08 エネルギー体、学校へ行く
どう見方を変えても雀荘にしか映らないヒーローギルドへ帰ると、ギルドマスターの皇さんは机に片肘を突きながら興味深げに僕を眺めた。
「へぇ。TP値1000万オーバーとか案外やるじゃん。さっきはそんなポテンシャル感じなかったし、てっきりそのうち死ぬもんだと思ってたわ」
ボソボソと不吉なことを。こいつ、すぐに死ぬとわかってて何も言わなかったのか。
それにしても、事案の発生と完了は事後にギルドへ連絡を入れたからいいとして、戦闘中のリリーのTP値までなんでこいつは知っているのだろうかと疑問が湧く。
皇さんに尋ねてみると、自分のギルドのヒーローたちのデータは、思念の番人にログインしてアクセスすりゃリアルタイムで全部見れるらしい。
それは別に管理者権限とかではなくて、仲間の情報は同じギルドメンバー同士だと共有できるのだという。戦闘中に気になった仲間の状態は、常にネットワークを介してモニターできる仕組みだ。
「お疲れさん。今回は偶然事案に出くわしたが普段は俺から電話を入れる。それを聞いてから仕事に行ってくれ。報酬は口座で確認しろ」
スマホで電子通帳を開いてみる。
……え。100万円くらい入ってるんだけど!
「ニヤつくだろ? それがヒーローだよ。ま、それを使う間もなく死なないようにせいぜい気をつけな」
彼は、僕と出会ってから初めて口元を緩めた。
人差し指と中指を揃えてビッと立て、それを別れの挨拶とすると三人が座っている雀卓の残り一席へ腰掛けた。
◾️
スマホで時刻を確認すると、もうすぐ昼の12時半。
遅刻することをいちいち学校へは電話連絡していなかったので、学校へ着いてすぐ、僕は自分がヒーローになったことを担任の先生へ伝えた。同じクラスにいる華城もヒーローだからか、先生は特段驚くことはなかった。
ただ、僕の場合はリリーがいる。
人型の超思念だし、エネルギー体のくせに消えたり変形したりもできないから、教室にリリーの席を作る必要が生じた。
というわけで僕の席の隣にリリーの席が設定される。
リリーは鼻歌を歌いながら上機嫌で自分の席に座った。まだ紹介もされていないので、派手なピンク髪で超絶グラマラスで顔も可愛い転校生にクラスはザワつく。
「わー、学校なんてどれくらいぶり? 高校卒業してからカラダ使うお仕事ばっかだったから、こんなウブな場所新鮮だわー。この男の子たち、どのくらいの割合で童貞なんだろうね。半分くらいかなぁ?」
童貞か童貞じゃないかで男を考えるのは本当にやめてほしい。
ってか大声で言わないでほしい。
「高一で半分て。いくらなんでも未経験者が大半だと思うよ」
「そう? この頃が一番盛ってない? あたしはプライベートだと高校が全盛だったけどね。知らない人に興味深々だったし、外へ行きゃ速攻でナンパされたから」
リリーの全盛か……なんか言葉だけでも凄まじい印象を受けてしまう。とりあえず今の話だと高校三年間での経験人数なんぞ二桁で収まらない恐れが出てくるが。
仮に高校三年間で三桁の最低ラインである100人だったとすると一年あたり33人。とすると月平均で2、3人、週で1人に満たない。うーん……このリリーがそんなので済むか?
二日に1人だったと仮定すると少なく見積もって一週間に3人、月に最低12人。一年間に144人で、三年間続けると単純計算で432人だ。むろん毎日の時期もあるかもしれないし、一日一殺に限定されてないし、1プレイにつき1人とは限らない……。
後から考えれば意味不明な妄想だが僕は電卓を使って真剣にリリーの経験人数を検討していた。
制服のブレザーを異常なほどに歪める爆乳と可愛らしい顔を交互に眺める。
いったい何人の男がこの娘を堪能してきたんだろう……そう考えると、どうしても一つの懸念が。
(エネルギー体だけど、まさか本当に性行為とかできないよな?)
学校の男子を片っ端から食い物にする危険性が真面目に考えられる。
知らない人に興味津々ならなおのこと。そんなことをやり始めたら百パーセント確実に三年間で全ての男子が食われてしまう計算だ。学校の男子全員が兄弟ってすごいな……。
よく考えたら、僕の強い思いは「エロ動画のセクシー女優・リリーを完全再現すること」だ。そのせいでエネルギー体なのに変形できないという縛りを受けている訳だから、できてしまっても何ら不思議ではない。
(……気になる。あとで聞いてみよう)
昼の授業が始まった。
まず初めにリリーの紹介がなされた。
同じく、僕がヒーローとなったことが先生の口からクラスメイト全員へ告げられる。教室中に広がったざわめきは尊敬か、それとも「なんであいつが?」か。まあ後者だろう。
今まで僕を虐めてた奴らへ目をやると、僕がヒーローとなったことで戦々恐々としているのが見ただけでわかるくらいに青ざめていた。
ざまみろ。今度やってきたらこいつらはマジでひねり殺してやるからな。
そんな中、高嶺さんだけが獲物を見るような眼差しを壇上にいる僕へ向けていた。
でも、僕が暴漢にとどめを刺さなかったせいで彼女は僕のことを軽蔑したはずだ。
なら、この視線は何なのか。
廊下側最後列の華城は無表情だ。あいつは仕事の依頼があったらすぐさま教室から出ていけるようにと出口に一番近い席を常に学校側へ要望している。真面目の塊だ。合わない。
僕の席は、廊下側の列の、真ん中より一つ後ろ。華城の二つ前だった。
授業中、窓際側の一番前の席に座る高嶺さんのことを見つめる。
いつもは、前を向く彼女の横顔を鑑賞するのが関の山。
なのに、僕がいつもと同じように視線を送ると、僕よりも先に高嶺さんがこっちを流し目で見つめていた。
どうしていいかわからなくて、僕は慌てて視線をそらす。
チリリリリン──……
僕のスマホが鳴った。
マナーにするのを忘れたと一瞬慌てたが、自分がヒーローになっていたことを思い出した。ヒーローはいつでも電話を取らないといけないんだ。
スマホの画面に表示された発信元は、アステリアのギルドマスター・皇蓮司。
「星井くん。ヒーローとしての仕事なら、出ていいわよ」
「あ、はい」
担任である現代文の八雲先生に許可されて、スマホを通話状態にする。
【星井か? さっそく仕事だ。現場は思願町2丁目5番の雑居ビル『リーコス』3階、男が女をナイフで脅して人質にしたようだ。人質立てこもり事件ってやつだな。警察はすでに要請済みでおそらくSITが来るだろう。だが、お前が現着すりゃヒーローのお前が優先的に対処することになる】
「えっ、人質立てこもり!?」
教室のみんながギョッとした。
びっくりしてつい声を荒げてしまったが、事案の内容が一般人に聞こえるのは確かあまり良くないはずだ。気をつけないと。
【他の奴ら全員出払っててお前しかいないんだよね。まあTP1000万だせるなら余裕でしょ】
「いや、ちょっ……」
【現場位置は思念の番人を通じて共有したから、直ちにログインして現場へ向かってね。じゃ】
電話の向こう側で「ローン!」という叫び声が聞こえる。
皇さんは、僕の質問を一つも許さずに電話を切った。
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