表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

16 蒼の剣閃




「でも、ユウキはなんでそんなことになっちゃったの」

「それ、またでいい? 今ちょっと時間がないから」


 強引に高嶺さんの追撃を遮断して、スマホだけを凝視することにした。そんなに疑わしげな顔で見つめないでほしい。

 教室にいるクラスメイトたちは、華城の言いつけを守って窓側には近づかず、廊下に出て別のクラスの友達と話し、抱き合って震えていた。


 サイトを開いてお気に入り一欄をタップしようとした途端、新着動画の一番上にあったサムネイルに目を奪われた。

 エロアニメだ。しかもこれ、猫獣人のエロアニメ!

 めっちゃ可愛いデザインだ。絵師のセンスが素晴らしい……!


 TP値は100万前後まで上昇した。


 なんか僕って、どんな(ひど)いことが起こってもムラムラしたら全部スッキリ忘れちゃうタイプなのかもしれない。

 だってもうテロリストとか一瞬にしてどうでも良くなってる感がある。それよりこの猫獣人の女の子がどうやってにゃんにゃんするのかが気になって仕方がない。


【……サンクス。復元完了したよ。てかスゲーなやっぱ君は。もうTP100万超えてんじゃん。復元の所要時間が6時間から15秒に短縮された時はさすがのあたしもエッてなったわ。絶対に男優の素質がある】


「あの。……あの! ユウキ!」

「えっ。何」


 リリーに何か言い返そうと悶々していたらまたもや外界からの情報に気付けず。やっぱりこの通信方法は案外危険だ。

 高嶺さんが自分の目を片手で覆いながら指差していたのは、僕の股間が描く爆変形した横向き放物線。

 それに気づいた僕は、慌てて体を机に密着させてブツ(・・)を机の中へ押し込んだ。


「あっ……と。その、リリーは復活したよ。しばらくは大丈夫だと思う」

「…………すごいね」

 

 うっとりしたような表情を浮かべる高嶺さんが何に感心したのか僕はよくわからなかったが、ひとまず山場は乗り越えたようだ。

 リリーの視界映像は、再び鳥のように宙を舞って校舎のほうへと向かっていた。ミルキモード復活だ。


【ユウキ、見えたよ。奴らは北校舎の1階廊下にいる。なんかあの黒髪ポニーテールのメガネ女教師……なんだっけ。八雲先生か。と向かい合ってるんだけど】

【リリー、助けよう! 先生が死んじゃうよ】


 あの先生好きなんだよね。チンチクリンで人懐っこい笑顔が可愛くて、おっとりしていて人が良さそうで。お嫁さんにピッタリって感じ。

 だから死んでほしくないんだ。


【うん……そうなんだけど、なんか様子が変。ちょっとだけ待ったほうがいいかも】

【え?】

 

 ふわっと飛ぶリリーは校舎の1階と2階の間の外壁に張り付き、1階の窓の上側からこっそり覗いて廊下にいるテロリストを(うかが)う。

 リリーの聴覚を通じて、テロリストと八雲先生の会話が聞こえてきた。


【直ちにこの学校から立ち去りなさい】

【はっ……この学舎(まなびや)の奴らはどいつもこいつも命が惜しくないと見える。正面から入った部隊も、抵抗した女をさっそく一人殺したと聞いているぞ。これがおもちゃだとでも思ってるか?】


 八雲先生にサブマシンガンが向けられる。

 こっちはどうやら別働隊らしい。さっきの金髪ポニーテールちゃんがいない。ゴツい男ばっかりだから絵面的に興味の湧かない部隊。どうやら今喋った男はリーダー格っぽい。

 いずれにしてもさっきのリリーの件を見る限りこいつらは女性相手でも容赦しない。このままでは八雲先生が危ないんだけど、なぜリリーは待てと言ったのか。

 ……と考えていると想定外のことが起こった。

 いつの間にか苦無(くない)のようなものを逆手で握っていた八雲先生の瞳が、真っ青に輝いたんだ。


【ヒーローはそこかしこに存在する。もちろん全てのヒーローはギルドに所属しなければならないが、ギルドにも色々あってな。『学校ギルド』に所属するヒーローは、学校を護るためだけに存在する】


 言い終えたのが早いか、先生の黒いポニーテールが水平に流れた。

 リリーの視覚映像で見ても動きは捉えられない。完全に消えた。たん、たん、と妙な音がするのはおそらく八雲先生が壁や天井を蹴っている音だろうとかろうじて僕は理解する。

 

【退却だ! ここはダメだっ】


 リーダー格の男が必死に叫ぶ。その理由は、彼の真隣に立っていた男の首が、僅かに光の尾を引いた剣線によって飛ばされたからだ。首の断面から垂直方向へと勢いよく噴射された血液が混乱を呼び視界を阻害し、いつもの廊下を真っ赤に染めた。

 煌めく残線だけがその存在を知らせる透明凶獣の檻と化す。テロリストたちは一目散に駆け出し、我先にと外への脱出口へ戻ろうとする。


【風魔真影流・火の術『炎龍花』】


 授業と変わらない先生の声が呪文のような言葉を唱え終えると、廊下を走った一筋の火跡が逃げるテロリストを追いかけた。まるでドラゴンのようにうねりながら標的を追跡した火走りは、獲物を捕らえたと同時に花のように開いて爆炎現象へと発展する。 


 20人以上いたテロリストたちはその半数近くが出口に辿り着くことなく息絶え、運良く生き残った者は運動場へ慌てて退避していた。

 廊下に積み上がる屍の山を横目に見ながら、リリーは窓から廊下へ侵入。


【やっほ。先生強いね。もしかしてニンジャ?】

【君は星井くんのハイパー・ソーツだね。『君もヒーローなんだから生徒たちを護ってね』って彼に伝えといて】


 返り血で真っ赤に染まった八雲先生が、いつものように人懐っこい笑顔を浮かべる。

 騙された。鬼だったこの人。瞳を青にしたままこっち見ないで怖いから。


 と、そのとき叫び声が聞こえた。これはリリーの聴覚情報だ。

 でも、リリーの叫び声じゃない。きっとリリーの近くで何かが起こったんだ。


【リリー! 何があった?】


 リリーは運動場へと視線を向ける。どうやらそっちから叫び声が聞こえたらしい。

 運動場には、さっき逃げたテロリストの残党たちを細切れにした華城が、屍の中で一人立っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ