act6 古城の尖塔
そんなこんな、梟のユリシスと行動を共にする事になったが、梟は昼盲目状態だ。逆に夜は見えるが僕等が余り見えない。それもあり誘導も含め目指す王都に向かうのに随分と時間が掛ってしまった。
グリム兄弟が説明してくれたように川の上流にはテーブル状の台地があり、その台地の上へと登っていった。台地の上から流れ落ちる高さのある巨大な滝が沢山あり、登るのに苦労を重ねたが、僕達はようやく嘗ての王都があったという場所へと到着したのだ。
「……ふう、なんとか昔の王都に辿り着いたけど、さてさて、これからどうしようかねえ?」
祖母ちゃんはどうアプローチをするかをまだ決めかねているようだ。
「うん、確かにどう接触するかだよね……」
「なあ、とにかくオレとラプンツェルを会わせてくれ! そうすれば問題はすぐに解決するよ」
「馬鹿ちんが! 焦るんじゃないよ!」
ユリシスの逸る気持ちを祖母ちゃんが牽制する。
いずれにしても到着した昔の王都は半ば植物で覆われたような状態だった。だがよく見ると煉瓦や石で形作られた過去の王城の様子が伺い知れた。半ば苔むして植物の根や茎が絡みついている城壁、半壊している壁や城門など、自然と人が作った物が長い年月を経て融合し、まるで元からその状態だったかのように佇んでいる。
「おや、フェンリル狼がいるね……」
「アンナ、どうする? あいつら邪魔じゃないか?」
ペーターは問い掛けながらダガーナイフを身構える。
「あたし等が古城散策するのに襲い掛かって来るようなら倒そうかね、これに関しても慌てちゃ駄目だわよ」
僕等は半壊した城門を抜け、痛んだ城壁に囲まれた内部へと入り込んだ。
煉瓦作りの館が幾つも見え、その四隅や中央に尖塔などが配され、西洋城の雰囲気が垣間見える。
「いやいや、立派だねえ、朽ちてはいるけど、嘗てはとても立派な王城だったんだね……」
様子を覗いながら進んで行くと、突然、死角からフェンリル狼が襲い掛かってきた。しかし祖母ちゃんは手慣れたもので杖を片手に簡単にそれを倒す。
そんなこんな古城の敷地内を歩いていると、微かに歌声のようなものが聞こえてきた。とても綺麗で美しい声だった。
「ねえ、歌声が聞こえるよ、多分、ユリシスさんが聞いたという歌声だよ」
僕はユリシスに問い掛ける。
「そ、そうだ! この歌声だ! オレが聞いたのはこの歌だ。ラプンツェルだ! ラプンツェルだよ!」
ユリシスは興奮気味に言った。
「なるほどねえ、確かに美しい歌声だよ……」
周囲を警戒しながら歌声のする方へ近づいていくと、北の外れに高い尖塔が立っていた。他の建物と接する事が無く、その尖塔は単独で聳え立っていた。
そして、その上部にある小窓から美しい金髪の女性の姿が見えた。
「……ラララ、いつか、♪ あの方が私を迎えに来てくれる…… ♪ ラララ、いつか、国を取り戻したあの方が…… ララララ……ラララ…… ♪」
「人がいるわね。女性が居る。あれがラプンツェルか…… 確かに綺麗な女性だわね」
そう言及するも祖母ちゃんは改まってユリシスと僕とペーターを見た。
「だけど、まだ会いに行かないよ! 先ずは情報収集だ。様子を覗うんだ。慌てちゃ駄目だよ、現在がどういう状況なのかしっかり見極めないと」
「そ、それは解っているよ」
ユリシスは自制気味に言及する。
「良いかい、仮にあの娘が老夫婦の子だったとしても、今回の件は老夫婦がラプンツェルを盗んだ事に端を発しているんだ。そして老夫婦とコールガの間には約束が取り交わされてしまっている状態だ。勝手にラプンツェルを連れ出したりしたら、今度はあたしらが罪に問われちまう」
「それはそうだけど……」
「それと、まだ、ラプンツェルしか見てない、連れて行ったコールガ・コシチェイが居る筈だよ。それも確認しておきたいね、目立たない様に探ろう……」
改まり祖母ちゃんが言及する。皆は静かに頷いた。
しばらく建物の陰から塔の様子をみていると、夕方近くになってようやく動きがあった。塔の下に黒いフードと黒いローブを身に纏った人物が現れたのだ。
「祖母ちゃん…… あれ、もしかして……」
「しっ…… 声を出すんじゃないよ…… あたしらの存在がバレたらどうするんだい」
祖母ちゃん、ユリシス、僕とペーターは息をひそめる。その時、黒いローブの人物は塔の中の女性に向かって声を上げた。
「ラプンツェルや、ラプンツェルや、長い髪の毛を下してもらえるかね」
「は~い、母さん、わかったわ」
すると女性はとても長い髪の毛を塔の下へと下した。それとほぼ同時に、塔の窓からバサバサと鴉が出てきた。
「あっ、あの鴉は、あの時の……」
その鴉は黒いローブの人物の近くに舞い降りる。
「あの子の名前はラプンツェルだってよ。やっぱり何か関係がありそうだ。あと、母さんと呼んでいたけど、あの女性は黒いローブの人物をお母さんと思ってるみたいだね」
祖母ちゃんはいった。
下では、黒いローブの人物が大きく人が乗れそうな籠を取り出して、それに長い髪の先端を結び付け、それに乗り込む。
「準備出来たわよ、お願い、引き上げて頂戴」
「は~い」
黒いローブの人物は籠にって引き上げてもらってるときに鴉に向かって小さな声で何かを話し初めていた。
「凄い力だね」
僕は祖母ちゃんに囁く。
「ああ、まあ、毎日やっているのかもしれないから、上に滑車が付いていたり、テコの原理みたいなコツがあるのかもしれないよ」
黒いローブの人物は上に到着すると籠から降り窓のある部屋の中に入って行った。横にいた鴉は話が終わったのか何処かへ飛んで行く。
とにかく、そのまま僕等は魔法使いとラプンツェルの行動を観察し続けた。
結果として、現在も魔法使いは午前中に出かけて、夕方に帰って来るという行動パターンであった。
そうして、密かに更に二日程観察を続けてから、僕等は魔法使いが出掛けた隙をついて塔の上に登る事にしたのだ。




