17 リスクを背負ったエロ
ひとまず、別部隊のほうは全て片付いた。
リリーは校舎の内外を低空飛行して敵の探索を続けていたんだけど、リリーよりも先に僕が敵を見つけた。
それはつまり、金髪ポニーテールちゃんの一団が、僕ら一年生の教室がある三階まで上がって来てしまったということだ。
廊下の先にいる異様な武装集団は、一直線にこちらへやってくる。
「高嶺さん、奴らここへ来る! 急いでリリーを呼び戻すけど、とりあえずみんなと窓際へ寄って!」
「ユウキはどうするの!?」
「僕もみんなに紛れながら、時間を稼ぐよ」
TP値は緩やかに下降線を描き、今は1万程度。エロコンテンツから意識を遠ざければ当然こうなる。この能力、マジで使いずらい。
エロ動画を見るために急いでスマホを操作していると、僕らの教室の出入り口にとうとう奴らが現れた。
「諸君、初めまして。我々はアズリエルという。まあわかりやすく言えばテロリストということになるな。華城はいるか」
誰も答えようとしない。
ま、そりゃそうだ。映画やアニメでしか見たことのない凶悪な武器の数々を現実に突きつけられているこの状況で、簡単に口を開ける奴なんてそうそういない。
おそらく誰も反応しないことを理由に、金髪ポニーテールは天井へ向けて連射銃撃を敢行した。空気を震わす破裂音にクラスメイト全員が体を丸める。
パラパラと天井素材が落ちてくるなか、全員が怯えた表情で発砲者を見つめた。
「華城はいるか」
「ここにはいません」
高嶺さんが、一歩前に出てテロリストへ告げた。
「そうか。ならここへ呼べ」
「呼ばなかったら、どうするんですか」
鼓膜を突き刺すサブマシンガンの凶撃が、高嶺さんの顔から少しだけそれたところを通過して窓ガラスを割った。それによって高嶺さんの髪がふわっと揺れる。
「次は当てる」
硝煙の臭いが立ち込めるなか雑談を交わすように告げられ、高嶺さんの体が細かく震える。太ももの内側を伝った液体が、彼女の足元に水溜りを作っていく。
……なんか、微妙に淫靡だ。
金髪ポニーテールちゃんは失禁の湖が十分に大きくなるのを見届けたあと、高嶺さんが普段からよく喋っている友達の女子を仲間の兵隊に捕えさせ、その子の頬へ銃口を擦り付けた。
「10分以内に連れて来れなかったらこいつを殺す。お前、こいつの連絡先は知っているか? 見つけたらこいつに連絡しろ」
「はい」
うわずった声で従順に返事をした高嶺さんは、少しだけ僕へ視線を送ったあと、逃げるように教室を出て行った。
◾️ ◾️ ◾️
【リリー! まずい。高嶺さんの友達が人質にされた! 高嶺さんは華城を見つけろって命令されてる】
頼れるのはリリーしかいない。
そして、リリーが強くなれるかどうかは僕にかかっている。
【まずいのは、きっとそっちじゃないね】
【へ? どういうこと?】
【テロリストは、ユウキがその気になればあたしでも単独で殲滅するのはそんなに苦労しないはず。問題は過剰な正義を振るう君の天敵だよ。
本当はテロリストの殲滅が優先されるべきなんだけど、今回あたしは、君がいる教室へは行かずにハナを追う。不安と恐怖でどんどんTPが下がってるから、マジで気合い入れて欲情しろって】
【……うん。ごめん】
1万TPでも、とりあえずまだミルキは維持できているらしい。
リリーは宙に浮かびながら喋っている。
【……ふふ。そうは言っても、よくやってるよ君は。ほぼ実践経験ゼロなんだから】
【…………】
無言の時間を経てからリリーは愛らしい声になる。
確か、ずっと僕が観ていた作品の中のリリーは、こんな感じの声だった。
【君は深刻に考える必要はないんだ。ただエロいことだけ考えてればいい。あとは全部あたしがやる】
【なんか僕、それじゃロクデナシみたいなんだけど】
【君はわかってると思うけど、念のため一つだけ言っておくね。あたしが勝つか負けるかの戦闘に入るとき、この前の人質立てこもりの時と同じで、君は絶対に現場へ来ちゃダメだよ。君は無防備なんだから】
【………どうして、僕はこんなに弱いんだろう】
人に全部任せて、自分は安全なところでエロ動画でも観てればいいなんて。
そんなの、望んでいなかった。
【通常、ハイパー・ソーツに目覚めた人間は、自分の能力とは別に、体を頑丈にするエネルギーオーラを全身に纏う。もちろんそれは防御のため。ソウルマインダーは、ヒーローとなる者へTP値に見合った鎧を与えるんだ。強くなれば銃弾くらいでは死ななくなる。
でも君にはそれがない。君はなぜか、自分自身を護るエネルギーの鎧を与えられていないんだ。その代わり離れたところであたしが戦える。だから、絶対に戦場へ出てきてはダメ。何があってもね】
ずっとヒーローになりたかった。ようやくその夢を叶えた。
あらゆる敵を打ち破る、絶対無敵のヒーロー。でもその力を手にしたのは華城だ。
僕の能力はヒーローっぽくないし、強くもない。
ハイパー・ソーツに目覚めても、結局は本当の意味で僕はヒーローになれていないんだ。
【なんか余計なこと考えてる気がするから教えてあげる。君の能力の真髄は、あたしが思うにTP値の高さだと思うよ】
【……どういうこと】
【防御にエネルギーを割り当てられていないからこそ、リスクを背負ってあたしに注がれるエネルギーは他者をはるかに圧倒するはず。そのエネルギーを得られるかどうかは君次第だけどね】
小さく微笑むリリーの声が、ハイパー・ソーツの通信回線を通じて聞こえる。
校舎の外壁に沿って高速ですっ飛ぶリリーの視界を、僕はただ見つめていた。




