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07 初めての判決




 とりあえず、たった今起こった無茶苦茶な所業を説明してもらう必要がある。

 どういうこと? と尋ねると、リリーはサラッと答えた。


「今の感じ、どうやらユウキの『思いの強さ』は性的興奮度に設定されてるみたいなんだよね。まあ性欲が強すぎてヒーロー認定されたんだから当然と言えば当然か」

「えぇ……道理でいくら念じてもTP値が上がらなかった訳だよ。まぁ確かに「誘惑(テンプテーション)」が勝手に発動した先の2回はどっちも若干ムラムラしてた気がするけど」

「君のムラムラ感が高まるほどにTP値が上昇してあたしはどんどん強くなる。んで、TP値が一定の基準レベルを超えるごとにあたしは服をエロい方向へ変えられていくっぽい……」

「……はい?」

「君の妄想を叶えつつTP値に相応しいエロさを提供するスタイルというか。まあ言わば、いったんTP値が高まり始めたら数値上昇の勢いを止めずに一気に勝ち確へ持っていけるボーナス的な措置というか。エロくなったあたしの姿を見たらまた興奮するでしょ? 相乗効果でTP値が際限なくインフレするっていう」

「いやいくらなんでも角度的に際限はあるでしょ。ってか、なんでエロ動画女王なのに直殴りが強化されるんだよ。SMの延長線上? この力を授かる時に僕はバトル能力のことなんて強く願ってなかったと思うけど」


 だって、君の動画に夢中だったんだし。

 

「TP値が上がれば強くなるってのは、どんな種類の超思念(ハイパー・ソーツ)を授かっても基本原則だよ。このシステムが作られた主旨なんだから」


 確かにそれはそうか。

 なら、強さの出し方や能力特性が異なるだけってことだ。


「そんでユウキ、どうするこいつら」

「え? どうするって何」

「言ったでしょ。ヒーローは犯罪者の罪をその場で裁くことができる。こいつらを死刑に処する必要があると君が判断したなら、今すぐあたしがこの場で裁く。まあ……TP100万の状態でおもクソぶん殴ったから、こいつらは放っておいても自然と助からないかもしんないけど」


 なんら気後れしないリリーに気圧される。現認した犯罪から逃げた場合のときと同じく、勝った後のことも僕はろくに調べていなかった。本当に、カッコよく戦うところだけを調べてたんだ。

 腫れ始めた頬に手を当て、内部から痛むお腹のあたりをさすりながら考える。


 理不尽な暴力を受け、運が悪けりゃ僕は死ぬところだった。

 高嶺さんは暴行された上で何日間も監禁凌辱され、クラスにある高嶺さんの机に一輪挿しの花が置かれることになった可能性も十分にある。こんなクソどもを許す理由があるか?

 

 許せないなら殺して良いという特権。

 僕が決断しさえすれば、リリーはさっき放ったとんでもない威力の攻撃を無防備なこいつらの急所にぶち込む。

 頭部に打てば頭蓋はスイカのように割れ、首に打てばスルメのようにひしゃげ、胸に打てば骨は砕けて心臓は破裂し、腹に打てばいくつもの臓器がびしゃびしゃに飛び散るだろう。

 そうしてこいつらは皆殺しになる。

 僕の、意志によって……。


 胃に、ピリッと痛みが走った。


「ねえリリー。他のヒーローたちもそんな処置をするの?」

「ヒーローによって色々だよ。他人を気にする話じゃない」

「いや……そうは言ってもさ。ヒーローによっても量刑に差は出てくる気がするし。どの程度の量刑が正しいかなんて、そんなの簡単にわかるものじゃなくない? 例えば、もし他のヒーローと共同で事件を解決したとして、犯罪者の量刑について意見が食い違ったらどうするの」

「その場合はヒーロー同士で協議(・・)するんだ。協議方法は当事者のヒーローに任されてる。たとえそれが力づくの殺し合いでもね」


 人間が信頼を託した絶対不可侵のシステム「思念の番人(ソウルマインダー)」。

 それによって正義感を審査されたヒーローたちは、自分が信じる正義を通すためなら殺人すら許可される。

 それがこの世界の決まり事……か。


 僕だって、この暴漢三人組の殺処分を間違っているとまで思っている訳じゃない。

 なのに、何を迷っているのかすら自覚できないまま、その一歩が踏み出せなかった。


「……リリー、今回は警察に引き渡すことにするよ。高嶺(たかね)さんもそれでいい?」

「えっ。殺さないの?」


 高嶺さんは、びっくりしたような顔をしている。


「うん。さすがにちょっとやりすぎかなと思って」

「そんなことないよ。こんな人たち、警察に引き渡してもすぐに野放しになる。そうなったら私、今度こそ恨みを持ったこいつらにメチャクチャにされちゃうよ……。いや。そんなの絶対にいや! ここで殺して。お願い星井くん、三人ともここで殺して!」


 腕に抱きつかれながら、今度は僕のほうがびっくりしたような表情を浮かべる番だった。

 言ってることは間違ってない。こんな奴らに情けをかける理由はない。


 もしテレビでこの事件を知ったら、「こんな犯罪者なんて死ねばいい、それが世の中のためだ」なんて思ったに違いない。僕なら間違いなくそう思っただろう。美味しいコーヒーを飲みつつ、エアコンの効いた自室でニュースを横目に見ながら。


 だけど今、現実に手を下すのは僕だ。

 画面の向こう側から見るんじゃない。目の前の現実なんだ。

 

「でも、殺すって、それ僕が人殺しだってことにならない?」

「ならないよ。だって、星井くんはヒーローなんでしょ? 悪い奴らをお掃除するだけだよ。ごめんね、ヒーローだったなんて今まで全然知らなかったけど、隠してたの? すごいね……」


 高嶺さんが、ほかほかと汗ばむ手で僕の手をぎゅっと握る。

 至近距離からじっと僕を見つめる瞳は、今までの人生で僕が浴びせられてきたものとは明確に異なっていた。

 一度も味わったことのない、僕がずっと憧れ欲してきた視線。

 でも、この子は画面の向こう側から見ている。

 

「ごめん。僕は殺さない」


 高嶺さんは、僕から離れた。

 どこか軽蔑するような視線を僕へ向け、「そう」と一言だけ告げた。





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