act14 鳥の国のホッグ王
結果、獣の国では取るに足らない些細なことだという認識を持っている事を知り、僕等は大分気持ちが楽になった。
つまり鳥の国を説得出来れば戦争を回避できるという事だ。だが、本当に説得できるのかはまだ分からないけど。
兎に角、鳥の国に赴き鳥の国の王と面会をし、無益な戦争を起こさない様に説得するしかない訳だ。
そんなこんなで僕等は一旦獣の国を離れて、鳥の国フゥル国へと引き返す事になった。
「しかしながら、上手く説得したい所だけど出来るのかねぇ……」
祖母ちゃんが顔を顰めながら言及する。
「つうか、今こそハルシェシスの出番じゃないのか、鳥の国の住人なんだしさ」
バステトはちらりと横目でハルシェシスを見る。
「アタシは知らないわよ、そもそもアタシは戦争が起ころうがどうでも良かったんだから、アンナが戦争を止めたいって言うから手伝っているだけで…… あと、バステトが張り切って説得するとか言っちゃうから責任重大になっちゃったじゃない……」
ハルシェシスは非難気に祖母ちゃんとバステトを見る。自分主導では仲裁をしたくないようだ。既に引退してしまっている事が気になっているのかもしれない。
「解ったよ、そこの所はあたしが頑張るよ、だけど鳥の国の王への橋渡しとか、フォローは頼むよ」
「ま、まあ、一応、そ、そこら辺は頑張るけどさ……」
祖母ちゃんの声にハルシェシスは渋々頷いた。
「なあ、ところでさあ、フゥル国に戻る前に、鳥と獣の国の国境付近にあるっていう紛争地域の島というのを見に行かないか? 若しかしたら何か解決策が思い付くかもしれないじゃないか」
ペーターが思い付いたような顔をして促してくる。
「な、なるほど、確かにそうだね、それはしておいた方が良いね、現場を見ておいた方が良い仲裁案とかを思い浮かぶかもしれないからね」
祖母ちゃんはペーターの意見に納得気味の表情を見せる。
「じゃあ、寄ってく?」
僕は皆を見ながら問い掛ける。
「そうだな、そうしようぜ!」
バステトは賛成だ。
「はい、そうしましょう。情報って大事だからね」
ハルシェシスも納得する。
そうして、僕達は鳥の国と獣の国が領有権を主張している国境沖合いの島を見に行く事になった。
一度、ディール国の海沿いへと出て、そのまま海岸線を南に下っていくと、左程大きくない海に浮かぶ島が見えてきた。
「あっ、あれじゃないか?」
ペーターが島を指を差す。
「ああ、そうだね、確かにあの島で間違いなさそうだね」
祖母ちゃんは頷く。
その島は海岸線から左程離れていなかった。距離にして500メートル位の沖合だ。そんな事もあり、一番近い陸地からだと容易に島の様子を仰ぎ見る事が出来た。
島には後ろ足だけで歩くセイウチのような獣が何匹もいた。それだけでなく二本足で歩く、ペンギンなのかウミガラスなのか判別できない鳥も沢山いた。
しばらく様子を見ていると、それらが何かをしている事が伝わってきた。
ペンギンのような生き物が海に飛び込んで魚を追い込んでいく。その先にはセイウチが網を持って待ち構えていて、魚を一網打尽にしていた。そして、その一網打尽にして捕った魚を、セイウチ達はペンギン達に分けているのだ。
「ねえ、あれって、鳥と獣が協力して魚を捕まえて、それを分け合っているって感じだよね?」
僕は思わず問い掛ける。誰に対してではない、全員に対してだ。
「ああ、その通りだね、鳥と獣が一緒に漁をしているよ……」
祖母ちゃんは感慨深げに頷く。
「……嗚呼、凄く良く、凄く美しい光景ね」
「おう、そうだな、俺っちもそう思うぜ」
ハルシェシスの呟きにバステトは相槌を打った。
「……この島はさ、獣の国のものでも、鳥の国のものでもないね、両方の国のものだよ、というか彼等のものだと言った方が正しいかな、共生をしているんだよ」
祖母ちゃんはそう言うとふうと息を吐く。
「じゃあ、そう説明して、鳥の国の王を説得するか? どっちの領土でもないって言ってさあ」
バステトが提案してくる。
「ああ、特定の誰かが欲しがっていいような島じゃないね、鳥の王には諦めてもらうしかないよ、逆に獣の王にも中立地帯として鳥やその他の種族の居住や滞在を認めてもらうよう許可してもらうように促す必要もあるね」
そう言いながら祖母ちゃんはバステトに微笑み掛ける。
「おう、そうだよな先生……」
バステトも笑い返す。
そんなこんな国境の島を見学し終えた僕等は国境を越えてフゥル国に戻った。
前回には寄らなかったフゥル国王都に赴きホッグ王との面会を果たすのだ。
フゥル国王都は、矢張り、茸のような岩山の上にあった。一際広く面積のある岩山の上に屋根がドーム状になった茸型の城が聳え立っていた。城に関しては地上世界のイスラム圏の神殿のような作りだった。
「いよいよ、鳥の王であるホッグ王に会う訳だけど、大丈夫そうかい?」
祖母ちゃんがハルシェシスに問い掛ける。
「そんなの解らないわよ、とにかくアプローチしてみるしかないわよ」
「まあ、そうだね」
祖母ちゃんは頷く。
そうして僕等は大人数が移動可能な空飛ぶ籠に乗り込み、その籠を大型の鸛などに牽引してもらい、王都の城の前まで着けてもらう。
門の前には鳥の国の方でも衛兵が門番として立っていた。鶏冠のある雉の一種のような鳥人だった。
「あ~、こんにちは、失礼します。久しぶりだけど、元国防大臣をしていたハルシェシスよ、ちょっと王様に謁見させて欲しいんだけど、取り次いで貰えるかしら?」
ハルシェシスはモジモジしながら問い掛ける。
「おっ、おお、ハルシェシス様じゃあないですか! お久しぶりで御座いますね、王様に謁見で御座いますか? それでは中に確認して参りますので、少々お待ちくださいませ」
雉の衛兵は少し慌てた様子で場内へと入り込んで行く。
「俺等、案内してもらえるかな?」
ペーターが様子をうかがいながら呟く。
「どうだろうね」
僕は返事をするが、引退後のハルシェシスの扱いがよく解らない。
しばらくすると、先程の雉頭の衛兵が戻って来る。
「どうぞお入りください。ご案内致します」
「ありがとう、宜しくね」
ディール国の時と同じように螺旋階段や長い廊下を抜け、広いホールに出た。その奥には絨毯が引かれた横に広い数段の階段があり、中央の椅子にはホッグ王と思われる人物が座っていた。大きい、とても大きい鳥人だった。巨大な鷲頭なのだが、ミミズクのような羽角が付いていて不思議な感じだ。
また、その横には側近なのか、片眼鏡を付けたミミズク頭の鳥人と、カラス頭の鳥人と、嘴と口の相まったような鳥というか羽毛で顔が覆われた蜥蜴のような鳥人が立っていた。
「王様、ハルシェシス様とお連れの者が訪ねて参りました」
雉頭の衛兵が呼びかける。
「むう、近こう寄れ」
嘴のない蜥蜴顔の側近が呼びかけてくる。
「はっ」
ハルシェシスと祖母ちゃんを中心に僕等五人は前に出る。ふと王の横に立つカラスに視線を送ると背中から生えた羽に赤や緑や青の羽が混じっているのに気が付いた。何か見覚えがあった。
「元国防大臣ハルシェシスと連れの者、ホッグ王に何用だ?」
そのまま蜥蜴頭の側近が呼びかけてくる。
改めてよく見ると、ホッグ王の体は相当大きく迫力はあるが、何かよぼよぼとした印象だった。




