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ちょこっとポンコツな ハンス・アンデルスン15才の異世界見聞録  作者: Y・セイ
ーEpisode one カエルの王子
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act4  王子の国へ

 祖母ばあちゃんの話を聞いて動揺しているのか、カエルは振るえる手で蜜酒を口に運んだ。


「そ、そんな事は……」


「あんた、王子だと言ったけど、父王はどうしているんだい?」


「父王は二年程前に亡くなりました。私は十八歳の年に即位する予定です」


「状況が揃い過ぎてるね、今頃そのハインリッヒが王様になっちゃっているんじゃないかい?」


「…………」


 カエルは不安そうな表情を浮かべる。


「兎に角、兎に角だ。この国にいても問題は何一つ解決しないとみた。あんたはあんたの国に帰るべきだよ、ペテンの可能性が無い訳じゃなけど、あんたの話を聞いてみて一応は真実なんじゃないかとあたしは思い始めている。お礼目当てではないけど、あんたが可哀そう過ぎるから手助けをしてあげるわよ。あんたの国に行こうじゃないか」


 祖母ちゃんは僕を見る。


「良いねハンス?」


「僕は構わないけど」


 そんな僕らの問答を聞いていたカエルはシクシク泣き始めた。


「あ、ありがとうございます。本当に本当に深く感謝します…… 見ず知らずの私にこんなに親身になってくれて……」


「まあ、元気を出しなよ、先ずは腹ごしらえをしないと、食べた食べた!」


「は、はい! じゃあ、ばくばくばく、ああ、美味しい! 美味ひいれす」


 またカエルは凄い勢いで食べ始める。


「だ、か、ら、あたしらの分もあるんだから! 食べ過ぎんなって言っているでしょ!」


「…………はい」


 そんなこんな僕達も、魚のフライや焼いた鶏肉を口にしていく。


 弱り切っていたカエルは食事を摂り、少し先行きも見えてきた事から、体も心に関しても大分生気を取り戻してきているように見える。


「……あの、ア、アンナさん…… 一つ思い付いたのですが、こんなにも私に親身になってくれましたけど、アンナさんが私にキスをしてくれたら呪いが解けたりしないですかね?」


「えっ、あたしがかい?」


 とんでもない展開だ。


「ええ、私の事を思い、そして親身になってくれだじゃないですか……」


「マジかい…… 確かにそれで解ければ話は早いけどさ……」


「あの、ちょっと試していただけませんか?」


「……えっ、……それは嫌だ」


 祖母ちゃんは顔を顰める。


「えっ、どうして?」


「気持ち悪いから……」


「…………」


 カエルは悲しそうな顔をする。


「……ちょっとだけで良いからお願いします。唇と唇が一瞬くっ付くだけで良いですから」


「ほら祖母ちゃん、ここで呪いが解けたら城に国に戻るだけで問題解決するかもしれないよ、やってみたらどうだろう?」


「ハ、ハンス、あんたまで、そういう事を言うのかい!」


 祖母ちゃんは凄い顔で僕を睨む。


「お願いしますよ、アンナさん」


「祖母ちゃん、頑張ってみてあげてよ!」


 祖母ちゃんはしばし考え込んでいる。


「一瞬だけ触れてみようか…… 確かに変わったら変わったで話が大分簡単になるし……」


「お願いします! ありがとうございます!」


 カエルは深々と頭を下げる。


「仕方が無いね…… それじゃあ…… ピッと一瞬だけだよ」


 そんなこんなで、カエルの口先と祖母ちゃんの口先が近づく、カエルは積極的に、祖母ちゃんは顔を近づけたくない気配があり口先だけを伸ばしている感じだ。


「ん、ん…… ぷちゅ」


 唇と唇が触れた瞬間。


「ぶふぶ…… ぶばっ!」


 祖母ちゃんが噴出した。大量の唾がカエルの顔に吹きかかる。


「……こ、こ、こ、こ、これはやばい! 生臭すぎるよ!」


「な、何てことするんですか! 吹き出すなんて……」


 カエルは腕で顔を拭う。


「やばい、やばかったね、でも、ピッと触れたけど、ほら元にもどらなかったろ! 無理なんだよ! あたしのは愛情じゃなくて哀情…… 哀れみだからね」


 そう言いながら祖母ちゃんは蜜酒をちょんちょんと唇に付けている。飲んでいる風だが飲んでいない。


「ア、アンナさん、一体、何をしているんですか?」


「えっ、消毒だよ」


「消毒…… 酷い事しないで下さい。とても傷つきます」


「まあ、一応だよ」


「……残念です……」


 結局、祖母ちゃんとのキスでは元には戻らなかった。予想していたけど。


「いやいや、しかしながら、カエルの姿だし、好きにならせて真実のキスとやらをさせるのは、かなりハードルが高いかもしれないね…… 生臭いし……」


 改まって祖母ちゃんが言及する。


「そうだね、何かを退治するとかよりも厄介な気がする。恋愛関係は気持ちの問題だからね……」


 僕も同意の頷きを示す。


 そんなこんな、食事を済ませた我々は、武器屋と道具屋に寄り多少の買い出しをした。携帯用食料やナイフとか防具とか服を購入したのだ。


 ナイフは二本買い、一本はピッケルの先端に縛り付け殺傷能力を高め、もう一本はカエルの持っていた木の杖の先に紐で縛り付け槍にした。


 更に僕は中古の胸当てとかを装着し、カエルには中古の鉄マスクを付けさせ長袖の服を着させた。彼の領地に入った際にカエルだとバレない様にする為だ。


 そんな準備が整った後、この国を後にした。向かうはカエルの王子の国だ。

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