04 ヒーローギルド・アステリア
翌朝、僕は学校を休まされてヒーローギルドを訪れることになった。
その理由は、法律よりも下位にあたる施行規則で「すべての国民は、次項に定める場合を除いて、超思念に目覚めてから二日以内にギルドへ登録しなければならない」と定められているらしいから。
つまり、それは今日中。
「ユウキには次項に定める特別な理由とか全然無いから、絶対に今日中に登録しないといけないんだ」
「リリーが僕の親と話盛り上がったせいで昨日行けなかったんでしょ。それより僕の両親の夫婦仲を破壊するのだけはやめてくれる? あのあと大変だったんだから。まあお母さんは女だし君の力が効かないのが救いだけど」
「そんなことないよ? その気になったらあたし、お母さんのことを目醒めさせることくらい訳ないし」
「本当にやめて」
「あ、ここだよ。このビルの2階」
リリーに案内されて僕らが着いたのは新宿のとある雑居ビル。
だけど、外から見るとビルの2階の窓には内側から「麻雀」って書かれた大きなシートが貼られている。
薄汚れた幅の狭い屋内階段をリリーと二人で上がるにつれて、太陽光がめっきり減った。階段室の天井照明がチカチカと瞬いていて、2階にある片開きのボロいドアには「ヒーローギルド・アステリア」と書かれていた。
ドアを開けて中へ入ると、薄暗くてタバコの煙が充満する室内には四人で卓を囲んでいるのが一箇所見当たった。それ以外は、お店の人と思しき人が一人だけいる。
知らない場所に気後れして僕がまごついていると、リリーが勝手に進めてくれた。
「ちょっといいですか。新人ヒーローなんですけど、ギルド登録したくて」
「ああ、じゃあこの紙に必要事項書いてくれる。大事な注意点あるから裏面よく読んどいて」
僕らの応対をしたのは、ツーブロックでスイストパーマの色黒長身イケメン男。
歳のころはおそらく30ってところだろうか。
黒のロンTにシルバーネックレスをした、一目で僕と対極にいる人間だとわかる人物だ。
ヒーローって陰キャが多いって話だったのに、こいつは絶対に舞台の主役を演じ続けてきた陽キャに違いない。
男はタバコを咥えながら片目を煙たそうに細めつつ、ボロボロの登録用紙をリリーへ手渡した。
ヒーローギルドって、なんか抱いていたイメージと違うな……。
渡された登録用紙の裏面には「当ギルドの所管犯罪」という一欄があった。
そこには、一番上に大きく「主に武力事案全般」と書かれている。
その下には細かく、
「暴行、傷害、殺人その他生命身体に対する罪、脅迫・監禁・誘拐その他身体的自由に対する罪、騒乱・放火その他公共の安全を脅かす罪、公務執行妨害・内乱その他武力によって国家利益を損なわせる罪など」という記載が。
注意書きには、
「所属ギルドの所管犯罪に対処しなかった場合は、超思念に目覚めた国民の身分及び権限に関する法律第6条の規定に基づき処分されることがあります」と。
とりあえず、この記載を見る限り絶対に戦わなけりゃならないに違いない。
エロ作品のシチュエーションに相手を巻き込む能力で、テレビでやってたテロリストなんかに対処できるものだろうか。
誘惑」が発動した時点で敵の意識を支配できるなら一応可能なのかもしれない。
例えばSM系のシチュを発動した場合に亀甲縛りとかは攻撃に使える気がするが、その場合ロープは事前準備が必要なのか、それとも超思念がエネルギーで具現化してくれるのかそのあたりちゃんと詰めとく必要がありそうだ。
「ところでさ、これってここに書かれていること以外の犯罪には対処しなくていいってことだよね」
「そうだよ。横領とか汚職みたいな犯罪に対処しろって言われてもあたしの能力じゃ難しいでしょ」
それを言うならエロ動画の女優って武力事案全般に対処できる能力では絶対にない。間違いなく戦闘系じゃないのに思念の番人はどうして僕をこのギルドに振り分けたんだろうか。
そのうえ僕自身もケンカなんて全くできないので、今の状態じゃ中学生の不良にすら対処できない可能性が危惧されるなぁ。
わたくし、外観で言うと中学生に間違われるほどショタなのです。
「とりあえず仕事入ったら連絡するから。連絡先だけは必ずそこ書いといて。それとスマホはいつでも絶対音出るようにしとくこと」
男は、今度は僕に対して話しかけてきた。
リリーが話しかけたんだからリリーと話してくれたらいいのに。あんま知らない人と話したくないんだけどな……。
それにしてもこの男、さっきはイケメン陽キャ男子かと思ったが、よくよく喋り方を聞いてるとボソボソと暗い。こちらに目を合わさないのももしかすると陰の性質か?
「はい……。あの、具体的にはどうすれば。学校は行ってもいいんですよね」
「俺、皇蓮司。アステリアのギルドマスターね。俺が行けって言った時に行けって言われたところへ行って、事件解決してくれたらそれでいいから。それ以外にやることは無し」
「えっと……あの、僕、戦闘系のスキルじゃなくて」
ここでようやく、僕はこの暗い印象のギルドマスターと長い時間、目が合った。
彼の表情は「無」。
「そりゃお気の毒。頑張って」
「ロンぁ!」
「うわあああああ」
四人卓から叫び声が上がる。
あいつら、もしかしてヒーローなのだろうか。やっぱり「ヒーロー」ってイメージと全然違う。




