act2 王子様
飯屋は僕らの世界のトラットリアとかパブとか大衆飯屋と左程変わらなかった。板の床に木で出来たテープルとか椅子が並んでいる。
ただちょっと薄暗く昼間から酒を飲んでも良さそうな雰囲気が漂っていた。
「よし、じゃあ、あそこら辺に座るわよ」
座席は自由らしく、祖母ちゃんが好きな場所に陣取った。様子を見ていると、カウンターに注文をしに行き料理が出来たら自分で取りに行くスタイルのようだ。
「ほら、あんた、大丈夫かい? そこに座んな」
「……は、はい、ありがとうございます」
杖を片手に何とか歩いてきたカエルはお礼を述べ弱弱しく席に腰を下ろす。店内は二本足で歩くウサギなどがいて、別にカエルが歩いて席に着くのは意外でも何でもないようだ。
「あんた何にする? バッタの炒め物とかコオロギ入りスープとかかしら?」
それを聞いたカエルは恨めしそうな顔をする。
「…………あ、あなた方と同じものをお願いします」
「大丈夫? 食べられるの?」
「……ええ、食べられます」
「あらそう。じゃあ……」
祖母ちゃんは席を立ちあがり、カウンターに行って注文をする。そして番号の書かれた札を手に持ち帰ってきた。
「なに注文してきたの?」
「普通に一口鶏肉の塩焼きと、魚を揚げたのと芋の揚げたのね、あと蜜酒を3つ」
「み、蜜酒? そんなのあるの? それと昼間っから酒飲むの? 僕飲めないよ!」
「まあ、良いから良いから」
祖母ちゃんは酒飲む気満々だ。食べ物も、食事っていうよりは酒の肴みたいなのばかりだ。
しばらくすると、僕たちの番号札が読み上げられ、僕と祖母ちゃんとで料理と酒を取りに行く。
そうして、テーブルに料理が並べられた。
「さてと、じゃあ、食べようかね、あんたも遠慮せずに食っとくれ」
「あ、ありがとうございます…… では、失礼して…… あ~ん」
カエルはスプーンを手に取ると鶏肉の塩焼きを口に含む。口がデカいので一口だ。
「ああ、美味しい、生き返る」
ばくっ!
「ああ、美味しい、本当に生き返る。あ~ん」
カエルはどんどん食べていく。みるみるテーブルの食事が消えていく。凄い喰いっぷりだ。
「あ、あんた、ちょっと待ちな! どんどん食べ過ぎだよ、少しは遠慮したらどうなんだい?」
さすがに祖母ちゃんも注意する。
「えっ」
カエルの手には蜜酒が持たれていて、もう半分位無くなっていた。
「あんた、食事はあんたのだけじゃないんだよ! あたしらの分もあんだからね!」
「あっ、そうですね……」
と言いながらもカエルは魚を揚げたのをさり気なく皿から奪っていた。
「で、あんたを助けて、飢えを満たしてやったんだけど、左程見返りは期待してなかったとはいえ、ちゃんとお礼はしてくれるんだろうね? 見た所、金を持っているようには見えないけど」
「ゲップ……」
カエルはゲップをすると改まって話始めた。
「それは大丈夫だとおもいますよ」
「大丈夫? どういう根拠で?」
「……実をいうと、内緒なんですが、私は隣の国の王子なんですよ……」
声を押し殺しながらカエルは言及する。
「王子様?」
僕と祖母ちゃんは顔を見合わせた。
「あははははははははははははははははははははははははははははははは」
僕も祖母ちゃんも思わず笑ってしまった。
「嘘ばっかり!」
「う、嘘じゃありませんよ! 私は、私は、本当に王子なんですよ!」
「隣の国の中の、池の畔にあるカエルの国の?」
「池の畔じゃないです! カエルの国でもありません、人間の国の王子ですよ!」
「いやいやいや、またまた冗談を」
僕も祖母ちゃんも激しく否定する。
「信じて下さい、本当なんです、信じて下さいよ!」
「じゃあ、なんであんたはカエルなんだい? 裸に杖しか持っていないけど、何か証明できるものはあるのかい?」
「あ、ありませんけど……」
「ほらごらん、ペテンは勘弁だよ、体力が回復したらでいいから、恩返ししてちょうだいね」
「人の姿に戻ったら、100倍ぐらいの恩返しをしますよ…… 本当にです」
「100倍?」
祖母ちゃんは100倍という言葉に興味を引かれたようだ。
その上で改まって蜜酒をグイッと飲み干した。
「というと、あんたは元々は人間の王子様で、今はカエルになっている。じゃあ、それは何故なんだい?」
「そ、それは実は……」
カエルは少し躊躇いを見せたが、意を決した様子で説明をし始めた。