act5 鳥の国の酒場
「あっ、いらっしゃいませ!」
中に入ると店員も鳥人間だった。オウムの顔に人の体をしている。
「三人なんだけど大丈夫かい?」
「そうしたら、あちらの席へどうぞ」
「ああ、了解だよ」
僕らは促された端の方の席へ腰を下ろした。周囲の客は殆ど鳥人間若しくは鳥だった。
「ねえ、祖母ちゃん、鳥人間ぽいのと人語を解す鳥がいるけど、種類が違うの?」
僕は小声で問い掛ける。
「え~と、確かね、能力の高い者は鳥にも鳥人間にも変身出来るんだけど、能力の低いとか未熟なものは鳥の姿でしか居られないんだよ」
「なるほどね、そういった感じなんだ……」
そんな話をしていると、店員がオーダーを取りにきた。
「飲み物とお食事は何をご用意しましょうか?」
性別が解り難いが多分女性のようだ。
「う~ん、そうしたら蜜酒三つと団栗パンに団栗料理をお願いするよ、あと水も三つね」
「畏まりました」
すぐに蜜酒が運ばれてきて、祖母ちゃんはすぐに二人分を飲み始める。さすが酒好きだ。
そんな僕等の座った席のすぐ横で、ドード顔の鳥人とサイチョウ顔の鳥人二人が酒を片手に何やら語り合っていた。
僕は何とはなしに耳を傾ける。
「……獣の国と戦争だなんて、勝てるのかよ、それにこっちから攻めるって話じゃないか、無茶じゃないか?」
サイチョウが苛立ち気味に言及する。
「仕方が無いさ、国王様のお考えらしい、領土問題の憤りがピークに達したみたいだよ、それと色々策もあるみたいだし……」
ドードーは宥めるように説明する。
「策?」
「ああ、どうも相手も裏を掻くような策を考えているらしいぜ」
それを聞いたサイチョウは顔を顰める。
「とはいえ、戦争の理由がよく解らないぞ、そもそも獣の国とは昔は仲が良かったじゃないか、なんで彼等と戦わなければならないんだ!」
「そうだね、いつの間にか仲が悪くなってしまったよね……」
ドードーはふうと溜息を吐く。
「昔、そう…… 国防大臣のハルシェシス様が引退される前までは、こんなことは全然なかったのによう……」
二人の会話に耳を立てていたのは祖母ちゃんもだったらしく、祖母ちゃんが二人に話し掛けた。
「ハルシェシスって、元エインヘイヤルで隼顔の剣士ハルシェシスの事かい?」
「えっ、ああ、そうだ、隼の剣士だよ」
サイチョウは突然話しかけられて戸惑いつつも答えてくれた。
「引退したって言っていたけど、彼は今は何処にいるか知っているかい?」
「えっ、一応、この国フゥル国内にいると思うけど、確か北東の辺境の村にひっそり住んでいるとか聞いたような気がするが、って、アンタ誰だい?」
サイチョウは猜疑的な視線を送ってくる。
「あっ、いや、あたしは、ハルシェシスの古い知り合いなんだよね」
「古い知り合い? どうみても若いくせにハルシェシス様の知り合いだと? 何か変じゃねえか?」
「えっ、若い! あっ、そうだ、私は今はどうみても若い綺麗な女性だった!」
祖母ちゃんはハッとしてちょっと顔を赤らめる。おいおい綺麗とまでは言われてないぞ。
「いや、どう見たってそうだろうよ、何言ってるんだよ、あんた……」
サイチョウは呆れた様子で呟く。
「いやいや、私は不老なんだよ、ずっと若いままなの! だから綺麗で美しいんだけど実際は六十歳位なんだよね」
「えっ、あんた、六十歳なんすか? へ、へえ~ ビックリだ。凄いんすね、お若くて羨ましいですぜ」
サイチョウは年配者と聞いてちょっと言葉遣いを改める。とはいえ、ずっと若くじゃなくて、少し前までしっかり婆さんだったぞ。
「ふむふむ、なるほどですね、あなたは若しかしてウルズの水を飲み続けているのですかな?」
横にいたドードーは気が付いたような顔で口を開く。
「ん、ウルズの水、まあ偶に飲むけどね」
「前に聞いた事があるけど、ウルズの水は副作用で老けなくなる事があるとかないとか……」
「ふっ、そんな所だよ、それで、あたしはハルシェシスの古い知り合いなんだけど、あいつは確か国の要職に就いていたと思うけど、引退しちまったのかい?」
「ああ、権力争いに嫌気がさしたらしく、大分前に引退しちゃったんですよ」
「なるほど、残念な感じになっちゃったんだね」
それを聞いたサイチョウは天を仰ぐ。
「……ハルシェシス様が引退されてから、獣の国との橋渡しが上手くいかなくなって、獣の国と揉める事が多くなって、で、今は関係が相当悪化しているんですよ……」
「そうなんだね……」
祖母ちゃんは腕を組んで考え込む。
そして改まって、祖母ちゃんが僕とペーターを見た。
「ハンス、ペーター、悪いんだけど、あたしの知り合いに会いに行っても良いかな? 久しぶりに会いたくなっちゃってさ」
心に何かを秘めたような雰囲気で言及してくる。
「ん? 別に良いと思うけど ハンスは見学したいってだけだし、その知り合いはこの国に居るんだろ? だったら見学しながら会いに行けば良いんじゃないかな?」
ペーターはそう答えながら僕を見る。
「うん、僕は全然構わないよ、そのハルシェシスって人にも会ってみたいしね」
僕も同意した。全然構わないし、祖母ちゃんがそうしたいと言うなら優先させてあげたい気もする。
それを聞いた祖母ちゃんは軽く笑う。
「じゃあ、久しぶりの旧友に会いに行くって流れで宜しく頼むね」
「ああ」
「了解だよ」
僕とペーターは答えた。




