act6 恋愛講義 その2
いずれにしても、いよいよ実践が行われる事になった。
先ず、僕とバステトが使者としてドラゴニュート族の国へ訪れる。国と言っても一つの山を領有し、支配している位の雰囲気だった。そこでフレデリック王子と何とかお礼の話をして、約束を取り付け、待ち合わせの場所、時間などを決めて引き返す。
お膳立てはした。後は祖母ちゃんから講義を受けたアクアがどれだけフレデリック王子の心に切り込めるかだ。
そして、二人は最初にアクアを目撃した泉で会う事になったのだ。
「フレデリック様、先日は絡まれている私を助けて頂いてありがとうございました」
「いや、別に大したことはしてないぞ、俺としては矢張り正直お礼をされる程ではないと思ってるが……」
フレデリックは相変わらず困惑したような表情をしている。
「そんな事はありません、私は本当に助かりました。大変ありがとうございました」
アクアは笑顔でお礼を述べる。祖母ちゃんに言われたように笑顔を絶やさない。中々いい感じだ。
「今日はお礼としてケーキを作って来たんです。一緒に食べて頂けますか?」
「ああ、ありがとう。勿論一緒に食べさせて頂くよ」
これも中々良い。お礼も畏まった感じではなく一緒に食べる物だ。相手を構えさせない良き流れだ。
まあ正直な所を言うと、僕とハルシェシスがせっせと作ったケーキだ。
二人は泉の畔の岩に腰かけてアクアの持参したケーキを食べる。食べやすいように包み紙を剝くだけで食べれるようになっていた。
「おっ、美味しい! これ美味しいぞ!」
頬張ったフレデリック王子が声を上げる。
「うん、中々美味しく出来ましたね」
アクアも少し食べて頷く。
「フレデリック様のお好みはどういった感じですか? もう少し好みに近づけてみたいと思いますけど」
「えっ、俺の好みだって? いや、もう、今食べたのが凄く美味しかったから、今のが俺の好みって感じだよ」
「本当ですか、じゃあ、また作ってきますね」
アクアはまた微笑む。
フレデリック王子が単純な思考の持ち主だという事が伺い知れた。感性で良いと思ったものが良いと思うタイプだ。先入観が少ないから取り入り易いと言えよう。
「じゃあ、フレデリック様はどんな食べ物がお好みですか? 今度は甘い物じゃなくてお食事としてなのですけど……」
「好きな食い物が何かって事か?」
「ええ」
フレデリックは顎に手を添えて考え込む。
「そうだな、個人的には芋を揚げたのが結構好きかな、それに塩を振って食べるのが……」
「ああ、フライドポテトですね、じゃあ、今度はフライドポテトを作って持ってきますね、一緒に食べましょう。私もフライドポテト好きなんです」
「えっ、良いのか? 面倒じゃないか? それにお礼はもうこれ以上は……」
「いいえ、作るのも好きなんで大丈夫です。それと今度のはお礼じゃないですよ。フレデリック様と一緒にご飯を食べるのが楽しいので、そうしたいと思ったからです」
「本当か?」
「ええ」
アクアは優しく微笑む。
胃袋を掴むというのは鉄則らしい。だが作るのは恐らく僕達だ。本当のアクアは作るのは全然好きじゃない。
「じゃあ、来週持ってきますよ、また来週ここ会ってもらえますか?」
アクアは上目使いで訴える。
「ああ、勿論だ。こちらこそよろしく頼むよ」
「じゃあ、約束ですよ」
アクアは小指を立てる。
「えっ、これ何をすれば良いんだ?」
「小指と小指を絡ませるんです。約束の誓いとして」
「あ、ああ、了解だ」
アクアとフレデリックは小指を絡ませた。なんか相当良い雰囲気だ。
「じゃあ、今日の所はこれで……」
アクアは余りしつこく成らない程度で引いていく。これもアドバイス通りだ。
「ああ、アクア、また来週ここで待っているよ」
フレデリックは名残惜しそうに呟いた。
「じゃあ、また」
アクアは笑顔で手を振り去って行く。
そんなこんなで実践は相当上手くいった。想像以上の出来だった。
「いや、凄いです! 先生の恋愛テクニックはヤバいですよ!」
僕等の元に戻ってきたアクアは感動気味に言及する。
「ふふふ、そうだろう、そうだろう、古くなんてないんだよ……」
祖母ちゃんも嬉しそうに答える。
僕自身は祖母ちゃんの恋愛テクニックに半信半疑だったが、そうまで言われるとなると本物だったようだ。
「それで、先生、この先はどう進めれば良いのでしょうか?」
まるで信者のようにアクアは教えを乞う。
「まあ、先ず言えるのは焦っちゃ駄目だって事だ。じっくりいかないとね」
祖母ちゃんはアクアの逸る心を律する。
「兎に角、来週だよ来週会う時にスーパーでミラクルなフライドポテトを持参するんだよ、ディップも沢山用意してね」
「ディップ?」
「ポテトを付けるソースだよ、何種類か用意するんだ。それが新鮮だし、あ~んの切っ掛けになる」
「あ~んの切っ掛け?」
なんだそれは?
「ああ、食べさせてあげる、あ~んと、食べさせてもらう、あ~んがある。そこまで行ったら略々完璧だ」
「えっ、それってどういう?」
改めて祖母ちゃんがアクアに耳打ちする。それを聞いたアクアは顔を少し赤らめながらうんうん頷く。
「おおっ、す、凄いです。そこまで行ったら、もう完全に付き合っていますね」
「そうよ」
そんなこんな恋愛計画は着実に進んでいったのである




