act4 祖母ちゃんの魔法
木々を掻き分けつつ更に一時間程歩くと、次第に薄暗い森の中、何やら視線のようなものを感じ始める。偶にカサっという音が聞こえてきたりするのだ。
「……ん、妙だね」
「なにか感じる? 妙って?」
「……いつの間にか何かにとり囲まれちまってるかもかもしれないよ……」
ゆっくりと足を止めた祖母ちゃんは周囲の木々の隙間に視線を送る。
森の隙間を探っていると、低い唸り声を発しながら、体の大きな狼が姿を現した。
4匹程いて四方から迫ってきていたのだ。
「フェンリル狼か…… 狙われちまったね。ハンス、ピッケルを取り出しな」
「えっ、ピッケル? なんで?」
「武器になりそうなもんはピッケルしかないだろ、追っ払うにしても身を守るにしても必要だろ?」
「そ、それはそうだけど、あの狼は敵なの? フェンリル狼って呼んでたけど……」
「敵というか、こっちを獲物として見てるね、フェンリル狼ってのは魔獣だよ、元々は神の一種みたいな存在だったけど今は理性や知性が失われた獣だ。倒すか逃げるしかないね」
「じゃあ、逃げようよ!」
「いやいや、都合よく逃がしてくれると思えないけどね……」
僕はリュックからピッケルを取り出して取り敢えず構える。
低い唸り声をあげながらフェンリル狼は距離を詰めてくる。そして、僕の死角から一匹が襲い掛かってきた。
「う、うわあああああああああああっ!」
僕はピッケルをぶんぶん振り回す。が、当たらない。襲ってきた一匹に気を取られていると、もう一匹が隙を狙って襲い掛かって来た。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
ヤバい! 何てことだ、空の大陸に着いてすぐに僕は死んでしまうのか! すぐ死んじゃうぐらいならこの世界に来なかった方が良かったんじゃないか?
そんな心の声を発していると、突然、炎の渦がぶわりと僕のすぐ横を通過した。そして、その炎の渦は僕の死角を狙っていた狼に当たり、その体を焼き尽くした。
「えっ、な、なに? 何が?」
僕は唖然として炎の出所を確認する。
「えっ、ば、祖母ちゃん!」
炎の出所は手の平を向けている祖母ちゃんだった。
「ふん、久しぶりだけど、ちゃんと魔法が使えたね……」
「えっ、ま、ま、魔法?」
僕は唖然とせずにはいられない。
「だから、あたしゃ魔法が使えたって言っていただろ。地上に降りたら使えなくなっちゃったけどさ……」
「あっ、いや、確かに言っていたけど…… それって本当の話だったの?」
「ああ、あたしゃ、結構色々な魔法が使えたんだよ、いや、使えるんだよ」
「はあ……」
何て言えば良いかよく解らないぞ。
「とにかく、奴らを追っ払うよ!」
祖母ちゃんは手から放つ炎でもう1匹の狼も焼き尽くす。
そんな祖母ちゃんの炎に恐れをなしたのか、残りのフェンリル狼2匹は尻尾を巻いて逃げ出した。
「ふん、上手く追っ払えたみたいだね」
祖母ちゃんはふうと息を吐いた。
焼け焦げたフェンリル狼の遺体はしばらくすると煙のように消え去り、宝石のような物が残った。
「ば、祖母ちゃん、死骸が無くなって宝石みたいなのになったよ!」
「ああ、魔宝石が残ったんだよ、魔獣だからね」
「魔宝石?」
「ああ、魔獣の核みたいな物だよ、それ拾っときな、後でお金に換えられるから」
「はあ……」
僕は正直この世界の常識に付いていけない。何だかとんでもない世界に来てしまったようだ。
しかしながら思考が追い付かない僕であったが、心に少し安心材料が追加されていた。それは祖母ちゃんが自分の想像以上にこの世界に詳しい事と、祖母ちゃんが若返った事、そして、魔法を使える事だ。正直かなり頼もしい存在だった。




