虚無の穴のようだった。その手には、因果の糸さえ断ち切りそうな大鎌が握られている。

 背後ではレイナたちが《原初爆ぜる一撃》の構築を続けているが、その歪な魔力の高まりすら、クロノスの威圧にかき消されていた。

 その時、アルトは激しい悪寒に襲われた。

 脳が焼け付くような熱を帯び、視界の端に不吉な赤い影が揺らめく。それはスキルがもたらす予知ではない。本人が無自覚なまま行っている「高速演算」が、クロノスのわずかな予備動作から導き出した「論理的な死の予感」だった。

「……っ、ライト、下がってください!!」

 アルトが叫び、隣にいたライトの肩を突き飛ばす。その直後、ライトがいた空間を、目に見えぬ「時間の歪み」が凪いだ。もし動くのが一瞬遅れていれば、ライトの命はそこで途絶えていた。

「冗談だろ……アルト、今の、何だよ……」

 ライトが困惑と否定の入り混じった表情で一歩退く。シエラが低く唸り、剣の柄に指をかける。だが、漆黒の鎧は動かない。ただ、兜の奥にある闇が、一点だけを正確に射抜いていた。

 アルトを。

『――直接の観測は完了した。三年前、エルトリアで視界に入れたあの時となんら変わらぬ、不確定要素バグの輝きよ』

 クロノスの声は、精神の核に直接響く重圧となって現れた。

『待っていたぞ。我が権能《予定調和》――“正しい未来だけを固定する力”を乱し続ける者。貴様を消去し、この因果のノイズを完全に閉じる必要がある』

 アルトは何も答えられなかった。震える手で顔を覆おうとするが、指先が自分の頬を傷つけるほどに激しく痙攣している。

「何を……言っているのよ……」

 レイナの杖が、カタカタと震える。「……私たち、最初からあんたに踊らされてたってこと?」

 アルトの呼吸が荒くなる。ステファニーの共感能力は、アルトの心に渦巻く濁流の一部――「二度目の失敗は許されない」という、三年間積み上げられた絶望的な重圧を感知し、絶句した。

「俺たちを……騙していたのか、アルト!」

 ライトの絶叫が響く。「結果が分かっていたなら、あの時の、俺の覚悟はなんだったんだ……!」

 仲間の不信と断絶がアルトに降り注ぐ。

 シエラだけは、その告白を聞いても眉一つ動かさなかった。――否、正確には「すべてを理解したが、剣を持つ人間としてそれに触れなかった」。

 クロノスがゆっくりと大鎌を持ち上げる。背後の合体魔法の兆候をノイズとして一瞥しながらも、標的をアルトに固定する。

『算定によれば、あの街は三年前、私の観測では滅びていたはずだ。だが、貴様が感情を爆発させ、数時間の逆行を引き起こしたことで因果が歪んだ。』

 アルトは、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳にあるのは、あの日、数時間を戻してしまった瞬間の「絶望」を二度と現実にしたくないという、漆黒の覚悟だった。

「……ええ。そうです。全部、その通りです」

 アルトの声は、かつてないほど低く、冷徹だった。

「僕は三年前、感情を抑えきれず、意図せず時間を戻してしまいました。……それ以来、僕は二度とやり直しのきかない時間の中で誰かを死なせないように、死ぬ物狂いで心を殺し、訓練してきました。今日までの勝利は、すべてその結果です」

 三人は、息を呑んだ。

 ライトたちにとっては初見の戦いでも、アルトにとっては「感情の暴走を許せばすべてが壊れる」という極限の規律の中で歩んできた、三年間の孤独。

「騙していたと言われても否定はしません。……だけど、これだけは観測者クロノス、あなたに言っておきます」

 アルトが深く息を吐き、自らの内にある「時」の力を一点に集中させる。

 あれは予知ではない、ただの計算だった。だが――今は違う。

 能動スキル「予知エピタフ」が、計算の限界を超え、網膜に「確定した未来」を焼き付ける。

「僕が繋いできたこの三年間は、お前の算定データなんかよりも、ずっと重い」

 漆黒の鎧が、初めて明確な殺意を持って大鎌を構える。

 第百話。因果を繋ぎ変えた軍師と、因果を守護する処刑人。

 広場に響く日時計の音が止まり、世界は、初めて“誤答”を選んだ。

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