06 ギィン!
「あ? んだぁ、このガキは」
遠くからでも体格がいいのは分かっていたが、近くで見るとサイバーパンク系アニメで荒野にのさばる悪党みたいな雰囲気だ。トゲトゲがついた服とか着てくれたら絶対にベストマッチだし、こんな「悪から生まれました」みたいなゴツい男三人組にマジで勝てる気とかしない。
「や、やめろって、言ってん、だ」
口がうまく動かない。震える。
「ははははは! 超ビビってんぜ! こんなわかりやすく震える奴、久しぶりに見たな」
「やー、いいよ君。マジ笑ったわ。君の見せ場は終わったからもう帰っていいよ」
「おい待てって。ガキの後ろにいる女見ろよ」
「は? 何あれ。すっげー乳。牛と人間のハーフだぜきっと」
「待った待った坊主! 後ろのお方は君のお姉さんかな? ちょっと用事あるからこっち来い」
ショタ系の僕は高校一年になんて見られないからまあこの男どもの反応は予想の範疇なのだが。
標的にされたリリーは、後ろからガッツリ胸を揉まれてしまった。
「おほっ! やっぱすっげーわ揉みごたえが。手に収まりきらねーし」
「やめて……」
口では嫌がりながらも強くは拒絶しないリリー。なんならむしろ恥ずかしがってらっしゃるご様子。
本心からガッツリ拒否してるなら可哀想になっちゃうんだけど、エロ動画やらエロ漫画って心の底では嬉しがってる設定が多いんだよね。僕はマジのやつとか無理だからこっちのがムラムラするなぁ……ってか、なんで君は本心からガッツリ拒否ってないんだよ。
「リリー、お前カズヤと付き合ったんだって?」
「そうだよ。だからもうあんたなんかに興味ないんだから」
「でもあいつ、下手くそだろ? あんな奴で満足できんのかよ」
「……あたしは、そんなの、平気。愛があれば……んっ、やめて、触らないで! あたし、絶対に彼のこと裏切ったりしないから!」
「そんなこと言って全然股閉じてねぇけど?」
えっと……何やってんの?
リリーと見知らぬ暴漢による意味不明なエロ寸劇がいきなり始まった。
動揺しながらも、視界の端にあるステータス欄を確認する。
遅ればせながら、昨日見た緑色の文字が出現していることにようやく気づいた。
【誘惑− エロゲヒロインver.】
……発動してる。TP値も知らん間になんか5万くらいになってるし。
てか、なんでこの場面でこのバージョン?
魅了はできるかもだけど絶対に倒せないやつじゃん……。
「やめて。あたしはカズヤが大好きなの。やめてよぅ……」
「うんうん。その話、今から家でじっくり聞くわ」
なるほど、彼氏の惚気話をさせながら寝取るのが良いんだと言いたいわけか。うん、こいつ竿役として合格だ。
って言ってる場合か!
リリーは男に肩を抱かれ、心では拒否しながらも体は正直な女子になって連れて行かれてしまった。
ごっ!
何の音か理解した時には、僕の視界は地面。
殴られて這いつくばっているんだ。どうやらもう一人の男に殴られたらしい。
後から頬がヒリヒリしてくる。倒れてすぐに頭を踏まれて、身動きが取れない。
ステータス欄に表示されていた緑色の文字がいつの間にか消えているが、これはリリーが発動していた「誘惑」が停止したからのようだ。
殴られたせいかTP値はまた10に戻っている。
「ガキはとりあえず寝とけ」
「そうでちゅよ、寝る時間でちゅよ」
「坊主のおかげで戦利品増えたわ。はい、最初の女子高生と牛子ちゃんはこっちね」
「いやっ、星井くん! 助けてっ!」
妙なタイミングで自分の名前を呼ばれて、這いつくばりながら目を見張った。
黒髪セミロングの彼女はうちの高校の制服を着ている。
よく見れば、彼女は学年どころか学校でも上位の美少女、僕の妄想の常連客、クラスメイトの高嶺ハナさんだった。
「お? 知り合いかガキんちょ。はぁぁ、これ、俺がめっちゃ好きなシチュなんだけど!」
「連れの目の前で、ってやつか? お前はマジでクズだな」
「オメーにだけは言われたくねー。ほれ女子高生こっち来い、計画変更だ」
「きゃ、いや。いやっっ!!」
「やめろ!!」
近くにいた男の拳が僕の腹部に突き刺さった。
吐瀉物を撒き散らしながら膝から崩れると、ちょうど良い位置に顔面があったからか、男の放つボディブローみたいな殴打がまともに僕の顔面を捉える。
後方に吹っ飛ばされ、転がってビルの壁に背中と頭を打ちつけた。
ペタンと座るような体勢で路地の壁に背もたれる僕を、男は黙って蹴り続ける。
腹を蹴り、顔面を蹴り、僕の体は男の動作に従って少し跳ねるだけの人形となった。
「はい、ここまでね。死んだら面白くないからそこで見ててちょ。おい」
「おー、了解」
向こうにいた男が、高嶺さんのブレザーの下にあるシャツを強引に引っ張った。
その勢いでボタンが飛び、シャツが破れる音がした。
「いやっ、ごめんなさい! ごめんなさい! 許して……ごめんなさい」
高嶺さんは、鼻水と涙を流して懇願した。
血の味がする。それに意識を保つのもきついな。なんか眠たい感じだ。雪山でこの状態だったら「寝るな!」とか言われるやつか。
男の一人が僕の髪を束にして掴み、うつむきかけた顔を引き上げる。
「ちゃんと見ろよ。お前のためにここですることにしたんだからよ。寝ちゃったら意味ねーだろ」
視線の先には、絶望に歪んだ表情の高嶺さんがいた。
彼女は拘束されてはいなかったが、もはや恐怖のせいで逃げるという選択肢は頭に浮かんでいないのだろう。服を脱がそうとする男に抵抗もせず、涙を落としながらただ呆然と立ち尽くしている。
リリーが超思念の技を発動しなくても、こいつらはリアルで凌辱系エロゲみたいなことを再現しようとしてきた。それも、高嶺さんのカラダを使って。
大きく開いたシャツの胸元から黒いブラジャーが見えた。
男は高嶺さんの首筋に鼻っ柱を沿わせてくんくんと肌の匂いを堪能し、妖艶な黒ブラに包まれた胸をたゆんたゆんと下から揺らして弄ぶ。なんかエロい。
次はスカートだ。
リリーと違って超ミニな感じの高嶺さんのスカートがそっと捲られ、無防備な黒のパンツが露わになった。スケスケのレースみたいな部分の面積が広く、かなりきわどいところまで伸びている。
え……高嶺さん、普段からこんな下着を? 普段あんなに清楚そうに見えるのに!
内面と外面のギャップがやばい。
エロすぎる。だめだ。こんな時なのに……。
「お……? おいおい少年よ、お前すげーな。この状況でおったてるとはよ、男として尊敬するぜ」
賞賛なのか罵倒なのかわからないセリフを男が吐き、僕の塔が最大高度へ到達したとき。
ギィン!
視界に映るステータス欄の数値がピピっと動いた。
変わってる。やっぱりそうだ、思念の解放率──つまりTRR値が5%になってる。
その下にある、TPと書かれた思念力。
ちょっと桁が多くてわかりにくい。
えっと。いち、じゅう、ひゃく、せん……
…………100万?
ッパアアアアアアアアアアアアアン!
豪速フルスイングビンタが不良の顔面を吹っ飛ばす。体ごと宙に浮かぶくらい勢いよく弾かれた不良の体は、接地した直後から大車輪のように回転して向こうの路地出口まで転がって行った。
視界の端に映る、目立つ緑色の文字の明滅に僕はハッとさせられる。
【キミだけの着せ替え人形★mode:ミニスカ女子高生・ブレザー】
致死級のビンタを放ったリリーは、制服のスカートがいつの間にか超ミニ化していた。
胸元はいつもよりかシャツのボタンが多めに外れていて、派手なピンク髪に比べてすごいギャップのある清純そうな純白のブラと、破壊力満点のでっかい胸の谷間がまともに見えている。
僕は、それのせいでどんどん血があらぬところへ集まっていって硬度が上昇。
それにつれて、視界に映るステータスの数値はさらに跳ね上がった。
TPの現在値は500万を超過する。
「ひいいいいっ」
仲間の惨状を目の当たりにした男たちは恐れ慄き、恥も外聞もかなぐり捨てて一目散に逃げようとする。
リリーは「ギュッ」という靴とアスファルトが奏でる摩擦音だけを置き去りにすると一瞬のうちに回り込み、残り二人の残党を目にも止まらぬ超高速ブローであっという間に沈めた。
──え。なにこれ。
「……リリー、君の能力って、エロ系の技じゃなかったの」
「そうなんだけどね。最初に言ったでしょ? TP値が上がったら強くなるからさ、体が。もうなんかこっちのが早えーと思って」
「あの」
服装を整えることも忘れて、高嶺さんが僕におずおずと寄ってくる。
何をするのかと思っていると、高嶺さんはいきなり僕に抱きついた。
「ありがとう。ありがとう」
彼女は、自分より背の低い僕の顔に胸を押し付けながらわんわん泣く。
鼻腔に広がる肌の匂いに頭をクラクラさせていると、TP値が勝手に1000万を超えてしまった。
直後、リリーの制服のブレザーが消え、シャツが短くなってヘソ出し状態に服装が変化して。
それに伴って、緑色の明示は「ミニスカ女子高生・ブレザー」から「ヘソだしミニスカ女子高生」に変更された。




