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ハンス・アンデルスンの異世界大冒険紀行  作者: Y・セイ
ーPrologue   豆の木の上へ
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act2  魔法の豆

祖母ばあちゃん、ここまで着いたけど、ここから本当に空の大陸に行けるんだよね?」


 僕は改めて質問をする。デンマークからノルウエーだからそんなに大変な旅をしたわけじゃない。ローマからエルサレムまで遠征した十字軍からすればちょろい距離だ。


 だが、船に乗ったり、馬車を借りたりと、労力を掛けて来たのは間違いない。無駄足は納得しがたいものがある。例え完全に信じきれていないにしても……。


「ああ、安心しな、ちゃんと行けるよ、この魔法の豆があれば、空の大陸にね……」


 祖母ちゃんはリュックから引っ張り出した箱から卵程の大きさの豆を取り出しながら、自信満々に答える。


 その豆は、緑とか茶色とかではなく不思議な玉虫色をしていた。


「こ、これが魔法の豆なのか……」


 物心ついた時から祖母ちゃんとは一緒にいたが、僕はその豆を今まで一度もお目にかかった事はなかった。家族にも伝えず大切に仕舞われていたようだ。


「さてと……」


 祖母ちゃんはその豆を岩の窪地に置いた。


「ハンス、準備は良いかい、蔦というか木が伸び始めて、幹の太さが一メートル位になったら飛びつくんだよ」


「えっ、飛びつく! ど、ど、どうやって?」


 いきなり言われたハードな注文に僕は動揺せずにはいられない。


「いや、ジャンプして樹に抱き着くんだよ!」


「いや、無理、無理、無理、無理、無理、無理! そ、そんなの絶対無理だよ! 出来ないよ!」


 ジャンプして抱き付くだなんて聞いてないぞ!


「仕方が無い子だね、じゃあさ、あたしが後ろから突き飛ばしてあげるから、頑張って樹にしがみ付きな」


「へっ、僕、突き飛ばされるの?」


「そうなったら、もうしがみ付くしかないだろ?」


 なんて強引な強制なんだ。


「いや、ちょっと待って、心の準備が……」


「ハンスや、此処まで来たんだから、ポンコツはもう卒業しないと、あたしはね、今回の旅であんたに身体も精神も強くなって欲しいと思っているんだよ、強く生きていける力を身に付けて欲しいとね、とにかく頑張りな!」


「…………」


 マジか、突き飛ばされて木に抱き付くなんて芸当を本当に出来るのか僕は?


 祖母ばあちゃんが豆の上に軽く土を盛る。そして水筒の水をそこに掛けていく。僕の心の準備など全く関係ないが如くだ。


「ハンス、一旦、10メートル位離れるよ!」


「……う、うん」


 祖母ちゃんと僕は10メートル程後ずさり、豆を置いた窪地を見詰めた。


 突然、豆を置いた窪地辺りから、緑色の芽がグニグニと盛り上がり出した。植物である筈なのだが、まるで太い緑色の蛇がうねるように螺旋を描きながら上へ上へと伸びていく。


 最初は2~30センチ位の太さだったものが、段々と太くなっていき、5~60センチ、7~80センチへと変わっていく、それに伴い蔦や葉も生えていく。


 そして、太い緑の新芽がどんどん天空に向かって伸びていくのだ。


「うわああっ、うわああああっ! 何これ、ヤバいよ! 祖母ちゃん、僕、こんなの今まで見た事がないよ!」


 僕は驚きの声を上げずにはいられない。


「それはそうさね、魔法の豆だ。あたしたちは今魔法を見ているんだからね!」


 螺旋を描く新芽の太さが1メートル程に近づき、僕達の眼前近くまでその影響を及ぼし始めていた。


「よし、ハンス! 今だ! 行け! しがみ付け!」


 どんと僕は背中を突き出された。


「えっ、おわあああああああああああああああああっ!」


 僕は突き飛ばされ慌てて太い新芽にしがみ付く。本当に何とかだ!


「よし、あたしも!」


 僕がしがみ付いてからすぐ後に祖母ちゃんも飛びついた。婆さんとは思えないぐらい身が軽い。僕の3メートル下辺りに取り付いた。


 そのまま新芽はどんどん伸びて行った。それに伴い僕らはどんどん上空へと運ばれていく。眼下にはスカンジナビア山脈の山容が俯瞰出来てくる。


「うわあああああああっ! やばい! ヤバいよ!」


 僕の口からはそんな陳腐な感想しか出てこない。正直、凄い景観だとか凄い現象だとかの感動とか驚きよりも、蔦の上空へ伸びるスピードと迫力にビビッてしまっての声だ。


 雲を突き抜けしばらく進むと、発芽の伸びが止まってきた。それに伴い眼前に巨大な大地が広がっているのが見えてきた。


「す、凄い! 凄いよ! こ、これが空の上の大陸。イルミンスール大陸なのか……」


 僕の口からはそんな陳腐な感想しか出てこない。だって初めての体験だ。どう表現して良いのかもよく解らない。


「ああ、そうさね、ここが且つて私が来たことがある巨人や妖精が住む不思議な世界、イルミンスール大陸だよ」


 祖母ちゃんが下から僕を見上げながらドヤ顔で言ってくる。ほら本当にあっただろ! と言わんばかりの表情だ。


 僕はとうとう祖母が言っていたイルミンスール大陸へと到達したのだった。


 半信半疑だったが、空の上の大陸は本当にあったんだ。

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