act8 コールガ・コシチェイ
僕等は地上に無事に降り立つことが出来た。
ただラプンツェルを説得するのに思わぬ時間が掛ってしまい、時刻は夕方近くになってしまっていた。
「さて、それじゃあ、いよいよ出発しようかね」
改まって祖母ちゃんは声を上げる。
そんな僕等が一歩踏み出そうとした時、塔の陰から黒いフードを被り、黒いローブの人物が姿を現した。僕等の動きに気が付いたのか、単純に早く帰ってきたのか、拙いことに鉢合わせてしまった。
「お、お母さん!」
ラプンツェルは驚きを隠せず口を抑える。
「これは、ヤバい事になったねえ」
祖母ちゃんは小さい声で呟く。
「貴方達…… 何をしているの? 私のラプンツェルを、一体どこに連れて行こうという気なのかしら……」
その黒いローブの人物は恐らく、ほぼ間違いなくコールガ・コシチェイなのだろう。フレン・コシチェイに比べると随分若く美しい女性だった。
だか、内から滲みでる陰湿さ、残虐さ、邪悪な気配は遥かに上回っているように感じられた。
「コールガ様、ほ~ら、吾輩が言っていたのは本当だったでしょ~ ラプンツェル様を連れ出そうとしている奴らがいるといった事は……」
「フギン、貴方、よく見ていたわね、お陰で助かったわ……」
木の上にはあの鴉がいた、近くで見ると尾羽にはカラフルな孔雀の尾羽を付けている。
「因みに、コールガ様、こいつらがフレン様を殺した連中ですぜ……」
鴉は木の上からバサバサと降りてくるとコールガの肩に止まり、不敵な目付きで僕等の方を睨み付けた。
「こいつらがフレンを? それは許せないわね…… それだけじゃなく、ラプンツェルを誑かし連れ去ろうととしているわ。なんて酷く恐ろしい奴等なのかしら……」
冷たい、とても冷たい視線で僕等を見た。そこにはまだ強い怒りのようなものは感じない。只々呆れたような様子で語り掛けてくる。
「違うの、お母さん! あの方達に声は掛けられたけど、私は私の意志で外の世界に出てみたいと思ったの……」
「えっ、なんだって!」
急に声色が変わった。
「いえ、あの、私の意志で……」
「はあ? 何て言ったの!」
コールガの強い口調にラプンツェルは段々とトーンが弱まっていく。
「ちょっと、待ってくれ! そもそもの話をさせてくれ!」
ユリシスが前に出て話に割って入る。
「あら、お前は、前にラプンツェルの所に忍び込んできていたコソ泥じゃない…… 二度と此処に来れない様に、目を見えなく、夜は梟になるような魔法を掛けたのにしつこいわね……」
「コールガ、聞いてくれ!」
ユリシスの訴えを耳にした鴉はあきれたように言った。
「おいおい、また、さっきの話をもう一度繰り返すつもりかよ……」
「あ、あんたはラプンツェルに母親だと説明しているみたいだが、本当にラプンツェルの母親なのか? 本当は違うんじゃないのか? 川の下流に住んでいる老夫婦がラプンツェルの両親じゃないのか?」
「それはどういう意味よ、そもそも貴方には何の関係もないじゃない」
「じゃあ、あんたがラプンツェルの母親だったにしろ、そうでなかったにしろ、もうラプンツェルはもう大人だろう。ラプンツェルの好きに生きさせてやるべきじゃないのか?」
「それは、そう思うけど、ラプンツェルは世間知らずで、私はとても心配しているの。私は彼女の母親ですしね、なのでラプンツェルに危険が及ばない様に保護してあげないといけないと思っているわ」
コールガはわざとらしく困り顔を作りつつも、強い口調で返してくる。
「だけど、ラプンツェルが自分で外の世界に出たいって言っているんだ。自由にさせてあげるべきだろ。外の世界を見させてやってくれよ!」
「じゃあ、逆に聞くけど、もし、外の世界でラプンツェルの身に何かあったら、貴方達はどう責任を取るつもりなの?」
「そ、それは……」
ユリシスは言葉を詰まらせる。
「で、でも…… そんなことがあっての人生じゃないか、それも経験だよ!」
「ふん、綺麗ごとね、無計画で無責任すぎて到底受け入れがたいわ、もう話はお終いよ、さあ、ラプンツェル、早く塔にお戻りなさい!」
コールガは高圧的に言及する
「お、お母さん、1日でも2日とかだけでも良いの、私、どうしても外の世界を見に行きたいのよ」
「そんなの駄目に決まっているでしょ! お前はまだ未熟者なんだから!」
コールガは激高する。
「…………」
コールガの高圧的な態度にラプンツェルは声を詰まらせる。
見兼ねた祖母ちゃんが声を発した。
「あの、ちょっと良いかい、あたし達は下流の村であんたに子供を奪われたっていう老夫婦に会った者だよ。彼等は子供を渡してしまったことを凄く後悔をしていたよ。あんたが、本当の母親であろうがなかろうが、ラプンツェルはもう成人なんだよ。自分の考えで行動させてあげるべきだよ、外の世界を見に行くのも、下流の老夫婦に会いに行って話を聞くのも、ラプンツェルの自由にさせてあげたらどうだろうかね? ラプンツェルがあんたを慕っているなら、此処へ戻ってくるだろうさ」
「黙れ!」
コールガは怒りの籠った声を発する。
「なんでそんなに頑ななんだい? ラプンツェルが此処から離れると何か困る事でもあるのかい?」
祖母ちゃんは首を傾げながら問い掛ける。
「黙れ!」
「悪いけど、黙れないね、あたし等はユリシスに掛けられた呪いを解いてやりたいし、ラプンツェルを自由にしてやりたいと思っている。だから黙らない!」
祖母ちゃんは強く言い放つ。
「黙れ! 黙れ! 黙れ! もう話すな! もう何も言うな! いや、もう口を利けなくしてやるわ、二度と余計な事が言えないようにね!」
そう言うとコールガは黒く大きな杖を取り出し僕等に向けてきた。




