act6 辺境の地
フゥル国北東の辺境に剣士ハルシェシスは住んでいるとの事で、僕等は北東へと向かった。しかしながら進めども進めども怪しい茸風な岩山と平茸風な大樹が立ち並んでいた。
全てがそういった土地なのだろう。
「ねえ、あの岩山はどうしてあんな変な形をしているんだろうね?」
僕は素朴な疑問として問い掛けてみる。
「多分、上の方が固い岩で、幹の部分が柔らかい岩なんだろうさ、それで風化の差であんな形になったんじゃないのかね」
祖母ちゃんは岩を見上げながら言及する。
「じゃあ、あの茸みたいな樹は?」
「あれは、確か龍血樹って名前の樹だよ、幹を傷つけると赤い血みたいな樹液が出るんだよ、龍みたいな奇妙な形の樹なうえに、赤い血みたいな樹液が出る事から、龍の血が取れる樹と呼ばれているのさ」
「相まって茸だらけって印象なんだね」
「まあそんな所だね」
しばらく奥まで進んで行くと、とても高さのある茸型の岩山が見えてきた。
「おっ、あれじゃないか?」
ペーターが指を差す。
「確かに一際高いし、聞いた話に似た形状の岩だね」
奇妙で高さのある岩だが、側面に螺旋を描くように石段が設けられていた。そして頂上となる部分には煉瓦作りの建物が……。
「あれを登るみたいだね、飛んでいく事も出来るけど、折角だから皆で石段を登って行こう」
「おう、了解だ」
そうして僕等はゆっくり石段を登り始めた。
ギリシャのテッサリア地方に岩山の上に修道院が作られているメテオラ遺跡というのがあるけど、そんな印象だ。
疲労困憊の末ようやく頂上に辿り着くと、白いスモッグを着た鳥人が数名いて、小さな畑で作物を育てていた。
「あら、貴方達は? どちら様ですか?」
女性の鳥人のようで柔らかい口調で問い掛けてくる。
「ああ、あたし等は怪しいもんじゃないよ、人を訪ねて此処まで来たんだ。ここに剣士ハルシェシスが住んでいるって聞いてね、あたしはハルシェシスの古い顔馴染みなんだよ」
祖母ちゃんが丁寧に説明をする。
「ハルシェシス様の知り合いですか……」
白鳥のような頭をした鳥人が観察するように僕等を見る。
「お名前は何と?」
「あたしはアンナ・アンデルセンって名前だ。元エインヘイヤルだよ」
「なるほど…… 少々お待ちくださいね」
そういうと、白鳥頭の鳥人は建物の中に入っていく。
「ねえ、祖母ちゃん、警戒されてない?」
「そんな事はないと思うけど」
しばらく待っていると、体が大きく、筋骨隆々な隼頭の鳥人が現れた。腰に大剣を備え、マントを身に纏い、立派でとても強そうだ。
「おっ、ハルシェシス、久しぶりじゃないか」
祖母ちゃんが手を挙げて声を掛ける。
「ふふふふ、お前達、大丈夫だ。安心するがいい、彼女等は顔馴染みで間違いない……」
ハルシェシスは傍で心配そうな顔をしている白鳥たちに優しく説明をする。
「いやだああああああああっ、アンナ、久しぶりじゃない! なんでこんな所にいるのよお!」
へっ?
僕は唖然とする。言動が変てこりんだ。
「お前が、権力争いに嫌気がして引退しちまったって聞いたんで、慰めに来たんだよ!」
「そうなの、そうなのよ、王国の奴等ってば、ネチネチして陰湿で、弱いくせに取り入るのが上手いだけの奴が重宝されて、やってらんない感じなのよ、やってらんない!」
まるでお姉、そうオカマのような話し方だ。
「何やってんだい、折角要職に就いたっていうのに勿体ない……」
「だって、だってだって、だって、だってだって!」
体をくねらせてもじもじと言い訳をし始める。ゴツゴツでムキムキな見た目と言動のギャップが酷い。
そんなハルシェシスが僕とペーターを見た。
「あら、その二人はどちら様?」
「ああ、紹介しておくよ、一緒に旅している弟のハンスとミズガルズで出会ったペーターだ。よろしく頼む」
もう完全に弟枠だ。僕とペーターは小さく頭を下げる。
「弟…… あんた弟なんて居たのね……」
そう言うと、ハルシェシスはつかつかと僕等の方に歩み寄って来る。
「よろしくぅ、アタシはハルシェシスよ、以後お見知り置きを!」
ウインクしながら挨拶してくる。
「は、はい」
「お、おう」
僕等は戸惑いながら返事をする。
「しかしながら、こんな辺境の場所まで態々訪ねてきてもらって恐縮だわ、とにかく中に入って、おもてなしをするわよ」
ハルシェシスは僕等を建物の中へと誘った。




