03 エネルギー体、家族になる。
リリーの話によると、彼女は僕の超思念によって作り出されたエネルギー体らしい。
なら、現れたり消えたりできるんじゃないかと思ったのだけど……。
「ねえ。君ってさ、パッと消えたりできるの?」
「できないなぁ」
「どうして? だって君は人間じゃなくてエネルギー体なんでしょ?」
「そうだけど。あたし、君が願った通りの条件で現れてるから」
「そうなんだ。僕の願いってなんなの」
「AV業界のトップセクシー女優『リリー』を、まんま具現化することだよ。体はもちろんのこと、内面的にもね」
ストン、と得心がいった。
「……なるほど。体だけじゃなくて内面まで望んだから君はリリー本人の自我や記憶まで持ってるわけか。言われてみれば、確かに僕は見た目だけでリリーに惚れ込んだわけじゃない。いろんな動画を嗜んできた僕に言わせれば、いくら見た目が極上でもマグロじゃ宝の持ち腐れだよ。自らの欲望が溢れてたり、『えっ』ってなるようなとんでも性癖を持ってたり、スタンダードな性癖でもそのレベルがブッ飛んでたり、そのくせ恥じらったり、極限まで恥じらってるのにいろいろ受け入れちゃったりって感じで、ありとあらゆる内面的要素が複雑に絡み合って彼女たちの魅力を跳ね上げるんだ!」
無意識に拳を握りしめていた。
リリーは口が半開きだ。
「うんちくを語らせたらこんなにペラペラ喋れる時点で、君の『強い思い』は他の何よりエロに向いてたことがたった今証明されたよ」
「いや違う! これは単なる分析で! エロとはまた別の話!」
エロ動画女優から「お前はエロい」と正面切って言われるのってなんか複雑だな……。
それはそれとして、消えれないなら色々問題が発生する。
「消えるだけならエネルギー消費しなさそうなのにダメなんだ?」
「君の大好きな『生身のリリー』を忠実に再現する縛りだね。今さら変えたくなっても、もう手遅れだよ?」
まるで純情な少女のようにふふ、と微笑む。
うわ。めっちゃ可愛い。
うーん……やっぱこれで良かったかも。
とりあえず能力変化については後付けはダメってことか。
なら、このリリーは女子高生の姿のまま僕にずっとついてくるってこと? というか女子高生の制服を着ていることすら僕の願望なの?
まあ確かにずっと恋人は欲しかったけど、じゃあなんでスカートは短くないんだろう。
いずれにしても、こうなるとリリーを家族へ紹介しないわけにもいかない。
僕はリリーに部屋で待つように伝え、一人部屋を出てリビングダイニングへ。笹を食うパンダのようにダラァっとビーズソファへ埋まりながら韓ドラを観るお母さんに話しかけた。
「ねえ。ちょっと相談があるんだけど」
「なに」
「今日から、女子高生と一緒に住んでいい?」
顔だけこっちへ向けて目を丸くしている。
まあそうだよね。でも他に言いようがない。
「……子供ができたってこと?」
「いやなんでそうなんの。一緒に住むだけ」
「同じ部屋に?」
「……たぶん」
「同棲?」
「まあ……そうかな」
お母さんは仕事から帰ってきたお父さんにこのことを話し、二人でさめざめと泣いて喜んだ。
親のスネをかじっている高校生としてはとんでもない所業のように思われるが、部屋にこもってゲームばかりしている一人息子はきっと生涯独身で過ごすだろうと覚悟していたらしく、それが付き合ってる彼女を家に連れてきたものだから相当に嬉しかったようだ。
これで孫の顔も見れると喜んでいた。彼女ではないしエネルギー体のリリーと子供を作るのは絶対に無理なので少し気の毒に思ったが、よく考えると僕は今そんなことを気にしている場合じゃない。
(どうやって戦闘しよう)
すっかり忘れていたが僕はこれからヒーローギルドに紹介される予定なのだ。リリーもそれをすっかり忘れて僕の両親と盛り上がっているので今日はもう動きはないだろうが、おそらく明日には紹介されるはず。
なぜなら、「超思念に目覚めた国民の身分及び権限に関する法律」とかいう法律で、ヒーローは必ずギルドに所属しなければならないと決まっているからだ。
だけど、リリーの話を聞く限り僕には戦闘手段がない。
果たして戦わずしてヒーローなどと名乗れるものだろうか? そこのところはあんま調べてないからよくわからない。
まあ……でも、あの憧れのリリーに会えたんだ。
会うどころか一緒に暮らすことになったし。人間じゃないのはちょっとアレだけど、こんなに可愛くて芸術的なカラダを一等席で鑑賞し続けることができるわけで。
というか、もしかすると触ることももはや夢ではないか……?
アクシデントを装ったり、寝てる間に揉んでも気づかない憧れのシチュがリアルに……!
やばい。考えるだけでなんかムラムラしてきた。
それにしても、さっきからお父さんがずっとリリーの胸を凝視している。
何やってんだこいつ。まあ確かに類稀なるおっぱいだけど、仮にも息子の彼女だと思ってる女子の胸をそんなあからさまに凝視すんな馬鹿。
「ふぉおおおおおお……!」
とうとう涙目になった。しかも感動したような表情を浮かべながら低い声で慟哭している。
まさしく女神様だって言いたいのは他人事じゃなく僕にも物凄く良くわかる。
でもそこは抑えろ。初対面だぞ!
お父さんは、かしずくようにリリーへ縋りついて叫んだ。
「はあああ! 女王様!」
「ちょっとあなた!?」
「お父さん! 何やってんの!」
──えっ。何これ。お父さん普段からめっちゃ真面目なのに、どうして急にこんな?
鬼の形相になったお母さんもお父さんの頭を真面目に花瓶で殴ろうとしているし。
これはヤバス……殺人事件が起きてしまう。
お母さんを止めようと僕が必死になっていると、視界の端に見えるステータス欄の上のほうで、目立つ緑色の横書き文字がゆっくり明滅しているのに気が付く。これはさっきまで無かったものだ。
各種数値や文字は、視線の先を変えずともなぜか苦もなく読める。きっと戦いながら簡単に情報を取得できるようになっているんだろう。すごい技術だ。
緑の文字で書かれていたのは、
【誘惑−SM ver. Activation】
……なんだこれ。
「叩いてください。私のことをどうか。肌が破れてもやめないで」
「ダメだよ。タダでご褒美が貰えると思ってるお前は犬にも劣るウジ虫だね。虫は虫なりにどうすればいいかその腐った脳みそで考えなさい」
突然クズを見る目でお父さんを見下しながら椅子に腰掛けて足を組むリリー。
お父さんは戸惑いながらひざまづいている。
一応だけど、リリーの急激な変化に戸惑ってるんだよね?
まさかだけど、どうしたら喜んでもらえるか悩んでないよね?
リリーは、腕を組みながら心底うんざりしたようにため息をついた。
「クズは指示がないと何もできないか。いいよ、これから一つ一つ徹底的に仕込んであげる。靴下を脱がせて舐めなさい。爪の間まで丁寧にね」
「はいっ」
命令通りリリーの靴下を丁寧に脱がせたお父さんが嬉々として足を舐めようとした瞬間、
「あなたっ」
お母さんのビンタ音が響き渡る。
パーン、というか若干「ごっ」という音が混じったお母さんの一撃でお父さんは我に帰ったようだ。
「リリー、ちょっと何やってんの? 人の親をいきなり下僕扱いしないでよ」
「ごめんごめん。うっかりスキル発動しちゃった」
「……誘惑?」
「そ。一般人を狂わせるのってやっぱゾクってなるよね。久しぶりになんかテンション上がってちょっとやり過ぎたわ」




