act17 真実のキス
祖母ちゃんとペーターに抑え込まれていたコシチェイであったが、使い魔が獣の中の鳥になった事で激しい動揺を見せる。
「きいいいいいいいいいいいいいいいいいっ! 貴様等! 貴様等! 何を、何をしおったああああああっ! ゆ、許さん! 許さんぞ!」
叫び声を上げながら方向を変え、使い魔に矢を放ったメアリーの方に襲い掛かって来る。
「あっ、危ない! 危ない、メアリー!」
コシチェイは鋭い爪の生えた手を突き出してきて、メアリーの心臓辺りを掴み取るような動きをしてきた。
「だ、駄目だ! させないぞ!」
すんでの所でミカエルがメアリーの前に立ち塞がり、コシチェイの長い腕はメアリーではなくミカエルの腹に突き刺さる。
「ぐっ、ぐふっ…………」
ミカエルは呻き声を漏らす。
「そ、そんな、へ、ヘンリック様…… 私を庇って……」
次の瞬間、腕がミカエルの腹にめり込んでいる状態のコシチェイの頭部が、爆炎に包まれ激しく燃え上がった。
「ぐあああああああああああっ!」
祖母ちゃんの魔法がコシチェイの頭部を焼いたのだ。その熱い炎に焼かれた為、コシチェイは腕を引き抜きミカエルの体から離れた。
「お前の相手はあたし達だよ! 浮気するんじゃないよ!」
すぐに祖母ちゃんとペーターが畳み込むような攻撃を行う。
「き、貴様等ぁぁ!」
「へ、ヘンリック様…… へ、ヘンリック様…… ああっ、私を庇って……」
メアリーがミカエルを介抱すべく近づく。ミカエルの腹からはどんどん、どんどん血が溢れてくる。
「はあ、はあ、はあ、メ、メアリー、き、君は無事かい……」
「ええ、ええ……」
メアリーは動揺しつつも返事をする。
「よ、よかった…………」
僕は急いで傍に駆けつけ、背中のリュックから水筒を取り出す。
「メ、メアリーさん! このウルズの水を王子に飲ませて!」
「は、はい」
呼吸が弱弱しいミカエルは水筒を口に当てても飲み込んでいかない。ぐったりと力を失い目も閉じ意識も消えかかっていく。
「と、取り敢えず、傷口に掛けよう!」
僕は水筒の水を腹の傷に掛ける。ウルズの水の効果もあってか傷からの出血は少し抑えられてきた。
でも、ミカエルの呼吸は段々と弱まってくる。
「メアリーさん! 口から何とかこの水を飲ませて!」
「は、はい!」
しかし、メアリーが水筒を口に当ててもミカエルの口の横から水が流れ落ちるだけだ。もう埒が明かないと思ったのか、メアリーは水筒からウルズの水を自らの口に含み、そして口移しで飲ませるべくミカエルの口に自分の口を合わせた。
「あっ」
その瞬間、ミカエルの体は薄く明るい光に包まれた。そして、ミカエルのカエルの手は人の手に、カエルの足は人の足に、緑の肌は人の肌色へと変化していく、ミカエルははカエルから人の姿に変わっていったのだ。
メアリーはそんな変化に気が付かず必死にウルズの水をミカエルの口の中へと流し込み続けていた。
ウルズの水が少しずつでも体内に流れ込んでいったのか、ミカエルの呼吸は少しずつ落ち着いてきた。
「……う、ううううううううっ……」
ミカエルが薄目を開ける。
「メ、メアリー……」
「あああっ、へ、ヘンリック様! 良かった、意識が戻ったんですね…… 本当に良かった……」
「ああ」
ミカエルは弱弱しく笑う。
「あ、あれ、ヘンリック様、お姿が……」
その声を聞いたミカエルは自分の手を見る。そこにはカエルの手ではなく人の手があった。
「あっ、ああああっ、戻った…… 私は人の姿に戻れた…… 戻れたんだ……」
ミカエルの目から涙が零れ落ちる。
「ヘンリック様、良かった、本当に良かったです……」
命が助かった事、元の姿に戻れた事、恐らくそのどちらも含めてメアリーは涙を流してミカエルに喜びの声を伝えた。




