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ちょこっとポンコツな ハンス・アンデルスン15才の異世界見聞録  作者: Y・セイ
ーEpisode one カエルの王子
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act1  弱ったカエル

 森の中をしばらく進んで行くと、木々が疎らになり視界が開けた。手前には小川が流れており、その先には平野というか平原が広がっていた。


 さらに遠くには畑や家みたいなのかあり、奥に城壁が見える。


「この平原辺りから、どこかの王国の領域みたいだね、真ん中に見える王都みたいなのが王の住まいで、その更にずっとずっと遠くに見える山辺りが国境かねえ……」


 祖母ちゃんはそう呟きながら視線を走らせる。


「どうやら、この辺りはミズカルズのようだね、ミズカルズの南部の王国ってとこかしら……」


「ミズガルズ?」


「ミズガルズは人間が多く住む土地さ、ミズガルズの他には巨人が多く住むヨトゥンヘイムという土地とか、言語を話す動物の国があるニダヴェリールなんていう土地もあるんさよ」


「なるほど……」


 そう答えたものの、既に僕の頭はすでに満杯状態だった。


「とにかく、王城の方へ向かうよ、城の近くには人が多くいるだろうし、物も買えるし」


「わ、わかった」


 祖母ちゃんの提案に従い草原を進んで行く。


 徐々に人の営みが見えてきた。草原に紛れて畑も多く見えてくる。


 次第に道らしきものもあらわれ、それが段々と道と解るようになってくる。


 また家も城に近づけば近づくほど多くなってきているのだ。


 しばらく進み、お城の手前付近に至ると完全に町になっていた。人々も沢山行きかっている。そんな通行人には普通の人間風もいれば、話に聞いた身長3メートル位の巨人や人語を話す二足歩行の動物なんかもいる。


 完全に不思議な世界だ。また町には質屋や武器屋、道具屋、宿屋、酒場、飯屋なんかがあった。かなり商業も充実しているようだ。


「……あの、だ、誰か私にお恵みを……」


 武器屋の前を通過した時に、微かに何かが聞こえた気がした。


「あっ、こっちが質屋みたいだね、よし、さっきの魔宝石を換金するよ」


「う、うん」


 とにかく、もうこの世界に慣れるしかない。


 祖母ちゃんに付き従い木戸を開けて中に入る。


 横に長い受付テーブルが置かれ、そこに少し身なりが良い中年の男が座っていた。普通の人間だ。血統的にはゲルマン人っぽい顔立ちだった。


「ねえ、この魔宝石を換金したいんだけどさ……」


「はい、換金ですね、では、その魔宝石を見せて頂けますか」


 祖母ちゃんは布の小袋からフェンリル狼を倒して得た魔宝石を2つ取り出し渡した。


「ほう、中々大きいですね」


 鑑定士らしき男は拡大鏡を目に付け品定めをし始める。


「ああ、立派だろ、幾らになるかい?」


 祖母ちゃんは堂々としている。やはり体験者は頼りになる。


「う~ん、そうですね、そうしたら3万ゴッドでは如何でしょうか?」


「3万5千にならないかな? 相場だとその位だと思うけどね」


 相場も解っているようだ。


「う~ん、わかりました。お姉さん可愛いから特別ですよ、3万5千ゴッドで換金致しましよう」


「か、可愛い! やばい久しぶりに言われた! うん、そうなの、そうなのよ、あたしってばプリプリのぴちぴちだからね!」


 可愛いって言われて喜んでやがる。本当はおばさんを通り越してお婆さんなのに……。


 何だかんだ祖母ちゃん美貌? の効果もあってか、希望値になったようだ。金貨のような物を受け取り僕らは質屋を出る。


「さてと、じゃあ金も用意出来たし、飯屋でも行こうかね?」


 確かに腹も減ってきている。


「うん、じゃあ食事にしよう。って何を食べれば良いのかよく解らないんだけど?」


「ふん、あたしに任しときなよ」


 質屋から飯屋に向かって進んで行くと、また何かが聞こえた気がした。


「……あの、だ、誰か私にお恵みを……」


 声がする方を見ると、武器屋の壁の端の方に、力なく座り込んでいるカエルの姿があった。


「祖母ちゃん…… あのカエル大丈夫かな? 困っているみたいだけど……」


「バカ、見るんじゃないよ!」


 祖母ちゃんはそちら側を見ない。


「でも、かなり弱っているみたいだし、困っているみたいだけど……」


 僕は再度視線を送る。カエルは弱弱しい雰囲気ながら、僕を見つつ何度も微かな頷きをみせる。


 この世界特有なのか、人間の子供位の大きさのカエルだった。通常のカエルから考えるとかなりデカい。普段は二足歩行で歩いているのか、足を前に投げ出し尻を付いて座り込んでいる。


「……そっ、そこの、赤毛の、大変お美しいお嬢様、何卒私にお恵みと救いを…… 何卒お願いします……」


「ふっ、仕方がないわね、助けてあげようかしら」


「ち、ちょっと待って! それって今、美しいお嬢様って言われたからなんじゃないの?」


 豹変だ。


「ち、違うわよ、本当に可哀そうになっちゃったからよ、急にね」


 何だか納得がいかないぞ。


「で、あんた、どう助ければ良いの? ご飯を恵むの? 体力を回復させれば良いの?」


「……と、とりあえず、お腹が減って動けません。食事を恵んで頂けませんでしょうか…… 後でお礼は必ず致しますから……」


「食事ね…… まあ、良いわよ、あたし達も飯屋に行く所だから一緒に連れて行ってあげるわよ」


「そ、そ、それは大変ありがたい…… ありがとうございます。本当にありがとうございます……」


 カエルは弱弱しくもペコペコ何度も頭を下げてくる。


 そうしてカエルを連れ立った我々は飯屋へと入って行った。


 でも、この事が食事だけでは済まず、大変な事になってくことを、この時の僕たちは知る由もなかったのだ。


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