act20 飛鼠王
城壁の上は乱戦状態だ。だが、その中で飛鼠王とハルシェシスとバステトの戦いが繰り広げられていた。
飛鼠王は一気に二十人近くを戦闘不能に陥らせたバステトと、二十人近くを一気に吹き飛ばしたハルシェシスを二対一で相手をしている。相当な強者のようだ。
「むむむむむ、邪魔ですねぇ~ 私達は此処で貴方達と遊んでいる暇はありませんよ」
飛鼠王は黒く禍々しいデザインの剣でハルシェシスとバステトの攻撃をいなしている。
「うるせえ! お前は俺っちが此処で仕留めてやる!」
バステトは細かく速い攻撃を繰り出し攻め込んで行く。
飛鼠王は上手くいなしてはいるが、ハルシェシスとバステトの攻撃は激しく、手一杯な雰囲気だった。
「ちっ、さすがにバステトとハルシェシスの二人の同時相手は厳しいか…… アーケ、ランホ、先にあの赤毛の女性を倒しなさい、早く橋の上の兵を流すのです」
傍で獣の兵を相手にしていた、翼竜っぽい側近二人に指示を出す。
「はっ、畏まりました、飛鼠王様」
指示を受けた翼竜っぽい二人は祖母ちゃんの元へと歩を向ける。
「あらあら、なんか、怪しげな雰囲気な奴らがやってきたよ!」
僕とペーターは祖母ちゃんの両脇に位置する。いつものフォーメーションだ。
「ヤイ・セイダマズル・アースメギン・ガストル・ゲイルエルダー!」
祖母ちゃんが牽制とばかりに炎の槍をぶちかました。
「むむっ、この女、魔法使いか……」
翼竜兵は手に持った盾で炎の槍を防ぐ。
「残念だけど、こちらも時間が余りないんだよ、なんで…… セイダマズル・アースメギン・ガストル・ディュルズ・トールデン!」
続けて祖母ちゃんの杖から稲妻が発せられ、二匹の翼竜兵は雷に打たれた。
「うがあああああああああああああああっ!」
炎の時と同じように盾で防御していたが、稲妻には効果は無いようだ。翼竜兵は膝を付いて動かなくなる。
「さてと、じゃあ、あたしは、あの邪魔っけな物を焼き払うよ!」
祖母ちゃんが再び杖を構えると少し浮かび上がった。僕は矢で、ペーターは浮かび上がり祖母ちゃんの援護を行う。
「ヤイ・セイダマズル・ウェルザンディ・エルダー・フラム!」
杖から炎が放たれた。高温の青っぽい火だ。それが土塁と城壁に掛かる橋を焼いていく。
燃え上がり、そして橋の上に群がるミッテン軍の兵たちもろとも崩れ落ちていった。
「ぬうおおおおおおおおおっ、な、何をやっているのだ、アーケとランホの奴は!」
飛鼠王は唸る。
後続は遮断した。今付近の敵は飛鼠王以下数百人程の兵だ。
「……ちっ、精鋭を揃えているとはいえ、こ、これではもう崩すのは無理ですね、余計な横槍をいれてくれた……」
飛鼠王は憎々し気な表情でハルシェシスとバステトを睨む。
「……仕方が無い、引きます! 引きますよ! 皆の者よ、退却です!」
「馬鹿野郎! 逃がすかよ!」
バステトは牙を剝く。
「残念ですが、兵達を無駄にする気はありません、ここは退却させてもらいますよ」
飛鼠王は周囲の者達の声を掛ける。
「私が殿を務めます。早く退却をしなさい」
「は、はっ、飛鼠王様」
城壁上にいるミッテン国の精鋭とやらはその多くが羽を持っている者達のようで、羽の無い翼竜のような、はたまた蝙蝠のような羽を広げ、どんどん城壁の外側に降りていく、
「アナタは逃がさないわよ!」
ハルシェシスは剣を構えながら叫んだ。
「ふふふ、作戦は失敗したが、貴様らをこのままという気はない、一矢報いてやろう……」
そう言及すると、飛鼠王は攻撃をいなしながら、何かぶつぶつと呟き始めた。
「な、なんだ? 呪文か?」
その妙な雰囲気に気が付いたのか、祖母ちゃんが叫ぶ。
「ヤバいよ! 皆、耳を抑えて、早く距離を取って!」
「ふふふ、ウルトラ・ソニック・ウエーブ! 喰らえええええぃ!」
突然、キーンという高い音が鳴ったかと思ったら、強力な波動が僕等に襲い掛かった。
「うわああああああああああああっ」
ハルシェシスも、バステトも、僕も、祖母ちゃんも、ペーターも、飛鼠王の傍に居た者は皆、十数メートル近く吹き飛ばされた。
「く、くそっ、こんな技があったなんて……」
僕は呻く。
「…………っ! …………」
何か変だ。祖母ちゃんが僕の方を向いて口をパクパクさせている。
「何?」
その時、僕は僕の発する声に音が無いことに気が付いた。
「……………」
祖母ちゃんの声も聞こえない。
耳をやられたらしい。何も聞こえなくなっている。
ハルシェシスやパステトも耳を叩いたりして異変を確認している。
そんな僕等を尻目に、飛鼠王は薄い笑いを浮かべながら黒い羽根を広げ城壁の外へと飛び去って行ってしまった。




