act7 恋愛講義 その3
それから一週間、僕等はフライドポテトとディップソースの制作に取り掛かっていた。
長い質の良いジャガイモと植物油の用意と揚げ具合の研究。そしてチーズや塩ダレなどのディップソースの材料を準備する。
何かポテトと相性が良いのか。何が美味しいかを見極める為だ。料理研究は主に僕とハルシェシスが担っている。
「うん、チーズはポテトにかなり合うね。それとトマトソースも中々合うよ」
僕はフライドポテトを試作品のディップに付けて味を確かめる。
「そうね、あと岩塩と蜂蜜を混ぜたソースも中々合うわよ」
ハルシェシスも色々試作品を作っていた。
「……そして、あたしが酒の摘みとしてフライドポテトを堪能すると……」
祖母ちゃんはヴィーテを片手に試作品をパクリと食す。
「ね、ねえ、アンナ、アンタ、何かちょっとずるくない?」
ハルシェシスが摘まみ食いをしている祖母ちゃんに顔を顰める。
「何がずるいもんかい、あたしは味を見極めているのさ、何が一番美味しいかをね……」
祖母ちゃんは悪びれる様子もなくパクパクフライドポテトを平げていく。
「じゃあ、どれが美味しかったの?」
ハルシェシスが問い掛ける。
「そうだね、あたしの好みは岩塩と乾燥したバジルを粉々にしたのを混ぜたヤツかな」
祖母ちゃんは器を指差しながら答えた。
「あっ、それアタシが考えたヤツじゃない」
「うん、それ凄く美味しかったよ」
「そ、そう言われると何だか照れくさいわね」
ハルシェシスはちょっと嬉しそうだ。
「いやいや、しかしながら、アクアが人魚の国のお姫様だったとは驚きだったよね」
改まって祖母ちゃんがアクアを見ながら言った。
「言うのが遅くなって申し訳なかったです。でも別に隠していた訳じゃないんですよ、先生……」
アクアは小さく頭を下げる。
「別に責めている訳じゃないよ、ただ驚いただけさ、それにお姫様だがらこそ、こんな立派な厨房を無料で貸してもらえたりしている訳だしね」
そうなのだ。アクアが人魚の国のお姫様だったという事実が判明したのだ。
そして、そんな立場だからこそ、馴染みの酒場のオーナーから使っていない厨房を提供してもらう事が出来て、フライドポテトの試作品を作れる事が出来ているのである。
「そうね、ケーキにしても、フライドポテトにしても、じっくり美味しいのが研究出来るのが良いわよね」
ハルシェシスは自分の作ったバジル岩塩ディップにポテトを付けてつまみ食いをしながら言う。
そんなこんな色々研修を重ねた結果、美味しいポテト、美味しいディップが完成した。究極のポテトだ。
そして、再び泉でのデートの日がやってきたのだ。
「フレデリック様、約束通り、フライドポテトを持ってきましたよ、一緒に食べましょう」
アクアは可愛らしく微笑みながら声を掛ける。
フライドポテトは紙の袋に摘みやすいように入れてあり直ぐに食べれるようにしてあった。
「悪いな、先週のケーキに引き続き、またご馳走になってしまって……」
「そんなの良いんですよ、私、作るのが好きだから。フレデリック様が美味しいって言ってくれるのが嬉しくて……」
アクアは少しだけ顔を赤らめながら言った。これも祖母ちゃんの作戦だ。キュンとさせる効果があるらしい。
「はいどうぞ、召し上がれ」
「あ、ああ、凄く美味しそうだよ」
フレデリックが指を伸ばす。
「あっ、そうだ忘れてた。ディップを用意していたんです」
「ディップ? 何だいそれ?」
「フライドポテトに付けて食べるソースみたいな物です」
アクアは傍に5種類のソースを並べた。
「チーズのソースとか、岩塩のソースがあります。ポテトをちょんちょんと付けて食べてみてください」
フレデリックはポテトを液体チーズのソースに付ける。
「こうか?」
「ええ、食べてみてください」
「ああ」
フレデリックはチーズがたっぷり付いたポテトを口に含む。
「うおっ、美味い! これヤバいぐらい旨いぞ!」
フレデリックは歓喜の声を上げる。
「こっちのソースも美味しいですよ、あ~ん」
バジル岩塩のパウダーが付いたポテトをアクアがフレデリックの口に運ぶ。
「あ~ん」
フレデリックアクアの差し出したポテトを口にする。
「うおおおおおおおっ! ヤバい、こっちも、ヤバい位に美味いぞ!」
フレデリックは唸り続ける。
「じゃあ、フレデリック様、私にチーズの付いたの頂けますか」
「お、おう」
フレデリックはポテトにチーズを付ける。
「あ~ん」
アクアは可愛く口を開ける。
「あ~ん」
アクアに感化されフレデリックも、あ~んと口ずさむ。
「うん、美味しいですね、良かった上手く出来て」
何度も言うがアクアは全く料理を作っていない。
「アクアの作る料理は何でも美味しい。ヤバいぐらい美味しい。そしてアクアの笑顔はとても可愛い……」
落ちた。
僕は思った。祖母ちゃんもハルシェシスもバステトもペーターも横で頷いている。
それから、アクアとフレデリックはしばらくポテトを食べながら語らい合っていた。もう後は二人が二人の時間を重ねるだけにまで至ったようだ。そして、自然とキスまでしている。
もう手助けは不要な領域まできたと言えよう。料理の腕を磨いてもらい、最終的には結婚まで至ると。
その後の二人は笑い合いながら夕方まで過ごしていた。
「いやったわ!」
一日を過ごし終え、夕暮れとともに別れたアクアが興奮気味に声を上げる。
「ああ、もう大丈夫だね、正直あたし達が出来るのは此処までだよ。あとできる事といったら料理修行位なもんだね」
「ええ、先生、本当にありがとうございました。お陰様で上手くいきましたよ」
アクアは深々と頭を下げてくる。
「いや、良かった、良かっただよ。ところでさ、本当に種族間の問題とか子供の問題とかは大丈夫なんだろうね?」
祖母ちゃんは改まり心配そうに問い掛ける。
「は、はい、何とかします」
「ん? 何とかします? 愛があれば子供は出来るとか何とか言ってなかったかい……」
「はい、何とかします」
「何とかって、何とか出来るのかい?」
そこまで言った所で、アクアは少し躊躇いがちに後を続ける。
「どうしても難しそうなら、私はドラゴニュートになる薬を飲みます。そして、ドラゴニュートとしてフレデリック様と添い遂げますから」
「えっ、ドラゴニュートになる薬? そんなものがあるのかい? それと、その薬は飲んでも平気なのかい?」
確かに怪しい話だ。例え異世界だとしてもそんな種族を変える薬なんかはとても良い物とは思えない。副作用や副反応や弊害がありそうに思えてならないぞ。
「それにあんた人魚族のお姫様なんだろう? いいのかい種族を変えるような真似して……」
「姉が居りますから多分大丈夫だと思いますけど」
「父王とか母王妃とかは人魚でなくなる事を許してくれるのかい?」
「…………」
アクアは声を詰まらす。




