act7 説得
案内された部屋は広いダイニングルームのようで、長いテーブルと椅子があった。
「どうぞ、そこら辺に座ってちょうだい」
「ああ、すまないね」
促された僕等は適当に腰を下ろした。
「ねえ、アンナ達は何が良い? 何を飲むかしら?」
「そうだね、じゃあ蜜酒を3つ頼むよ」
また酒だ……。
「了解よ」
しばらくすると、ハルシェシスに仕えている者達が蜜酒と軽食を持って来てくれた。
「ねえ、ハルシェシス、最近のこの国は随分と獣の国と揉めているらしいじゃないか、戦争目前だとか聞いたよ、バステトとは会ってないのかい?」
蜜酒を口にしながら、祖母ちゃんが問い掛ける。そのバステトってのは誰だ?
「まあ、あの子も引退しちゃったからねえ、あの子が獣の国の要職に残っていた時は色々話もしやすかったのだけど」
ハルシェシス自虐的に笑う。
「なるほど、バスティスが引退したんで、あんたもやる気がなくなって引退したって感じかい?」
「まあね、それも少しあるかしらね、ただアタシとしては、もう色々嫌になっちゃったのよ、なんで、今となってはこの国もこの国の王族もどうなろうと知った事じゃないわね……」
それを聞いた祖母ちゃんはふうと息を吐く。
「とはいえ、戦争は良くないよ、回避できるなら回避すべきだと思うけど……」
「でも、もう、アタシは関係ないわよ」
ハルシェシスはふんと顔を背ける。
「じゃあさ、その件は一度、置いて於いてさ、あんたコシチェイって存在を知ってるかい?」
祖母ちゃんは改まって問い掛ける。
「コシチェイ? 何それ、知らないわね、で、そのコシチェイっていうのは何者なのよ?」
「多分、今のこの世界に混乱と混沌を齎そうとしている者達って感じかねえ、ミズガルズの方で、クーデターを起こして軍事国家を作ろうとしたり、魔法で王国を森に飲み込ませたりと、元エインヘイヤルとしては見逃せないような事をしているんだよ、会ったそいつらは一応退治したり、封印したりしたけどね」
「ふ~ん、そうなのね」
祖母ちゃんは改まってハルシェシスを見詰める。
「それで、このニダヴェリールで、国と国が戦争になりそうになっている訳じゃない? 若しかしたら、此処でもそのコシチェイって奴が暗躍しいるんじゃないかと思ってね、ねえ、あんた、鳥の国と獣の国を戦争させようと唆している奴を思いつかないかい?」
「う~ん、戦争をさせようと目論んでいる奴ねえ……」
ハルシェシスは顎に指を当てながら考え込む。
「特に思い当たらないわね~」
「じゃあさ、あんたがフゥル国の要職から外れるにあたって、王に取り入っていた奴は何て名前なの?」
「ああ、それはラホナビスって奴、ゴマすり野郎で嫌な奴よ、だけど、流石に、あいつが国を転覆させるとかって考えを持っているとは思えなかったけどね」
「因みに、そいつは何の鳥の鳥人なんだい?」
「古いタイプの鳥だとか言っていたけど、もう忘れちゃったわ、ただアイツ翼の途中に爪みたいなのが生えているのよ、ちょっと変わっているわよね?」
そう言われても、僕には全てが変わっているように感じた。
「ねえ、ところで、ハルシェシスは今でも、王や、王族に会ったりすることは出来るのかい?」
祖母ちゃんは問い掛ける。
「まあ、会おうと思えば、会えるけど、アタシとしてはもう会いたくないわね、それに会いに行っても嫌な顔をされそうな気がするわよ」
「なるほどね」
祖母ちゃんは腕を組んで考え込み始める。
「只ね、あたしとしては、戦争をさせたくない。誰かの陰謀だったりしたら猶更だ。あんたも戦争は嫌でしょ? 辺境とはいえ此処だって巻きこまれると思うよ」
「……まあ、それはそうね」
「どうしても回避できないなら仕方が無いけど、原因を突き止めて、戦争を回避して和平に持ち込めるならそうしたいと思うんだよ。そんなんで、あんたもちょっと協力してよ、戦争せずに済む方法をさ」
「う~ん、協力ねえ~、具体的に何をするつもりなの?」
そんな問い掛けに、祖母ちゃんは頷き、すぐに自分の考えを伝え始めた。
「とにかく原因を探って、それを取り除く。そして和平の使者として双方の国に行って、和平案を模索して相手方に伝える。基本としてはそんな所かしら」
ハルシェシスはしばし考え込む。そして大きく息を吐いた。
「は~あ、仕方が無いわね、アンタに言われたら逆らえないわ、沢山借りもあるし……」
「おっ、協力してくれる気になったかい」
祖母ちゃんは表情を明るくする。
「但し、双方の国だけじゃ足りないわね、どちらにも属さない国にも行かないとね」
「ん、どちらにも属さない国? なんだいそれは?」
「ミッテン国っていう、獣でも鳥でもない者達が住む国よ、一応、獣の国の属国になっているけど、主権は別になっているわ」
「ふ~ん、そんな国があるとはね」
「その国にも寄る必要もあるし、その国の王にも会う必要がね」
ハルシェシスは真剣な顔で言及してきた。
「了解だよ。とにかくハルシェシスが一緒に来てくれるのは心強いよ」
「昔みたいに、こき使わないでよ」
「程々にしておくよ」
祖母ちゃんはニヤリと笑った。
そんなこんな、旅の仲間にハルシェシスが加わる事になったのだ。




