21 ヒーローはやっぱ愛だよね(完)
【すぐにその正義の仮面を剥いであげる! ほぉら、】
【舐めるなこの木偶が!】
消えたように見えるほどの動きを展開したリリーを竜殺しの聖剣が確実に捉える。
やはりあいつの能力は明確にターゲットを視認していなくても斬撃可能らしく、視界領域の中に入っているだけでも不可避の一撃が襲ってくる。
ステータス欄にいるルルカモードになったリリーのアバターは、首を飛ばされ胴を分断された。
そして現実のリリーの視界はまたもや床を映す。ずっと同じことの繰り返しだ。
が……リピート再生のようだった戦局は徐々に変化を見せていく。
復元は早まり、完了までは「2秒」。
華城は復帰したリリーを即座に叩き斬って階段へ向かおうとするが、その2秒後にはまた背後から不死身のメイドが襲いかかってくる。華城の自由は極端に制限されていた。
しかも、華城の様子がどこかおかしい。リリーの猛攻をガードする華城は苦しそうに顔を歪め、戦いに集中できていない様子だ。
【……く。なんだ、これは】
【あはは。効いてきたんじゃない? どこが良いか言いなさい。好きなところを踏んであげるから!】
リリーが撒き散らす誘惑の波動が華城を蝕んでいる。
絶対無敵の勇者のTPが、すぐそこに見えていた。
【ち、ん、……くっ、この、……調子に乗るなぁ──────っ!!】
10を超える見えない刃が、リリーの体を細切れにした。
幾つに分断されたかは復元時間と相関関係があるようだ。さっきは2秒だった復元時間は、10秒と表示されていた。
【……ふん、そこで寝てろ。どうせ星井はハナと一緒に逃げてるんだろう? この状況では人の海に紛れるのが得策のはず。そうすれば俺が殺せないと考えているだろうからな。馬鹿にするなよ、ピンポイントで狙い殺すくらいわけはない。学校の生徒たちは全員いったん運動場へ避難している。その中に必ずいるはずだっ】
まだ復元が完了しておらず仰向けに寝るリリーへ向けて、華城は追加でアスカロンを乱れ打つ。
貫通しないように制御したのか、聖剣の群れは廊下の床を破壊せずにリリーの体だけを無数に斬り刻んだ。リリーはぐちゃぐちゃに分解されていく。
リリーの状況を把握している僕が焦りでうつむくと、ハナは無理やり僕の頬を両手で掴んでグイッと引き上げた。
「もう。私のことだけ見てって、言ったのに」
不意に唇同士が触れ合った。
初めて味わう柔らかでヌメヌメした感触に思考が根こそぎ持っていかれそう。
ハナは僕の首の後ろへ腕を回してそのまま後ろへ引き倒すように体重をかけた。なだれるように重なりあった僕らは互いに見つめ合う。
交わること以外考えていないハナの目。
このまま何もせずに終わらせるつもりは絶対にないだろう。
ハナが生み出すいろんな匂いと加虐性を刺激するような視線に誘われて、僕はハナの両手首を上から押さえつけて拘束した。
「ふふ」
「どうしたの」
「嬉しい。瞳が、ヤバいくらいに光ってるよ?」
十分に時間をかけたディープキスは、時を経るに従ってTP値を跳ね上げていく。
今からハナと結ばれるこの状況でTP値とか気にしてるなんてマジで異常じゃない? とりあえずハナの調教方針を考えなきゃだけど……ま、一応リリーのアバターで状況を確認してからにしよう。
復元が完了しているリリーのアバターは、ほとんど裸だった。
首には人間調教用の首輪が付けられ、鎖が垂れている。
下は際どいビキニパンツ一枚。Tバックで露わになったお尻には、平手でぶっ叩かれた綺麗な紅葉の跡がある。
胸には申し訳程度の面積しかない円形の布が大事なところに二箇所ピタッと張り付いていた。その先には妙な形のシルバーアクセがキーホルダーみたいにぶら下がっているが、多分これご主人様が胸の布を剥がしやすいように付いてるんだろうな……。普段からリリーの裸体を観てきた僕としてはこの微妙な自主規制がかえって興奮を呼び起こす。
あと変わったところといえば、白くて大きな翼が6枚くらい背中に生えていることか。頭の上にもなんか光の輪っかみたいなのが浮かんでるし。
ステータス欄に意識をやると、
【キミだけの着せ替え人形★mode:熾天使ミカエル-調教済みed.】
【誘惑-性奴隷ver. |Double Activation《二重発動》】
連打される竜殺しの聖剣の被弾とリンクするように、「|Restoration 0.1sec《復元完了まで0.1秒》」という表示がチカチカと高速点滅を繰り返している。
今のTP値は……2億5千万。
うわ、すっご。
ハナのカラダもすっご……マジで天使。
見た目より大きい胸を揉んだ直後、
【ご主人様ああああああああああああああ!!】
リリーの聴覚を通じて華城の叫びが聞こえた。
ほとんど同時に、現実の僕の耳にガアアアアアン、とつんざくような爆音が。
僕は素無視しようとしたけど、さすがにハナがびっくりしちゃってそれどころじゃなくなっちゃった。ああ、もうちょっとだったのに。誰だよもう。
仕方がないので体育館から外へ出てみると、運動場に避難していた生徒たちが騒然としていた。
彼らの視線の先は学校の校舎があったところ。
僕らの教室があった学舎は、残骸だけを残して2階から上がすっかり消し飛んでいた。
視界の中にあるアバターを見る限りリリーは完全に無傷のはずだけど、一体何をやったんだろあいつは。
◾️ ◾️ ◾️
とりあえず、校舎の修復は時間がかかるので臨時のプレハブ校舎が敷地内に建てられた。
テロリストたちは全員命を失ったが、まあそれは仕方がないことだ。完全に自業自得でありこれはさすがの僕も同情はできない。
華城は瀕死だったが命は取り留めた。校舎を破壊するレベルの直撃を受けてどうやって生き延びたのか。
それをリリーへ尋ねると、
「あいつ、運動場で集まってる全校生徒たちのところにいたから、とりあえずぶん殴って空中に飛ばして、それから空中にいるあいつにガッツリ体当たりして校舎との間でプレスしてやったの。あたし、その時なんか小っちゃい太陽みたいになってたから校舎ごと蒸発させちゃって。
あいつよっぽど死にたくなかったんだろうね、思いの強さが上がったからだろうけどオーラの鎧の強度が上がって爆心地に居たくせに生き残ってやんの。マジで悪運つえーよね。あはは」
「あんま無茶しないでよね……」
「そういう君はほんと楽しそうでいいよね。瞬間最大TPとか4億いってたじゃん。どこまでやったんだよ? 最後まで?」
「いや、キスとお触りまで。まだ胸だけだったけど」
「それで4億って。強敵と戦う時は、君はホテルにハナと一晩中籠る方向で確定だね」
肘で僕をつついてくるリリーに、ははは、と愛想笑いをして誤魔化した。ハナとホテルはいいとして、うっかり賢者モードに入ったらTPってどうなるのかな……なんて思いながら。
もちろん激下がるだろうね。だから、敵を倒すまでは我慢して我慢して、ひたすらおあずけを食らいつつ敵を倒したらご褒美に全開放するパターンの営みになるだろうか。
我ながらドMな戦い方だ。それをするならハナのSっ気を開発するのが必須だがそこはリリーに任せれば朝飯前だろう。
それにしても、リリーの動画で20回の僕って一体何回するんだろう。
そう考えれば我慢する必要は特段ないのかもしれないな……まあ試してみないことにはわからない。
とりあえず、そんなこんなで華城は今、入院している。
危篤状態だったみたいだけど、今はなんとか持ち直しているらしい。ただ、それによってちょっと問題が発生している。
この国のトップギルド「ゲイボルグ」のエースヒーロー不在。
このことは、この国で活動する悪党どもを活性化させるに十分な情報だ。
だから国も秘匿していたんだけど、どこで誰がチンコロしたのやら情報は漏れて凶悪犯罪が増加し始めたらしい。
さらに悪いことに、その華城を倒したのが僕だってこともギルドの間では広まってしまった。
そのせいで──……
【おい星井、仕事だ。現場は墨田区押上1丁目、東京スカイツリーを武力占拠した輩がいるらしい。ちょっくら行ってきてくれ】
ギルドマスター皇さんからの電話がきた。なんと、華城がやるはずだった仕事がアステリアに回ってくるという異常事態に見舞われているのだ。
でも、華城が所属するくらいのギルドだから他のメンバーもかなり真面目で。チームでの事案対処中にスマホでエロ動画を視聴しようとしたらババ怒られた。
違うってのに。それが僕の仕事のやり方なの!
ハナと僕がどうなったかってのは、公には秘密にしてる。
ヒーローの彼女が誰かなんて、あんまり大っぴらにすることじゃないからね!




