act5 ヴァルト・レンジャー
梟はそう呟くと静かに話し始じめた。
「なんで、オレがこんな姿をしているかと言えば、それは魔女にこの姿に変えられてしまったからだよ」
また魔女だ。そして、また魔女に姿を変えられたパターンだ。
「そして、何故、こんな森で一人で暮らしているかといえば、この姿を気味悪がられたのと、こんな姿だから一人で居た方が暮らしやすいからだ。まあ、この姿に変えられる前からオレは一人で森の中で暮らしている事が多かったがな……」
「ところで、何でで魔女に梟の姿に変えられてしまったんだい? 理由も無いのにかい?」
そんな祖母ちゃんの問い掛けに梟は顔を横に振った。
「実はオレ、ちょっと魔女を怒らせるような事をしちまったんだよ、ただ、言い訳をさせてもらえるなら、オレの心は純粋だった。悪いことをしたつもりはない、あれは仕方がない事だったんだよ……」
梟は思わせぶりな言い方をした。
「折角だ。その話を聞かせてもらって良いかな? 実はあたし等も魔女を探していてね、色々と情報が欲しいと思っていたところなんだよ」
祖母ちゃんは続きを促す。
「じゃあ、どこから話せばいいんだ」
「あんたが話したいと思う所から話してよ、細かく聞いた方が何か接点を見出せるかもしれないしね」
梟は祖母ちゃんの促しを聞いて、少し考え込む。
「解った。事細かく話をしよう。オレとしても聞いて欲しい気持ちもあるしな……」
そう言いながら梟はゆっくりと話をし始めた。
「初めにオレの名前はユリシス・ヴィラームという。そして、オレの一族は、元々、この大森林地帯一帯にあったヴィラーム王国という名前の国を治めていた王族だったんだ……」
グリム兄弟から聞いたヴィラーム王国だ。
「昔はこんなに木々は多くなく、他の王国と同じような状態だったらしい。だが、ある時を境に、急に樹木が増え、あっというまに樹海に飲まれてしまったと聞いている。そんなこんなあり王国は王国としての体をなさなくなり、オレの一族は森の中のさすらい人、ヴァルト・レンジャーとして生きていく事になったと聞いている」
「その樹海に飲まれたというのは何が起こったか知っているかい?」
祖母ちゃんは眉根を寄せながら質問する。
「いや、そこまでは知らない…… 急にそうなったと聞いているだけだ」
「成程……」
「まあ、そんなこんな、ある時、オレは嘗て王城があった場所を見学に行った。自分の一族の王城があった場所だし、現在の状態がどうなっているかが気になったからだ」
梟のユリシスはそこで大きく息を吐いた。
「廃墟の古城であり、半ば森に飲み込まれてはいたが、石造りの城壁、煉瓦作りの城など、嘗ての栄華を伺い知ることが出来た。そんな事に思いをはせながら歩いていると、どこからともなく歌声が聞こえてきたんだよ」
「歌声?」
「ああ、鈴を鳴らしたかのような美しい女性の歌声だ。その歌声に導かれるように進んで行くと、奥の方に状態が綺麗に保たれている尖塔があった。塔には階段が見たらず、上の方に窓があるのだが、その窓から金髪で美しい女性が歌を唄っているのが見えたんだ」
「廃墟の古城に人が住んでいたというのかい?」
「そうだ。そして、そこには、その美しい女性だけではなく、魔女も一緒に住んでいたんだよ」
祖母ちゃんの予想は大体合っていたいたようだ。嘗ての王城付近に奪われた老夫婦の子供と隣の館の主である魔女コールガ・コシチェイが居るのではないかという予想がだ。
「オレはその女性に会ってみたくなった。そして話をしてみたくなった。こういうのは、一目惚れって言うのかもしれないな。とにかくどうしても会いたくなったんだ。そして、オレは、その魔女が昼間出かけて夜に帰って来るという日々のルーティーンを見極め、魔女が留守の昼間に塔に忍び込み、その女性に会いに行ってみたんだ」
「なにやら判断に困る事をしたねえ、古城は元々はあんたら一族の物かもしれないけど、生活している場にこっそり忍び込んだ訳だ。良いのか悪いのか……」
祖母ちゃんは首を捻る。
「女性は名前をラプンツェルと言い、近くでみても本当に美しい女性だった。、当初、オレが現れた事に驚いていたが、ほら、オレって結構格好が良いだろ、そんなんで向こうもオレに悪い気はしていないようだった。色々身の上話なんかを聞いたら大分打ち解けてね……」
「なあなあ、悪いが、今は梟の姿だから、格好いいとか全然解らないぞ!」
ペーターは突っ込む。
「ははは、そうだよな、とにかく格好が良いんだ。まあ、そんなこんなで何度か忍び込みを続け会いに行っていたんだが、とある塔から帰る時に、とうとう魔女に見付かっちまったんだ」
「ヤバい状況だね」
「魔女は詰め寄って来てこう言った。貴様! この塔に忍び込んで私の娘に一体何をしているんだ! 貴様の所業は許せん! 二度とそんな事を出来ないように、お前の目を見えなくし、鳥獣の姿に変えてやる! と……」
梟のユリシスは大きく息を吐く。
「そして、持っていた杖をオレに差し向けると、オレの姿を魔法で梟の姿へと変えてしまったんだよ……」
「なるほどね」
「そんな訳で、オレは昼は人間の姿だが目が見えず、夜は目は見えるが梟の姿になってしまったという訳さ…… ただ、オレは本気でラプンツェルを好きになった。この気持ちは本当だ。後悔はしていないし、出来ればラプンツェルと結婚したいとさえ思っているんだ」
「まあ、恋愛は自由だけどさ…… こうなってくると、ラプンツェルがあんたをどう思ってくれているかだね」
祖母ちゃんはふうと大きく息を吐いた。
「でもさ、年頃の娘を塔の上に閉じ込めて、恋愛や結婚をさせないなんて、人道的にもいけない事だろう。オレがラプンツェルと結婚出来なかったとしても、ラプンツェルは自由にしてやるべきだと思うんだよ。自由に人を好きになり自由に結婚できるようにしてやるべきだとな……」
そんな梟に姿を変えられたユリシスの熱い訴えに、祖母ちゃんは躊躇いつつもある事を伝える。
「……実はね、此処に至る前に、あたし等はとある村で、コールガ・コシチェイという魔女に子供も奪われたっていう老夫婦に会ったんだよ、そして、その老夫婦は娘を取り戻したいと思っていた。で、あたし等はその老夫婦に子供を返してやりたいと思っているんだよ」
それを聞いたユリシスは驚いたような反応を示す。
「お、おい、ちょっと待ってくれ、コールガ・コシチェイだって! 確かオレを梟の姿に変えた魔女の名前もコールガ・コシチェイという名前だったぞ! だとすると、あの魔女はラプンツェルの身内でも何でもないという事になるじゃないか! そんな魔女に塔に閉じ込められているという状況ならラプンツェルを塔から出し、自由にするのは必然だということじゃないか! ラプンツェルを魔女の束縛から解放し、本当の親に返して、自由に恋愛をさせてあげる必要が……」
ユリシスは改まって僕等を見た。
「なあ、頼む、ついでだし、何かの縁だ。オレもあんた達と一緒にコールガ・コシチェイの元へ行かせてくれ! オレ達の利害は一致しているじゃないか!」
「ま、まあ、それは別に良いけどさ……」
「よし、宜しく頼む、今日は我が家でゆっくりしていってくれ! そこの藁も布団替わりに使ってもらって構わないからよ」
ユリシスは熱くなった様子で僕等に促してくる。
「まあ、そう言うなら、今晩はお邪魔させてもらうよ……」




