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13 水と油の女の子たち




 朝、自室で目が覚めてまず初めにしたことは、毎日の寝起きを充実化させるために天井に貼った巨乳グラビアアイドルのポスターをひとしきり愛でること。


 そのまま頭だけを横に向けると、リリーは昨日買ってあげたファッション雑誌を熱心に読んでいた。


 ソウルマインダーシステムにログインしてステータス欄を呼び出す。

 現在のTP値は50万。

 ルーティンで見るポスター程度で出る数値にしてはちょっと高すぎる気はしたが、おそらく朝特有の現象がポスターのポテンシャルを相乗効果で跳ね上げて超思念(ハイパー・ソーツ)の出力を後押ししているんだろう。

 仕組みが複雑すぎる。この力を使いこなすにはまだまだ精進が必要のようだ。


 リリーはどうやらファッションに興味があるらしい。自分の着ている服が、いや正確には着ているのではないけれど一応こういう表現をしておこう。着ている服が毎日同じということには耐えられないというか、頻繁に変えたいという衝動に駆られているようだ。

 僕の欲望が爆発する時には強制的に服装をエロく変貌させられてしまう彼女だけど、普段は自分の思い通りの服にすることができるみたい。


「おはよう、リリー。また雑誌を見てるの?」

「うん、元々好きなの。ファッション関係の専門学校にでも通おうかな」

「え? どうして?」

「せっかくの第二の人生(・・・・・)なんだしさ? そういう仕事とかも面白そうかなって」


 とうとう夢を語り出した。エネルギー体の就職活動、一体何個ハードルがあるのか気が遠くなる。


「エネルギー体って就職できるのかな」

「ぜーんぜん問題ないっしょ。問題は能力だよ、それさえあれば使ってくれるって。あたし、イメージした服をその場ですぐさま具現化できるんだよ? 相当便利だと思うし」


 朝っぱらから元気なリリーを連れて学校へ。

 僕が教室へ入ると高嶺さんはいの一番に視線を合わせてくれたんだけど、青天のように表情を明るくしたのも束の間、なぜかすぐに曇らせ彼女は浮かない顔になる。

 高嶺さんは僕とリリーを教室から連れ出すと、僕を放って女子二人で妙なやりとりを始めた。


「あの。リリーさんて、いつも星井くんと一緒にいますよね」

「うん。そりゃあたしはユウキが超思念(ハイパー・ソーツ)によって具現化したエネルギー体だから。先生がみんなの前で説明したでしょ?」

「じゃあ、星井くんの意思で出したり消せたりできるんですか?」

「できないなぁ」

「なんでですか?」

「なんでですかって言われても。戦う時以外は現実の女の子と何も変わらない。そりゃ健康診断でも受ければ完全バレるけど」

「……現実の、女の子」


 高嶺さんは、意味を噛み砕くようにオウム返しする。


「じゃあ、その、そういうこと(・・・・・・)も……」

「うん。できるよ」


 僕は驚きをもってリリーを見つめる。

 リリーは、パチンときれいなウインクで返してきた。

 高嶺さんの顔色が変わる。


「まさか、星井くんと一緒に住んでます?」

「もちろん。あたしはユウキの能力そのものだからね」

「そう……ですよね。でも、まさかエネルギー体となんて、星井くん、しないよね」


 急にこちらへ話を振られた。

 答えを一歩間違えればとんでもないことになりそうな表情をするのはやめてほしい。


「しない よ」

「だよね! それによく考えたら、エネルギー体ってことは人形とおんなじだもんね。なんの感動もないし、やっぱり人間とはぜーんぜん違うよね。あはは」


 今度はリリーが顔色を変えた。

 僕は二人の顔へ交互に視線を移す。


「こうして話をしている様子からも分かってもらえると思うけど、自我も感情も記憶も、寸分違わずオリジナルのリリーを完コピしてる。肌の感触も、匂いも、汗とかその他の体液も、行為(・・)に伴う痛覚や快感もぜーんぶ実物を再現してるよ? 

 それに、一回あたりにつき一定の確率で、男の子の遺伝子を解析した上で超思念(ハイパー・ソーツ)によって造られたエネルギー体の子供を作る事もできるし」


 そんなアホな。

 話の内容にショックを受けたのか、高嶺さんは唇を震わせていた。


「そ、そんなの嘘っぽいし」

「試してみよっか。ね、ユウキ」

「でもさ。そもそも僕、超思念(ハイパー・ソーツ)を授かる時にそんなこと願った記憶がないんだけど。本当に子供なんて作れるの?」

「願ってなければこうはなってないよ。あたしの最新作って、確か──」

「あ」


 しばらくの間。


「……ユウキくん」

「はぃ」

「私、今日、ユウキくんの家に泊まっていい?」

「待って待って! いきなり何言ってんの?」

「だって子供を作る気なんでしょ!! 同じ部屋で二人っきりになんてしたら」

「だからって君が泊まりになんて来たら、それこそ君が! そんなの嫌でしょ!?」

「…………」


 なんとか言って? 

 周囲にいた生徒たちが「子供を作る気」のあたりでこちらを向いたがそれに構っている場合じゃない。


「ねえ高嶺さん。僕とリリーは言わばヒーローとしてのコンビだから。そんなことしないから」

「ハナでいいよ。私もユウキって呼ぶから今後」


 何がどうなって僕が高嶺さんを(なだ)めているのか。

 リリーは、ここで僕を後ろから優しく抱きしめた。


「本当にしないの? 見てよこのカラダ。君の理想の結晶だよ? それに、理想的なのは見た目だけじゃないって君も知ってるはずだよね。何度も何度も観てくれたんだもんね」

「何度も見た? 何それ」

「こっちの話」

 

 高嶺さんは下唇を噛みしめた。

 リリーはようやく溜飲が下がったのか、そんな高嶺さんの頭をなでなでする。

 

「なーんてね。冗談冗談。可愛いなぁハナは。あたしとユウキは超思念(ハイパー・ソーツ)で繋がったヒーローとしてのパートナーだよ? ユウキが求めない限り(・・・・・・・・・・)、あたしからは求めないからマジで」

「あんたには下の名前呼び許可してないけど。……本当に?」

「うんうん。だから、ユウキとハナのことも応援するよ! 二日に一回くらいストレス解消にユウキを貸してくれたらそれでいいから。結構良いモノ持ってんだよねこいつ」


 どうやら水と油らしい。

 頭を撫でるリリーの手をパシッと(はた)いた高嶺さんは、授業が始まるギリギリまでリリーと睨み合っていた。



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