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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第一話:召喚された勇者は、女性恐怖症

 俺の名前はライト。元・大学生だ。

 ――いや、「だった」と言うべきだろう。


 ほんの数秒前まで、俺は大学の図書館にいた。

 古武術の歴史についてのレポートを書くため、父が営む道場に伝わる古文書を漁っていた……はずだった。


 それが今。


「……え?」


 気づけば、俺は石造りの豪華な部屋のど真ん中に立っていた。

 足元には、見たこともない複雑怪奇な魔法陣。幾重にも重なった紋様が、青白い光を放ちながらゆっくりと回転している。


(なんだ……これ……)


 肌にまとわりつく感覚がある。

 剣術の稽古で感じる“気”とも違う。もっと重くて、もっと異質な――力の奔流。


 顔を上げると、左右には十数人。

 金糸銀糸の衣装を纏った貴族らしき者、重厚な鎧を着た騎士たち。男女が整然と並び、全員が俺を見ていた。


「……は?」


 間抜けな声が、広い空間に虚しく響く。


 その時――正面に立っていた白髭の老人が、一歩前に出た。


「勇者よ! ようこそ、このアステルム王国へ!」


 威厳に満ちた声。

 同時に、周囲の人々が一斉に膝をついた。


「……え、ちょ、ちょっと待って」


「我が名はヴァルディン。この国の宰相を務める者でございます」


 老人は深々と頭を下げる。


「あなたこそ、古の予言に示された《異世界の光》。魔王を討ち、この世界――エルファナを救う、真の勇者にございます!」


「……魔王? 勇者?」


 頭が追いつかない。


「いやいやいや! 俺はライトです! ただの大学生で、さっきまで図書館に――」


「詳細は後ほど、いくらでも説明いたしましょう」


 宰相ヴァルディンは、俺の言葉を遮るように杖を差し出した。


「まずは王のもとへ。陛下も、あなた様との謁見を心待ちにしておられます」


 ――その一歩が、無理だった。


「……っ!」


 俺は反射的に後ずさる。


 その瞬間、空気が変わった。


「勇者様?」


「お疲れではありませんか?」


 心配そうな声。

 女性の声だ。


 視界の端で、女性騎士や侍女たちが一歩前に出るのが見えた。


「召喚の衝撃で、体調を崩されたのでは……」


「――っ、近づかないで!」


 体が、完全に固まった。


 心臓が、異常な速さで跳ねる。


(まずい……来るな……!)


 脳裏に、嫌というほど鮮明な記憶が蘇る。


 父の道場。

 幼馴染との模擬戦。

 油断。

 力の入れすぎ。


 ――鈍い音。

 ――悲鳴。

 ――折れた腕。


 そして、俺を見上げた彼女の目。

 そこにあったのは、明確な“恐怖”。


「す、すみません! 大丈夫です!」


 俺は叫ぶように言い、視線を逸らした。


(また、同じことをしたら……?)


 この世界には剣だけじゃない。

 光属性の力まである。


(もし……女性を傷つけたら……)


「勇者様、どうぞこちらへ。お部屋をご用意しております」


 侍女が、手を差し伸べる。


 距離は、数メートル。


「い、いえ! 大丈夫です!」


 俺は両手を突き出した。


「休む必要はありませんから! これ以上、近づかないでください!」


 ざわめきが広がる。


「……勇者様?」


 宰相が困惑した表情を浮かべる。


「何か、我々に非礼が……?」


「違います……」


 言えない。

 “女性が怖い”なんて。


 正確には――

 女性を傷つけるのが、怖い。


「……少し、一人にしてください」


 絞り出すように言った。


「休ませて、ほしいです」


 長い沈黙の後、宰相は深く息を吐いた。


「……承知しました。謁見は延期とし、勇者様専用の部屋をご用意いたします」


「ありがとうございます……」


 それから数週間。


 俺は王宮の一室で、この世界について学んでいる。


 魔王。

 勇者。

 異世界。


 すべて現実だ。


 男性の騎士や学者たちは親切だ。

 剣術も、光魔法も、基礎は問題なく身についている。


 ――ただし、女性がいなければ。


 侍女が来れば距離を取る。

 女性騎士が訓練場にいれば、場所を変える。


「勇者様は女性嫌いなのか?」


「いや……怯えているようにも見える」


 噂が、聞こえる。


(違う……)


 俺は、誰も傷つけたくないだけなんだ。


 だが――このままでは、勇者失格だ。


(大丈夫だと思っていた。

もう過去のことだと、そう思い込んでいただけだった)


「……ちくしょう」


 窓辺で、俺は呟いた。


 魔王よりも恐ろしい敵。

 それは――俺自身の過去だった。

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