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11 罪の量刑




 リリーのところへ僕が合流した時には、犯罪者二人は身の程(・・・)というものをしこたま鞭で叩き込まれたあとだった。

 声を掛けると、女王様はゾクっとするほど冷たい流し目を僕へも向けてくる。一瞬僕も叩き込まれるのかと思ってしまったくらいだ。


「ユウキ。こいつらの量刑を決めてよ。殺すならあたしがやるから」

「殺せ殺せって、君はよっぽど僕を殺人者にしたいんだね。正義のヒーローとは思えないんだけど」


 ま、こんなことを言ってる僕も、今まで画面の向こう側にいる犯罪者たちが厳しく処罰されることに特段の感情は持ち合わせていなかった。

 悪い奴なんだからしょうがないと思うし、それ自体は今もそんなに変わったってわけじゃない。世論にしても、ネットを見れば「悪は徹底的に断じろ」って意見が多数なのは明らかだ。


 そしてこの首謀者の女性は同情の余地がないレベルで悪党。エネルギー体とはいえリリーをバッサリ斬ったし。手下の男も人の良さそうな奴だが共犯であり同罪。

 つまり、ヒーローに殺されても文句は言えない。


 だけど、殺す殺さないを判断する以前に二人とも服ごと肌を鞭で破られて隙間がないくらいに全身ミミズ腫れ。女性のほうなんて手首も落とされてる。リリーから止血処置をきちんと施された上でバシバシ叩かれてるからこいつきっと深く混乱してるだろうな。


 というか既に二人ともぐったりしてるんだけどショック死してないよね? まあ死んだら死んだでこの人たちの場合は正直仕方がないとも思うけど。

 ここまでやったら、これ以上はしなくて良くない? って思っちゃう。それは僕が甘いのか。


 この仕事をする上で僕の先輩とも言える華城(かじょう)は、このことについてどう考えてきたのか。

 あんな奴がどうしてきたとしても僕は今まで全然興味がなかったんだけど、不良三人組のことがあったので、あれから興味が湧いて色々調べてみたんだ。


 スマホで英雄省の公式HPにアクセスして調べてみた結果、華城は、自らが担当した犯罪者はほぼ例外なく殺していた。

「華城が殺した」とは書かれていない。しかし、罪を犯した犯罪者が事案発生日に死罪になるなんてこと、普通の裁判でできるはずはない。つまり、それは華城が裁いていることに他ならない。


 華城が担当した犯罪者の中には、若い男女も、お爺さんもお婆さんも、子供だっている。そしてその全てが死亡している。

 

「ユウキ。どうするの?」


 僕の思った通りにやれとリリーは言った。

 華城は確かにトップヒーローだけど、僕だってもうヒーローなんだ。

 殺すのがやりすぎだと思った時は、その気持ちに従えばいいだけだ。


 というか華城と同じことなんて死んでもやりたくない。「エロ動画に傾倒するなど馬鹿のやることだ」とあいつが断じてから僕はあいつと絶交することに決めているのでね。

 よって、僕の方針は明確に決まった。


「殺さないよ。警察に任せる」

「……ふふ」

「なんだよ。笑いたきゃ笑えばいいよ」 

「他人の真似をする必要はないよ。君は君の正義を貫けばいい。あたしは、そのために全力を尽くすから」


 大勢やってきていた警察官たちへ、犯罪者の身柄を引き渡す。

 とりあえずリリーが浴びてる返り血を洗ってあげないといけない。

 服装は元々自由に変えられるらしく、裸モードと着衣モードは変更できるようだ。

 なので、服についた血液は服を消せば簡単に落とせるのだけれど、なぜか肌についた汚れはそういうことができないらしい。


「なんでなの?」

「任意で消せちゃったら興醒めでしょ。嫌がってもどうにもできないシチュエーションが作れない」


 とんでもない理由を聞かされて一瞬絶句する。さすがの僕も思念の番人(ソウルマインダー)の細やかすぎる配慮がだんだん怖くなってきた。それを言うなら服も同じだと思うけど、バトル中に僕の興奮度を上げるためには服の変更が優先だろうから、そこは思念の番人(ソウルマインダー)も涙を飲んだのかもしれない。

 リリーってやっぱりそういうことする前提で具現化されてんだね……。


 露出の多い衣装のせいで返り血はかなり肌へ付着している。

 ともかく家へ帰ってリリーをお風呂に入らそうか……と考えていると、僕の進路を塞ぐ一人の人物が現れた。


 微妙に色素が薄い生来のダークブラウンの髪はミディアムで、顔の造形は鬱陶しいくらいにイケメンだ。身長も高く、スラッとした(たたず)まいは僕とはまるで正反対。

 目の前に立っていたのは、華城だ。


「へぇ。無事だったんだ。任務が成功して何よりだよ」

「……なんだよ。なんの用だ」

「人質立てこもりは最悪まあまあ難度が高くなるから大丈夫かなぁと思って来てみたんだけど、案外やるんだね。その感じだとTPも50万くらいはありそうだし。ま、最下級ギルドのヒーローを全うできるくらいの実力はありそうだ」


 こうしてわざわざ来ているのだから一応は心配しているのかもしれないが余計なディスりが8割を占めている。こっちだってお前なんかに助けてほしくない。

 いや、偵察だということも考えられるな。同じクラスに、自分以外に別のヒーローが誕生したんだ。こいつほどのエリートが僕程度を気にする必要があるかどうかは微妙だが……


「それで? どうしてとどめを刺さない」

「……はぁ? 逆にどうしてそこまでする必要があるのか分かんないな」

「あんな奴ら、釈放されたら今後どこかで害を及ぼすのは確定だ。この場で処分するのが正しいに決まっているだろ。釈放されたあいつらが次は人を殺したりしたら完全に君のせいだよ。君は責任を取れるのか?」

「はっ。子供でも無情に殺すお前は正義どころかただの無差別殺人者だろ。お前に責任の話なんてする資格があるか?」


 華城はため息をつく。

 まるで馬鹿を見るような目つきだ。


「子供には無限の可能性があると誰かが言っていたな。もちろんそれは、取り返しのつかない悪を生む可能性も無限にあるということだ。未来の巨悪の芽を摘むのもヒーローの仕事だ」

「だから、誰がその子のことを巨悪だって決めたんだ……」

「もちろん俺だよ。俺が担当した事案では俺が決める。何を勘違いしているのか知らんが最初からそれがヒーローの役割であり責務だ。悪を制圧し、裁き、滅ぼす。僅かな可能性すら残さず徹底的にな。何の罪も犯していない者が悪のせいで犠牲になることなど決してあってはならない。君もヒーローになったのなら、少なくともヒーローのイロハくらいは分かっていないとな。まあ最下層のギルドでは仕方がないかもしれないが」

「余計なお世話だ、それがやりすぎだって言ってんだよ。神にでもなったつもりか? 僕の前でお前の正義を振りかざすな」


 華城は嬉しそうに微笑む。

 

 なんか思い出した。

 僕らが子供の頃──まだこいつがヒーローになる前。

 僕がこうやって対抗心をむき出しにすると、よくこんな笑顔になっていた。

 懐かしいがクソな思い出だ。もちろん仲良しこよしってわけじゃないので僕らは敵意剥き出しのまま睨み合い、最後のセリフを吐き合った。


「現場で鉢合わせて考え方がぶつからないことを願っているよ。いくら俺でも、かつての友達を殺すのは気が引ける」

「やれるものならやってみろ。お前の性癖がどんなのか、楽しみにしてるからな」

 


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