act10 不死の九頭竜
頑張って切り落とした龍の頭部は直ぐに再生してしまい、もう最初の状態と変わりがない。
「これがコールガ様の圧倒的な力だ。大きな九つの首を持つ龍の姿に再生能力、もはやコールガ様は無敵なのだ。カカカカカカカカカ!」
離れた場所から鴉のフギンが偉そうに言ってくる。
「ったく、煩さいよ、戦わない奴はだまってろよ!」
ぺーターは怒り気味に呟く。
「何が悪い、吾輩はコールガ様の応援団長なんだぞ」
「ペーター、そんな奴は放っておきな、とにかく、いずれにしても、奴の首は再生しちまう、どうすれば良いかだよ……」
祖母ちゃんは戸惑い気味だ。
「ああ……」
ぺーターはそう答えるも何かが引っ掛かっているのか考え込んでいる。
「あっ!」
そして何かに気が付いたような表情でぺーターが僕と祖母ちゃんに近寄ってきて耳打ちする。
「な、なあ、アンナ、ハンス、あいつはこの前のフレン・コスチェイと同じようにコスチェイって事だろ?」
「ああ、コスチェイと名乗っている以上、仲間かなんかなんだろうね……」
「とするとさ、奴も本体と魂が分離している可能性が高いんじゃないのか?」
「あっ」
祖母ちゃんはハッとした顔をする。
「そうだ。俺が思うに、首のうちのほとんどは再生可能で倒せない。だが本体の首があってそいつを叩けば倒せるっていう感じじゃないか?」
ペーターは真面目な顔で言ってくる。
「なるほどね、それもあるね、ただ、あたしは、今のペーターの話を聞いて、あの小うるさい鴉が本体かもしれないと思っちゃったんだけどさ……」
「あっ、確かに僕もそう思ったよ」
ペーターは僕と祖母ちゃんの反応を見て眉根を寄せる。
「そうか、そういう見方もできるのか……」
ペーターは改めて考え込む。そんなペーターに祖母ちゃんが声を掛ける。
「よし、じゃあ、ペーターこうしよう。そうしたらフレンの時じゃないが、ハンスにはあの鴉を狙ってもらって、あたしとペーターであの九頭竜と対峙するって方向でいこう」
「で、出来るのか? 鴉は良いとして、九頭竜のあいつはかなり強いぜ!」
ペーターは緊張気味に指摘してくる。
「でも、向こうが、話しも聞かず、問答無用で襲ってきてるんだし、やるしかないよ!」
「まあな……」
「そんな感じでいくからね!」
「了解だ」
そうして、僕は鴉にクロスボウを使って矢を放つべく木の下ににじり寄り、祖母ちゃんとペーターは再び杖とダガーナイフを構え正面に立つ。
「ペーター、取り敢えず大技をかますよ! あんたは相手が怯んだ所で出来るだけ首を切り落としていってみてくれ!」
「了解だぜ」
「んじゃ、暴風よ吹け! ヤイ・セイダマズル・ウェルザンディ・イーセタ・ヴイン!」
突然、杖先から黒い雲が現れ、それが九頭竜を包み込んで行く。
「グルルルルルルルルルル……」
九頭竜は自分を取り囲む周囲の黒雲をみながら、静かに唸り声をあげる。
そんな祖母ちゃんとペーターの戦闘の横で僕と鴉の攻防も続いていた。
「馬鹿め! そんな矢が吾輩に当たる訳なかろう」
「でも僕は、小うるさいお前を倒す役割を任されたから必ず倒すよ」
僕はしつこく矢を放つ。
「小煩いとは失礼な、だが吾輩を倒しても戦局には何の影響もないぞ」
「そうかな、僕等はそうは考えていないよ」
鴉は少し首を傾げる。
「なるほど、なるほど、ははん、そうか、吾輩がコールガ様を倒す切っ掛けだとでも思っているのだな。残念だがそれは的外れだ!」
「でも僕はその可能性を考えている。だからお前を仕留める」
「少し考えてみなよ、吾輩は前までフレン様の所にいたんだぞ、それがどういう意味か解らないかい?」
「あっ」
確かにそうだ。ずっとコールガの傍にいたのならその可能性が高いだろう。だけど、少し前まで確かにフレンの所に居たのも間違いない。僕等の考えは間違っていたのか?
「う、うるさい! うるさい! それでも僕は君を倒す!」
「やはりガキだな全く。だが、いずれにしても吾輩はそんな簡単に倒せんよ」
そう言うと、鴉は空へと飛び上がり、そして僕の方に向かってバサバサと羽を羽ばたかせる。すると羽ばたきに伴って何本もの羽が僕の方に向かって飛んでくる。
その羽の先は鋭い棘状態になっていた。
「うわっ!」
僕は紙一重で躱すも大地に羽が突き刺さる。
「ちっ、避けられたか……」
「くそっ!」
僕はクロスボウから矢を放ち応戦する。矢と羽の応酬だ。
一方、九頭竜対祖母ちゃんとペーターの戦いは激しさを増していた。
祖母ちゃんの起こした黒雲が九頭竜を飲み込み、その黒雲は雷雲であり中は稲妻の巣のように幾筋もの稲光が走り回っていた。
「ガアアア、グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
九頭竜には幾筋の雷が貫き、その体を焦がしていく。
そんな中、祖母ちゃんはその様子をじっと見詰めていた。まるで観察をするように。
「良いかいペーター、もうすぐ黒煙が消える。そしたら、ダガーで攻撃して! 首が前4列、後5列並んでいるけど、後ろ5列の真ん中の頭を狙って! 他の頭はその首を庇うような動きをしていたよ!」
「了解だ! アンナ!」
黒雲が晴れていき、次第に九頭竜の姿が見やすくなっていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ペーターがダガーを肩に担ぐように載せ、後列真ん中の首に向かって飛ぶ。
「喰らええええええええっ!」
体重を乗せたダガーが中央の首に食い込む。だが切れるまではいかない。
「うおおおおおおおおっ! まだだああああああああっ!」
そのままダガーの上に乗るような感じで体ごと首を断ち切った。
「ギャャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
凄い叫び声が周囲に響き渡る。
「やったわね、ペーター」
「へっ、切り落としたぜ!」
と思ったら、前列の4本の首が大口を開き炎を放ってきた。
「う、うおっ!」
ペーターは慌てて体を躱す。
「むむむむむ。こ、これは、どうなっているんだい!」
九頭竜の後列中央の首は、その前に切り落とした首のように断面がモニョモニョと動き出し、中から何かが競り上がって来る。
「おいおい、マジかよ!」
そうして、その競り上がってきた来た物は龍の頭部として復活する。また、稲妻に焼かれた黒焦げた体はみるみる再生し青く禍々しい体が蘇る。
攻撃を始める前とほとんど変わりがない状態まで復活していた。




