act7 王子の召使
「馬鹿! このカエル馬鹿王子! バレちまうじゃないか!」
改まって祖母ちゃんが苦言を言う。
「だ、だって…… ハインリッヒが国を治めているだなんて聞いたから!」
ミカエルは悔しそうに吐き捨てる。
「なあ、でもよ、不在だから代理で国を治めてるって事はねえかな? それで一応、王の帰りを待っているとかよう?」
ペーターはミカエルを気遣ってか、前向きな意見を言ってきた。
「いや、残念だけど、それはないね、一年も経つのに、ほったらかしで探しにも来なければ迎えにも来ない。現にこいつは隣の国で野垂れ死に寸前だったんだよ、国を治めて王の帰りを待っているだけなんてあり得ないだろ! ハインリッヒとやらはこいつがカエルになった事は知っているだ。カエルだろうが何だろうが、呪われちまった王子として皆に伝えて守ってやるのが本当の家来だろ!」
祖母ちゃんは叫ぶように言及する。そして大きく息を吐いた。
「とにかく状況は解った。あんたの国は部下に乗っ取られちまったのは間違いない。それを打破するには人間の王子の姿に戻って、皆の前に現れ王は自分であると宣言する。それでも皆がお前の味方をしてくれるか解らないが、そこまでは必ずやらなければならないとあたしは考える。ハインリッヒの統治が悪く、お前が民衆から人気があれば、本物の後継者だし。少なからずお前を支持してくれるだろうさ」
祖母ちゃんの意見を聞きながら、僕は浮かんだ疑問を問い掛ける。
「でも、王子の姿に戻るのはかなり難しいんじゃない? 真実のキスをしなければならないんでしょ? 相手はどうするの? それとカエルの姿だよ、ちゃんとキスしてくれるかな?」
祖母ちゃんは不敵な笑いを浮かべる。
「そんなこんなで、あたしはカエルが王子に戻る為のニつの方法を同時進行で進めていこうと考えているんだ」
「二つの方法? それは?」
僕は問い掛ける。
「ああ、一つ目は何度も話に出ている真実のキスだ。とにかく相手を見付けて何とかキスをさせて呪いを解くって事だ……」
「順当だね」
祖母ちゃんは鼻で笑う。
「もう一つは、呪いを掛けた相手を見つけ出して呪いを解いてもううか、それが出来なけらば退治するんだ。つまり殺すという事さ……」
「……呪いは解いてくれないじゃないかな? で、解いてくれない場合は、ま、魔法使いを殺して強引に呪いを消すっていうことかい……」
僕はぞくりとする。
「おいおい、それ、できるのかよ? 相手は魔法使いだろ? それなりに手強いんじゃねえか?」
ペーターは慎重な意見を言ってくる。
「ふふふ、敵の弱点を突くんだよ」
「弱点だと?」
ペーターは首を傾げる。
「どんなに強い魔法使いであろうとも、弱点をつけば意外と脆いもんさ……」
「へ~っ、ちなみにどんな弱点があるんだよ?」
「そ、そんなものはまだ解る訳ないじゃないか、これから調べるんだよ、きっと何かある筈だよ!」
祖母ちゃんはペーターに力説している。
何やら自信満々なんで、既に弱点を知っているものかと思ってしまった。
「ただね、あたしとしては、魔法使いを退治する事よりも、まずは真実のキスで呪いを解く方を優先させたいと思っているんだよ」
「思っているって、さっきも指摘したけど、相手はどうするのさ?」
今度は僕が問い掛ける。
改まって祖母ちゃんは横目でミカエルを見た。
「だ、か、ら、あんた! 此処はあんたの国だろ! 誰かいないのかい? あんたに気があった女の子とかだよ!」
「えっ」
ミカエルは急に振られて戸惑った表情をする。
「曲がりなりにも王子だったんだ、王子様、キャー素敵とか、王子様、お慕いもうしております。とか言ってくる女子はいなかったのかい?」
「えっ、いや、どうだろう? い、いたかな……」
自信なさげにミカエルは答える。
「ね、ねえ、祖母ちゃん! そんなミーハーぽいのは駄目なんじゃない? 求められているのは真実のキスだよ」
「むむむ……」
改まって今度は僕がミカエルに問い掛ける。
「ねえ、ミカエルさん…… 君の事を本当に好きだった人はいなかったの? 君は何とも思っていなかったかもしれないけど、君の事を好きだったんじゃないかな? と思われるような女性は?」
ミカエルは考えこむ。
しばし考え込んだ後、思い付いたように声を上げた。
「あっ、そうだ! メアリーだ! メアリーは多分、私の事を好きだったはずだよ」
「メアリー? そいつは子爵とかの娘かい?」
祖母ちゃんが問い掛ける。
「い、いや、私の面倒をみてくれていた召使の女の子だよ、先輩の召使に怒られている時に何度も庇ってあげたんだ」
「おおおおおおおおおおおおおおっ」
確かに可能性が高そうだ。
「良いじゃないか! その娘だ! その娘とあんたのラブラブ大作戦だよ!」
何やらネーミングが古いぞ。
「その子は可愛い顔しているのかい?」
「いや、普通だよ、真面目な感じかな」
「年の頃は?」
「15歳位だったかな?」
「良い、凄っっく良い。その娘に決定! あんた、あんたの将来の結婚相手はその娘だ。そのつもりで口説いて口説いて口説きまくれ!」
祖母ちゃんは決めつける。
「で、でも、上手く行くかな…… 私は特にメアリーを好きという訳ではなかったし……」
「ば、馬鹿ちんが! 選り好みしている場合か! あんた自分の姿を解ってんのかい? あんたが選ぶんじゃなくて、いかにあんたを選んでくれるかなんだよ!」
祖母ちゃんは叫ぶ。
「まあまあ、祖母ちゃん、いずれにしてもメアリーさんに会ってみない事には上手く行きそうかどうかすら解らないよ、現在のメアリーさんには好きな人がいたりするかもしれないしさ」
僕は場を鎮めるように言及する。
「むむむ…… 確かに好きな人や恋人がいたら計画は破綻だね」
「明日、メアリーさんに接触してみるというのはどうだろう? その上で方向性を決めようよ」
「そうだね、了解だよ」
そんなこんな、飯屋での情報収集と明日からどう行動するかなどの話し合いを経て、ラブラブ大作戦は明日に持ち越しとなった。
その夜は僕達は近くの宿屋に泊まる事となったのだ。