12 ヒーローってカッコいいよね
仕事を終え、学校へ帰る前にヒーローギルド・アステリアへ寄った。
今回の仕事はまあまあ専門的な仕事だったように思う。ぶっつけ本番で対応できた僕ってすごくない?
「TP1000万級の奴ならこのくらい楽勝だろ。報酬は見たか?」
あまり他人を褒める人ではないのかもしれない。若者はもっと褒めたほうが伸びると思うよ?
現場経験がない僕はそれどころじゃなかったので全然見てなかったけど、この前の婦女暴行犯ですら100万円くらい入ってたんだし今回はもっとありそうな気がするな。
どれどれ。
「え……500万円?」
「もし犯罪者を殺していたら、今後の罪の可能性も摘んだということで多少上乗せされる」
殺したら上乗せがあるとか、どことなくヒーロー業界の闇を感じるなぁ。
それにしても華城め。あいつまさか、偉そうなことを散々宣っておいて金が目的なんじゃないだろうな。
……さすがにそれはないか? そういうのを思念の番人が見逃すとは思えないし。というか殺したら上乗せするシステムにしといて金に目が眩んだら資格剥奪とか罠だろ。
皇さんが雀卓に戻りたそうにしていたので、僕はこのくらいで話を切ることにした。
これだけお金が稼げたらお父さんとお母さん、絶対に喜ぶと思う。リリーに掻き乱された夫婦仲もこれでなんとか収まるかもしれない。
学校へ着いた時にはちょうどお昼。
いつも僕は食堂でサンドイッチを買って、空いているベンチに座って一人で食べている。
今日もそうしようかと思っていた矢先、高嶺さんが僕に声をかけてきた。
「あの。もしよかったら、一緒に食べない?」
「あ……うん。別にいいけど」
是非! とか言える性格じゃなくて。
「嫌だけど仕方ないからいいよ」的な雰囲気が出てないかなと心配になる。
本当は、ずっと暗雲が立ち込めて何も良いことなんて起こらなかった僕の人生で、ようやく何かが始まりそうな気がしてめちゃくちゃ嬉しかったんだ。
今日は雲ひとつない秋晴れだ。
跳ねる鼓動を必死に抑えながら高嶺さんの隣を歩く。
すぐ近くにいる高嶺さんから、甘くも爽やかな女子の匂いが漂ってくる。
「でも、高嶺さんには嫌われちゃったかと思ってたんだ」
「どうして?」
「だって、あの不良たちを、僕は殺さなかったから……」
「殺して欲しいって思ってたよ。だって、同情する余地もないくらい悪い人たちなんだもん。でも、星井くんから言われた言葉をあとでよく考えてみて、ちょっとショックを受けたんだ。星井くんは、たとえ悪党でも命は簡単に奪っちゃダメだって思ってるんだよね?」
「うん……」
どうだろう。
まあ、確かに概ねそういうニュアンスで合っている気がしなくはないが。
人を殺した悪党には死罪で妥当だと思うけど、そうじゃない悪党にはきっちりトドメを刺すまではいかないかなぁ、くらいの。
ダラダラ説明難しいしこれ以上喋るのやめよう。
「ガツンと叱られた気がしたんだ。悪党には手心を加えなくていいっていうのが普通の考えだと思ってたから、そんなふうに言われたことなくて……。でも、取り返しがつかないことをする前に自分でよく考えろっていうのは何だか分かる気がする。
だから、なんか嬉しい。私のために言ってくれてるのかもって思ったら、もっと言って欲しくなっちゃった。星井くんって、案外男らしいんだね」
僕が女子から一度も向けられたことのない感情を、高嶺さんは自分の視線に乗せて僕へと送ってくる。
心地いいとは思ったけど、初めてのことだから戸惑いのほうが大きかったかもしれない。
リリーは、僕が何も言わなくても僕たちから距離を離すという配慮をしてくれた。
おかげで僕らは二人でサンドイッチを買いに食堂で並び、そのまま二人でベンチに座っている。
「今日のお仕事はうまくいったみたいだね。もうネットニュースに速報が出てたよ」
「あ、うん。なんとか」
「本当にすごいね。ヒーローとしての仕事は初めてでしょ? それなのに人質立てこもり事件を一瞬で解決するなんて、マジですごいよ」
「えっと、うん。ありがと」
ここでうまく会話できるようなら陰キャだなんて言われていない。
ま、この応答は既定路線だ。
それにしても、彼女はよっぽどヒーローが好きなんだろうと思う。僕がヒーローだとわかった途端に、急に態度が変わったし。
ただ、そう考えると疑問が浮かぶ。
「あの。クラスには華城もいるよね。僕よりも華城のほうがヒーローとして明らかに実績があってすごいよ? 高嶺さんは、華城のことはどう思ってるの」
こんなことを尋ねたら、高嶺さんとの楽しい時間が早くも終わりを迎えちゃうかもしれない。
我ながら馬鹿な質問だとは思うが僕はどうしても気になっていた。
僕に優しくしてくれるのは嬉しいけど、どうして僕なのか。
華城がいるはずのこのクラスで、僕はずっと虐められてきた。
当然だが、奴らは先生や華城の目の届くところで僕をいたぶったりはしない。
それに、奴らは僕が華城と仲良くないことも知っていた。だから、僕が華城に告げ口することはないと確信していた。
僕のことを気持ち悪いと思っているクラスメイトたちは、僕のことを助けることはなかった。
僕の味方をする奴なんてこのクラスには一人もいない。それはもちろん目の前にいるこの高嶺さんも同じはずなんだ。
この子もまた、僕のことを見て見ぬふりをしてきた人間。
それに、同じヒーローなら華城のほうが強いし有名だし、何と言っても顔がいい。
だから、余計に高嶺さんが僕へ好意的な視線を向けてくれる理由が思いつかなかった。
「あの人、ちょっと気難しくてさ」
「まあ……確かにね」
「正義が過剰っていうの? あいつの意見には私も概ね賛成なんだけど、細かいところまで『それは違う』みたいなことをチクチクと突っかかってくるんだ。そこどうでも良くない? って思ちゃう。一緒にいると窮屈だし、つい喧嘩しちゃうっていうか。それがいい加減うっとうしくてさ。私が納得しないといつまでも追っかけてきて諭そうとすんの。休み時間とかそれで潰れるしマジでウザくない?」
「はは。確かにそれはウザいね」
「でしょー。そういう時は私、よく体育館の倉庫に隠れてスマホいじってたね。バスケのボールとか色々置いてあるあの倉庫だよ。体育館も倉庫も鍵は閉まってんだけど、職員室に鍵取りに行っても男の先生とかあたしには超優しいから理由も聞かずに普通に貸してくれんの。クソ真面目なあいつはまさか鍵開けてまで体育倉庫に私が隠れてるって思ってなくて一回も見つからなかったし。ウケるでしょ」
愛想笑いで誤魔化したけど、話すときの彼女の様子でわかってしまった。
全く予想してなかった訳ではないけど、本人の口から聞くと結構堪えるなぁ。
なるほど、ね。
なんかおかしいとは思ったけど、僕は華城の代わりってわけか。もしこれで僕が高嶺さんと結ばれたりすることがあったら、僕と華城は兄弟。僕は弟ってわけだ。
それにしても、僕のことなんて今まで一瞥すらしなかったのにね。
「高嶺さんは、ヒーローが大好きなんだね」
「うん。だってカッコいいじゃん」
カラッとした笑顔を作る彼女の答えは単純明快だ。僕がヒーローだと分かった瞬間にすり寄ってきたのも素直に頷ける。
あれ? そういや。
「あの時さ、どうして僕がヒーローだってわかったの? 不良を倒したのはリリーだったのに」
あの状況なら、当然リリーがヒーローだと思うはず。
今にしてみれば疑問が湧く。
「星井くん、瞳が金色に光ってたんだよ。あれって確かヒーローの証じゃない?」
長年ヒーローに憧れてきた僕としたことが、こんな初歩的なことを失念するとは。戦いの最中に鏡なんて見れないからすっかり忘れていたけど、そう言われて思い出した。
ヒーローは、TP値が高まったときには超思念が作り出すエネルギーがオーバーフローして瞳が明るく輝くんだ。
その色はヒーローによって違うが、今の話だとどうやら僕は金色だったらしい。
「だからすぐに分かったんだよ。君だって」
好意を纏った彼女の視線が、僕の胸を高鳴らせる。
時を経るにつれて戸惑いは薄れていき、いつの間にかずっと見ていたいと思わせられている。
やっぱり、僕は彼女のことが好きだ。




