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15 人間をやめた外道ども




 思念の番人(ソウルマインダー)に向けて僕は二つの願いを飛ばす。

 一つは、リリーの視覚情報を僕の視界の中に映し出すこと。

 もう一つは、リリーとの念話(テレパシー)を作動させること。


【ユウキ。正門と裏門の二手に分かれて武装したテロ集団がいる。併せて総勢50名程度、思念の番人(ソウルマインダー)が映像照合した感じきっと反政府組織アズリエルだ】

【それって、このまえ首相官邸にロケット弾を撃ち込んでゲイボルグに全滅させられた奴らがいるテロ組織だよね? なんの変哲もない高校になんでそんな奴らが殴り込みに来んの?】

【あの事案の制圧ミッションを遂行したチームのエースヒーローは、華城(かじょう)だよ】


 まさか、自分たちの部隊を殲滅させたヒーローへの報復か?

 今まで華城は数え切れないほどの悪を断じてきたはず。でも、通っている高校を襲撃されたことは一度もなかった。


 上空を飛ぶリリーの視界で確認すると、裏門から入ってきたらしい団体は運動場を堂々と進行している最中。映画でしか見たことのないロケットランチャー、グレネードランチャー、ライフルやサブマシンガンのような凶悪な武器を装備した屈強そうな男たちだ。

 その男たちの先頭には、タンクトップと迷彩パンツを着た金髪ポニーテールの女が位置取っていた。


 大空を飛ぶリリーの視点はまるで鳥。

 運動場の上空を旋回しながら徐々に高度を下げる。

 テロリストたちはロケットランチャーを構えたが、金髪ポニーテールがそれを制した。彼らはリリーを撃ち落とすことなく、空から舞い降りてきた女の子をただただ視線で追う。

 土埃とともにフワッと着地したリリーが金髪ポニーテールと交わす会話は、リリーの聴覚を通じて僕へと伝えられた。


【こんにちは。君たちはアズリエルだよね】

超思念(ハイパー・ソーツ)の使い手か。人間をやめた外道どもが……手前勝手に他人を裁き、自らの国を修羅の地にするだけでは飽き足らず世界中を破滅に(いざな)おうとするクソどもだ。先日は世話になったな。華城マサヨシを出せ。奴の命と引き換えにこの学校の子どもは見逃してやる】


 やはりだ。奴らの目的はこれではっきりした。とりあえず華城が出ていけば全て収まるってことだ。むしろあいつの責任でこうなってんじゃないの?

「君は責任を取れるのか」とか偉そうに僕へ述べておいて、あいつのせいで学校が破壊されてんだけど。


 いやそんなことよりこの金髪さんめっちゃ可愛いな……。

 タンクトップが体のラインをぴっちりと浮き出させていて、引き締まった筋肉がなんか新鮮だ。目つきの鋭さは僕なんかを受け入れてくれそうな雰囲気ゼロなんだけど、むしろ容赦無く痛めつけてきそうな眼光に体の芯からソワソワさせられる。


 TP値がピピっと動き、+50万発生。


【ユウキ。今なんでTP上がった?】

【何でもありません】

【……まあいいわ。とりあえず開戦する? それとも華城を待つ?】

【ねえ、『誘惑(テンプテーション)』でこいつら全員倒せないかな。対象ってやっぱ一人だけ?】

【今TP1000万超えてるし、ここにいる全員いける】


 ステータス欄に、明滅する緑色の文字が現れる。

 そこには、


誘惑(テンプテーション)−乱交ver.】


 きっとこれ、リリーを見たテロリストどもの願望を反映してるんだろう。ちょっとした読心も兼ねてるなこの能力。

 それにしても、これを高校の運動場ですることになるとは。

 それはそれで新しいな……そんなの見たことないぞ。どんなシナリオになるんだろう。大人の組体操的な?

 なんかワクワクしてきた……!


 正面に見える男たちの目が明らかにトロッてきた。内側から暴れる欲望を我慢できない顔だなこれ。

 男たちはガチャガチャと音を立てて持っていた武器を落とす。

 

 と、


 ガガガガガガガッ


 金髪ポニーテールちゃんのサブマシンガンが火を吹いた。

 リリーの視界が揺れて、目の前に地面がアップで映る。どうやら撃たれて倒れたらしい。

 続いて金髪ポニーちゃんの声が聞こえてくる。


【……ふん。妙な技を使いやがって。お前ら油断するな、敵はヒーローどもだ。何かがおかしいと思ったら即座に撃て】


【リリー! どうなった?】


 返信がない。

 人質立てこもり犯の時もリリーは攻撃されて倒れたっぽかったけど無事だった。別に死んだりとかはないと思うけどリリーは今どうなってるんだろ。

 なんとかして分からないかな……。

 

 と考えていると、僕の視界の端に人形のようなものが表示された。

 ピンク髪の、胸の大きな女子。服装は制服だ。でもスカートは長い。

 あれ? これ、もしかしてリリーじゃないか? 


 そうだ。きっとリリーのアバターだ。

 だって、服のあちこちに血が(にじ)んでいて額にも穴が空いている。さっき撃たれたリリーの状態を表していたとしたら理解できる。

 間違いない。

 願えば叶う、それが超思念(ハイパー・ソーツ)の操作原則なんだ!

 

【あーあ、撃たれちゃった】

【大丈夫? 『誘惑(テンプテーション)』が効いてたように見えたのに。なんでだろ?】

【あの女、たぶん性欲が無い(・・)。だから効かなかったっぽい】

【無い? そんな人間いんの】

【わかんない。誰しも少しくらいはあると思うんだけどね。長年ゲリラやっててメンタルが壊れてんのかな。とりあえずごめん、ちょっとのあいだ動けない】

【どうして? だってリリーは、TP値が上がったら無敵の強さを誇ってたじゃないか】

【今のTP値を見てよ】


 リリーに言われてステータス欄を確認する。

 現在のTP値は10だった。

 どうやら僕のメンタルが影響してムラムラ感が霧散してしまったようだ。

 確かに、ミルキモードも解除されている。


【君はね、あたしの心配なんてしてる暇があったらエロ動画でも見なさいっての】

【知らず知らずのうちにTPが下がっちゃってたのか】

【いくらエネルギー体でも、損傷を受けたら復元しなきゃいけない。復元には膨大なエネルギーが必要なんだ。TP値が高い時は簡単に復元できちゃうけど、低い時にはなかなか復元が進まないんだよ。今の状態のままだと何時間もかかっちゃう。だから早くムラムラして欲しいんだけど】

【そ、そんなこと言っても、こんな状況で】

【できなきゃ誰かが死ぬ。それだけだよ。いずれあいつらはユウキのいる教室まで辿り着く。あたしか華城がなんとかしない限りね】


 リリーの視界が地面に突っ伏していて、テロリストたちの動向を見ることができない。きっと首を動かすこともできないんだろう。

 ざっ、ざっという足音だけが聞こえる。間違いなく校舎のほうへ行くつもりだ。


「ユウキ。どうしたの」


 頭の中に溢れる情報で手一杯になっていて、外界のことが疎かになっていた。このシステムは便利だけど、こういう弱点があるのかもしれない。

 僕に声をかけてきたのは、教室にいる高嶺さんだった。


「うん……リリーがやられて」

「えっ……でも、この前はすごく強かったじゃない」

「それがね、リリーは僕の精神状態によって強さが変わるんだ。今、リリーは強くなれてなくて」

「武器を持ってる奴らが乗り込んで来たんでしょ? 怖いよ……」

「ごめんね、心配させて」

「どうやったらリリーは強くなるの?」


 なんか言うのが躊躇(ためら)われるんだけど。軽蔑されそうで。

 そんな場合じゃないか。命がかかってるんだし。


「あのね。僕が性的に興奮したら、リリーは強くなるんだよ」

「……何それ」


 やっぱり言うんじゃなかったかなぁ……。

 クズを見るような高嶺さんの視線に耐えながら、僕はお腹の前で両手の人差し指を突き合わせてクネクネしていた。



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