09 お仕事、本格始動
皇さんからの電話を切って、先生に事情を説明する。
「先生。どうやら仕事みたいです」
「ええ、気をつけてね」
教室の後ろから出るために振り向くと、華城と目が合った。
今日の仕事はこいつのギルドの仕事じゃない。トップギルドのゲイボルグはもっと深刻な案件を依頼されるはずだ。そう考えると、人質立てこもりとはいえこの案件はさほど深刻な案件じゃないんだろうか。
「気をつけて」
「ああ」
昔友達だったこいつとは、今ではもう喋らない。
声を掛けられたから、必要最小限の返事をしただけだ。
クラスのみんなが僕に注目してる。もちろん高嶺さんもだろう。きっと「すごいな」って思ってる熱くて潤んだ瞳を僕へ向けているはず……!
ここで振り向いてそれを確認しちゃったらちょっとダサい。冷静に当たり前のことを遂行している感じで颯爽と教室を出よう。うん、それがいい。
教室を出て走りながらもまず僕がやったのは、思念の番人にログインすること。
視界の端にステータス欄が現れる。その一番上に「事案対処中」の赤いタグがゆっくり明滅しているのが見えた。
ステータス欄内に表示された各種数値の一番下には、現在位置と目的地位置が同時に認識できる地図も表示されている。これは便利だ。
しかも、僕の視界に映る景色には、本来実在しないはずの架空の赤い矢印が現れている。矢印が示す先、はるか遠くの空には「目的地」と書かれた大きなアイコンまで浮かんでいるし。
これ、僕の視界が一人称視点のナビを兼ねちゃってる感じだ。マジでこのシステムはすごい。
現場位置はこれで迷うことはないとして、次はどうやって現場まで移動するかだけど。
電車? ヒーローが現場まで電車通勤するなんてそれもなんか情けない気が。だからと言ってタクというのも気分がノリきれないし……ま、細かいことは後で考えよう。
「えっと……エロ動画エロ動画」
リリーが強くなるには僕がムラムラする必要があるという謎のルールを課せられている。戦いながら戦いと全く関係のないことに没頭するのは、いくらエロに対する感受性と集中力が優れている僕でも若干難易度が高い印象。
正義のヒーローらしからぬ能力というのも気になるが今さら文句をつけても仕方がない。性的に興奮しなけりゃ中学生にだって勝てないのが現実。
よって、何をおいてもまずはエロコンテンツ最優先。
スマホを取り出し、ブラウザからいつものサイトを開いてNTRを中心として巨乳が占めているお気に入り一欄からどれでいこうか悩み始める。
「アホなの?」
「何が? 一生懸命だよ」
「こうするんだよ馬鹿」
「わっ」
リリーは自分のシャツをはだけさせて胸元を露わにすると、僕の頭をがっしり掴んで自分の胸に押し付けた。
肌がきめ細かくムチムチでとんでもなくデカいせいで、密着度が半端なくて呼吸が全然ままならない──……。
女の子の体の匂いまで忠実に再現してくれるこのエネルギー体のおかげで、僕の力の源がどんどん角度を上げていく。
もう間もなくお腹にくっつくかと思われたその時、
ギィン!
TP値は1000万を突破。
ステータス欄にある「事案対処中」の赤表示の下、二段目に緑色の横書き表示が追加された。
【キミだけの着せ替え人形★mode:エロティック魔法少女ミルキ】
リリーへ目をやると、彼女はなんか異世界人みたいな服装に変わっていた。
これめっちゃ好きなアニメのキャラだ。ぼちぼち肌の露出も多いんだよね……
「乗って」
「はい?」
「おんぶするみたいに!」
何すんの? まあリリーの体に触れるのなら僕は全然嬉しいけども。
もしかしたら普段でも頼めば触らせてゅういいいいいいっ
リリーはまるでカタパルトにでも乗っているかのような超加速を予告もなく発動。
一直線に、斜め上方30度方向へとんでもない速度で浮き上がっていく。
意識は強風の轟音だけで占められて、僕は目も開けられずにひたすら全力でリリーにしがみつくしかない。うん。確かにこのキャラ、魔法で空飛べた。
ステータス欄には「現在移動速度 250km/h」というぶっ飛んだ数値をソウルマインダーシステムが表示してくれている。目を閉じると視界が暗くなるので各種表示がすごく見やすいなぁ……
リリーが想定した最高到達高度に達したのか一瞬速度が遅くなる。
このタイミングで僕は目を開けた。
一体ビルの何階まで上がればこんな景色が望めるのだろう。
心まで震えるような地上高。そんな場所で、こちとら抱きついているだけ……
ジェットコースターが落ちる瞬間のようにフワッと内臓が浮き、凄まじい恐怖と痺れるような快感が指先までピリッと伝わった。
そして今度は、目的地へ向かって急降下しながら再び猛烈に加速する。僕の体は今や完全に人間鯉のぼり。クロスした両腕が絡まっているのか手は離れるよりも先にきっと千切れるだろう。
ステータス表示によると、ギルドマスター・皇の電話から約2分経過。
新幹線のような速度ですっ飛ぶリリーはとうとう現場へ近付いた。
この頃、僕は一つの不安要素を胸に抱いて暴れる鼓動に耐えていた。
……どうやって止まるつもりだろう?
心の準備を僕へアナウンスすることなくリリーは地上と接触する寸前に急制動をかける。
僕はリリーの首に腕を絡ませているだけなので、鬼減速がかかった瞬間、僕の体はリリーの首を軸として180度ぐりんと水平回転した。
そしてさっきまでのトラウマ級恐怖体験が嘘だったかのように軽やかな着地。
正面から抱き合うような姿勢で、ほんの10センチほどしか離れていないところにリリーの顔があった。
彼女は、堪らなく愛らしい顔をする。
「お望みなら、ちゅ、ってしてあげるよ?」
「もう萎えたよ……」
あんな空中で萎えたりしたら、TP値が爆下がりしてマジで僕ってそのまま墜落するんじゃないだろうか。全力で欲情することに集中しなければ即死亡だ。どちらかというと副交感神経を優位にしてくれたらありがたいんだけどなぁ……。
いずれにしても、この移動方法かなり危険だし今後やめるようにリリーへ抗議してみようかと思う。
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