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18 国内最強の殺人者




 校舎の外を探索飛行していたリリーの視界に、二階の廊下を見通せる位置で立ち止まっている高嶺さんの姿が見えた。見た感じ、階段のすぐ近くだ。

 他の生徒たちはどこかへ避難しているらしく、廊下はがらんどうだった。


 高嶺さんの視線の先には、彼女と反対方向へ廊下を歩く華城がいる。高嶺さんの存在に華城は気付いていない。

 リリーはまたしても外壁沿いに浮かび、その様子を窓の外から覗いていた。


 高嶺さんがスマホを取り出す。きっと、金髪ポニーテールちゃんのところへ華城発見の連絡をするつもりだろう。

 ここで僕は、リリーが何を懸念していたのかようやく理解した。悪寒を伴った鳥肌が全身をザアッと駆け抜ける。


 華城が振り向いた。

 それに気づいた高嶺さんは、慌ててスマホを隠す。


【ハナ。どうした】

【た、助けて華城くん! テロリストがうちの教室のみんなを人質にしてるんだ。すぐに教室に来て!】

【ああ、わかった。今から行く】


 華城は高嶺さんを通り過ぎて、さっさと階段へ歩いていく。

 首筋に冷や汗を垂らす高嶺さんがホッとしたような表情を浮かべていると、華城が立ち止まった。

 

【それで、君はどうして一人だけ逃げられたんだ?】

【…………えっと、】


 突き刺すような華城の視線に射抜かれて、高嶺さんの瞳が揺れる。

 一つの雑音もない、完全なる静寂が支配する超思念(ハイパー・ソーツ)の通信回線。

 華城の瞳が緑色に変わった。

 

 瞬間、目まぐるしく動くリリーの視界。

 ガラスの割れる音と、ドガアン、という爆発かそれとも掘削かというような轟音。

 リリーの視界には、ひっつくくらいの距離感で高嶺さんの顔が映っている。きっと高嶺さんを抱きかかえているんだと思う。

 二階の窓から外へ離脱したかと思うと急旋回、一階廊下へと舞い込んだ。

 そのまま校舎内をすっ飛ばし、角を一つ曲がったところでリリーは高嶺さんを下ろす。


【早く逃げて! 華城に見つかったら殺されるから】


 高嶺さんは泣きそうな顔で何度も頷き、もつれる足を必死に動かして駆け出した。

 何が起こったのか全くわからない。

 さっきの音は何?


 リリーは飛行しながら階段を上昇して二階へ戻ろうとする。

 二階に上がってすぐのところで華城と鉢合わせた。


 華城の瞳が、またしても鮮緑に(きら)めく。

 直後、リリーが戦闘不能になった。

 僕の視界の端、リリーのコンディションを示すアバターは胴のところで真っ二つだ。

 あまりの事態に性的興奮は抑圧されてTP値は100を切る。アバターの服はスカートの長い制服へと強制的に戻された。


【くっ……やっぱゲイボルグナンバーワンは伊達じゃないなぁ】

【どうも。それにしてもよくわかったね】

【テロリストに従う者も許さないんだろ? どうせテロに屈するなとかそういう】

【俺を教室に連れて行くタイミングを敵へ知らせようとした。ハナは奴らに加担する『悪』だ。悪はその場で裁かねばならない】

【銃で脅されて、奴らの命令を無視するのが怖かったんだ! そんなハナを殺そうとするなんて、いくら何でもやりすぎに決まってる】

【悪の手先に堕ちれば正義は死ぬ。たとえ一般国民であろうと正義のために命を捧げなければならない。それは人と呼べる最低限のラインだ。ハナは人であることをやめた。悪に(くみ)する有害な動物は直ちにこの場で殺処分する】

「【はぁ……?】」


 リリーの怒りは、彼女を具現化している僕の怒りだ。

 それほど僕らの感情はリンクしていた。もしかすると、使い続けるうち主の感情や考えが超思念(ハイパー・ソーツ)に宿るのだろうか。

 だけど、怒れば怒るほどTP値の上昇は叶わなくなる。

 この感情は邪魔だ。


【ハナの量刑に関する協議は決裂ということだな。待ってろ星井。まずはテロリストが優先だから後回しにしてやるが、奴らの次はハナとお前だ】


 華城は走って三階へと向かった。この感じではすぐに辿り着くだろう。

 対して、リリーはまだ復元の見込みがない。僕は早くムラムラしなけりゃならないんだけど……。

 

 くそ。

 どうしてもムカつく。

 あの野郎。

 やっぱ許しておけんわ。

 何が勇者だ、ただの殺人鬼じゃないか!


 教室の入口に華城の姿が現れた。今度は僕自身の視界に映っている。


 華城の瞳が緑色に光ったかと思うと、教室にいる全てのテロリストは発砲する(いとま)も与えられずに体を二つか三つに分断された。溢れた血と肉片が床に散らばり、生臭い血の臭いが教室へ漂っていく。


 あんなに可愛かった金髪ポニーテールちゃんも生首が転がっている。

 教室にいたクラスメイトたちはあまりの事態に絶叫だ。腰を抜かして、血の海の中でぺたんと座り込んでいる奴もいる。


 ──この能力は一体なんだ? 

 

 確かこいつの能力名称は「竜殺しの聖剣(アスカロン)」だったはずだけど……対象を叩き斬る能力なのは間違いないが、全く剣が見えない。


「やあ、星井。こんなところにいたんだね。テロリストを目の前にして黙って捕まっているとは、ほんと君みたいな情けないヒーローは初めて見たよ。

 力が無いことは同情に値するが、問題はそこじゃなく君らがとった行動だ。君の思念体はヒーローとしては最優先で対応すべきテロリストの殲滅よりも先に俺のところへやって来たよね? 釈明してくれるかな」


 ここでこいつの質問へ馬鹿正直に答えたらどうなる?

 まず、高嶺さんの件が協議の範疇かどうかが少し微妙だ。


 協議とは、二人以上のヒーローがそれぞれで判定した量刑について食い違った場合の措置。今回は、華城が判定するであろう量刑が僕としては不服だから、高嶺さんを護るために先回りしてリリーを向かわせたということになる。


 だけど、その時点では華城がどう判定するか確定してはいなかった。あくまで僕の推測だ。

 なら、テロリストの危機を放っておいて高嶺さんのところへリリーを行かせた僕は、そもそもそれ自体がヒーローとして罪になったりするのだろうか。


 ……いや。華城の考え方は過去の実績からも明白であり、高嶺さんの命の危機が現に存在すると僕が判断してもおかしくない状況だった。

 他のクラスメイトと高嶺さんの命に優劣がない以上、これは高嶺さんの罪をどう考えるかという「協議の範疇」として扱うことができるはず。

 それはすなわち、僕の正義と華城の正義のぶつかり合いなんだ。

 怖気(おじけ)()くな!


「あのまま放っておいたらお前は間違いなく高嶺さんを殺したろ。だからそっちを優先したんだよ。事実そうだったろ?」 


 ふふ、と華城は笑う。


「そうか。ならハナの罪(・・・・)に関する協議ということだな。君の正義が正しいか、俺の正義が正しいか」

「いや」


 僕は、キッパリと断った。


「協議しない。お前の好きなようにやっていいよ華城。僕は別に、自分自身の判断にそれほど自信があるわけじゃない」

 

 今のお前の顔は怪訝そのものだな、華城。

 こう言えばお前は、僕のことをどうにもできない。


「……食えない奴だ。何を考えている?」

「お前もな。素直に信じろよ」

「まあいい。俺は俺の信じる通りにさせてもらう」


 戦略的撤退は正義に反しない。それはリリーが前に言っていたことだ。

 華城よ。お前は高嶺さんが隠れそうな場所に見当がついていないだろ? 全く彼女のことを見ず、自分のことだけを考えて彼女を追いかけ回していたんだからな。

 だけど僕は見当がついている。彼女が話してくれたから。


 だから、まだ勝負はついていないんだよ?



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