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ハンス・アンデルスンの異世界大冒険紀行  作者: Y・セイ
ーEpisode one カエルの王子様
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act13  黒い森

 そうして情報収集を終えた僕等は飯屋を後にして宿屋に入った。夜半から雨がシトシト降り始めてきて屋根に当たる雨音が耳につく。


 村の北に広がる大森林は黒い森と呼ばれており、良く雨が降る場所だった。山が近いから雲が山に当たって頻繁に雨が降るらしい。


 翌日は一日中雨、翌々日も朝から雨だった為に出発を見合わせる。欝蒼とした暗い森なのに雨まで降っていたら大変な行程になる。晴れた日を選んで朝に出発をする予定なのだ。


 三日後、朝から晴れ、僕等は村の北側から黒い森に入り込んだ。目指すは老人が且つて斧を落とした池だ。


「晴れだというのに予想以上に暗いねえ…… 魔獣は出てこないけど、迷ったら出てこれなくなりそうな森だよ……」


 祖母ちゃんは額の汗を拭う。


「確かに、薄気味悪いね、木樵のおじいさんは、よくこんな森に入り込んで木を切っていたもんだよ……」


 僕はびくびく周囲を警戒しながら進んでいく。ミカエルとメアリーは身を寄せ合い、ぺーターはこういった森に慣れているのかそれ程怖がる事もなく進んで行く。


 老人が言っていたように北西方向に半日位進んで行くと、ようやく視界に池を捉えられた。薄気味悪い色をした池だった。


「着いたね、ここか……」


 池というよりは濁っていて沼といった印象だ。その池の中程に小島があり、確かに館のような建造物が建っていた。


「あの真ん中の島までいく必要がありそうだけど、どうやって行こうかね?」


 池の周囲を見渡すと横の方に小舟が見えた。


「祖母ちゃん、あそこに小舟があるよ、あれを使えば良いんじゃないかな?」


「なるほどね、そうさせてもらおうかね」


 そうして僕らは見付けた小舟に乗りこみ、小島に向かって漕いでいった。


 池の水は泥水のように重く船の動きが遅いが、ゆっくり、ゆっくりと進んで行く。


 ちょうど池の畔と小島の間辺りに至った所で、小舟がぐらりと大きく揺れ動いた。


 そして、少し離れた場所に、鱗のある胴体、棘のある大きな背中が見え隠れする。


「祖母ちゃん…… あれは何だろう?」


「ああ、何かいるね…」


「おい、あれはバジリスクだ!」


 ペーターが叫んだ。


「バジリスク?」


 僕はペーターに問い掛ける。


「魔獣だ。そして鶏と蛇と龍を合わせたような姿をしている水性個体だ」


 そのバジリスクは徐々に僕らの乗っている小舟に近づいてくる。


「皆、警戒しな、襲ってくるよ!」


 祖母ちゃんは杖、僕はクロスボウ、ペーターはダガーナイフ、ヘンリック王子とメアリーはスピアーを身構える。


 いきなり水中からバジリスクが鎌首を上げて襲い掛かってきた。


「ちっ、やるよ! ヤイ・セイダマズル・アースメギン・ガストル・ゲイルエルダー!」


 祖母ちゃんが構えた杖から炎の矢が飛び出し、それがバジリスクの嘴にぶち当たる。


「くそおおおおおおおおおおっ! これも喰らえ!」


 僕はクロスボウで何本も何本も矢を放った。何本かの矢はバジリスクの首筋に突き刺さる。


「何てこったい、フレン・コシチェイとかいう魔法使いと戦う前だっていうのに、とんだ強敵に遭遇だよ!」


「ちょっと待て、コ、コシチェイだって! この先にいる魔法使いはコシチェイって言う名前なのか? 俺の追っていた仇の名前も確かコシチェイって名前だぞ! そいつが親友のマシューを殺したんだ!」


 ぺーターはぎりりと歯を食い縛った。なにか熱くなっている。


「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ぺーターは叫ぶと小舟から飛び上がった。そして、バジリスク顔付近まで近づくと、ダガーナイフで左目と嘴に傷をつける。


「ギィィィエエエエェェェェェェェェェ!」


 左目を切られたバジリスクは叫び声を上げ激しくのたうち回った。


 そんな暴れるバジリスクの胴が僕らの乗っている小舟に当たり、ぐらりと大きく傾いた。


「あっ」


 バランスを崩した所でメアリーが船から落ちそうになった。船は僕らの大事な足場だ。落ちたら命に係わる恐れもある。


「あ、危ない、メアリー!」


 ミカエルはメアリーの手を掴み必死に落下を止めた。


「良いかい、メアリー私の手を離すなよ!」


「え、ええ……」


「ハンス! バジリスクの右目をクロスボウで狙ってちょうだい!」


「う、うん、了解!」


 僕はペーターがバジリスクから距離を取った所で、再び数本矢を放った!


「ギイイイイイイイイイイッ!」


 矢の一本がバジリスクの右目に突き刺さる。そして一瞬、動きが止まった。


「い、今だ!」


 祖母ちゃんが杖を身構え、太い炎の矢を放つ! それが両目が見えなくなったバジリスクの脳天を貫いた。


「グウウウウウウウウ」


 バシリスクは呻き声をを上げながら、その身を水面に身を叩きつけ、その後、ゆっくりと池の中へと沈んでいった。


「な、何とか倒せたね…… 小舟の上は勝手が効かないから冷々したよ……」


 祖母ちゃんはふうと大きく息を吐いた。

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