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19/21

19 極意



 リリーに逃げてと言われて高嶺さんが向かったのはおそらく体育館の倉庫だ。

 テロリストが徘徊し、華城に見つかれば殺される状況で彼女が選択する行動は「隠れること」に違いない。そして、華城が思いつかない隠れ場所はそこしかない。


 華城から見られないように気をつけながら、僕は慎重に体育館の中へと入る。

 足音を消して体育倉庫の入口へと近づき、音を立てないように重い引き戸をそっと開けた。


「ひっ……」

「大丈夫。僕だよ」

「ユウキ。ユウキっ」


 高嶺さんは、いっぱいいっぱいの顔で僕に抱きついてきた。

 いつもの爽やかで良い香りの中に、尿が乾いた匂いがツンと漂う。

 僕が鼻をクンクンさせていたからか、ハッとした高嶺さんは僕から離れてしまった。


「あっ……あの、ごめん。あたし今、汚いから。ごめん。みっともない。恥ずかしいよ」


 目を潤ませながら逃げようとする高嶺さんを、僕は引き寄せて抱きしめた。

 

「そんなことない。こんなめちゃくちゃが起こったら誰でも無理だよ。高嶺さんは悪くない」

「ハナって呼んでくれないの?」


 見つめ合うこと数秒。

 事ここに至って、臆病になる理由はない。


「ねえ。いつか、不良三人に絡まれてた時、僕はそいつらを殺さなかったよね」

「……うん。ユウキの気持ちも考えずに、あんなこと言ってごめん」

「ううん、こっちこそだよ。君がどんなに怖い思いをしていたか、僕は考えることができていなかった」


 他人のことをこんなにも想ったのは始めてだ。

 考えずとも、口は勝手に動いていた。


「ハナ。誰が来ようと君のことは必ず僕が護り抜くよ。だから安心してここにいて」


 これが、今の僕の精一杯。

 すると、彼女もそれに応えてくれた。


「あの不良三人組に絡まれてたとき、ユウキは自分がボロボロになっても懸命に私のことを助けようとしてくれた。あれからずっと君のことが頭から離れないんだ。こんな気持ち、初めてなんだよ」


 頬を染めてようやく笑顔になった彼女と抱き合う(かたわ)ら、視界の端のTP値に意識を移す。

 少し下がっていたTPは500万まで上がった。

 華城のTPがどのくらいなのかは奴と同じギルドの奴しか知ることはできない。

 だけど、華城のTPがどうであれ、僕は僕の最善を尽くすだけだ。


「……ユウキ、瞳が金色に光ってる」

「うん」

「TP値ってやつ? 確かユウキのは、性的に興奮したら高まるんだったよね」

「えっと……まあ、そうだよ。恥ずかしいけど」

「なら、今さっき輝きが強くなったのって」


 僕から視線を逸らせたハナは顔が赤いが、きっと互いにそうだったに違いない。

 僕って、そういうのがモロバレする体質になっちゃったのかぁ。めっちゃ恥ずかしい。


「でも、どうやってあの華城くんを倒すの? あんなの人間じゃない。化け物だよ」

「僕がやることは一つだけなんだ」


 スマホを取り出す。

 顔認証がなされてロックが開いた画面は、さっきのウェブブラウザのページがそのままだ。僕が気になっていた猫獣人ちゃんのサムネイルもそのままだった。

 迷うことなくそれをタップする。


「何を見ようとしてんの?」

「ちょっ……待って待って! ごめんだけど見ないで」


 さすがに自分の性癖が好きな女の子に筒抜けになるなんて恥ずかしすぎる。

 ハナが画面を覗いてきたから僕は慌ててスマホを隠したんだけど、どうやらちょっと見られちゃったみたいだ。


「……そういうのが好きなんだ」

「違う! いつもはそうじゃないんだ」

「じゃあ、いつもはどんなのを見るの?」


 鬼畜の寝取り系だなんてもっと言えない。

 僕はただただ沈黙した。


「ねえ、私は君のことがもっと知りたいんだ。どんな女の子が好きで、どうしたら悦んでくれるか。私がそんな感じのコスプレしてあげるって言ったらどうするの? そういうチャンス逃しちゃうんじゃない」


 ドクン、と体の芯から鳴る音を聞く。

 高嶺さんが……学校一の美少女であるハナがエロ猫獣人。

 もふもふのしっぽをクネらせ、ぴょんと可愛く立った猫耳。挑発的なビキニですべすべの肌を最大限に露出させながら、ちょっと気の強そうな目つきでにゃんと鳴く。僕を慕って頬をペロペロと舐めてくる様がありありと思い浮かんだ。

 それを、ハナが……?

 

 一秒以内にTP値が1000万を超える。

 ステータス欄の端に表示されるいつもの横書き緑文字は、


【キミだけの着せ替え人形(コスプレイヤー)★mode:太陽の猫獣人闘士ナキ】


 僕は、ようやくこの土壇場になって肝心なことを悟った。


 僕は今まで、自分の性的興奮はエロ動画やエロ漫画によって作り出されたものだとばかり思っていた。だって、それらのコンテンツ次第で僕の興奮度は明らかに左右されているから。

 でも、目に見えるコンテンツは、あくまで起爆剤に過ぎなかったんだ。


 真に大事なのは妄想。

 

 頭の中で展開されるあられもない姿のハナを想像するだけで鼻血が出そうだ。

 下半身で暴れる鼓動はドクンドクンと脈打ち、自分の意思で制御できる領域なんて余裕でとっくに突破している。


 そう考えれば、究極的にはもはやエロ動画やエロ漫画といったコンテンツすら不要。剣の達人が最終的には無刀にたどり着くように、無具(・・)(おのれ)の内面に宿る性欲のみでTP値を跳ね上げるこのスタイルは、技として名付けるならまさに「夢想」と呼べるかもしれない……!

 

【全部聞こえてんだけど。そんなにその話伝えたかったんだ。なら、星井流・性欲操術『夢想』とでも名付けてあげる。ただの妄想野郎のくせになんかちょっと音的にカッコいいのムカつくな】


 リリーが呆れたような声を上げる。

 僕がその誤解を何とかしようとする前に、正義の殺人鬼の声がした。


【やはり諦めてなかったな。まだ逃げずに向かってくるのは褒めてあげるよ】


 リリーの視界の真ん前で立っている、ブレザーの制服を着た国内最強の戦士。

 西校舎の二階にある廊下で、リリーと華城は真正面から向かい合っている。


 僕の視界に映るTP値2000万を突破したリリーのアバターは、陽キャそのものの明るい色気を振り撒くエロ猫獣人になっていた。

 そんなリリーへさすがの勇者も尋ねる。

 

【あれ。君、猫ちゃんだっけ】

【にゃん☆】



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