act12 呪いを受けた老人
その老人は人目に付かないようしているように見えた。敢えて誰からも気づかれないようにしている気配があった。
「何だったら、あいつから話を直接聞いてみたらどうだ? 空想話だとは思うがな、ははははははは」
体の大きな男はちょっと馬鹿にしたような目付きで老人を見た。
「あ、ありがとう、そうしてみるよ」
祖母ちゃんはお礼を言って老人に近づく。僕も王子もメアリーもペーターも近づく。ようやく見付けた呪いを掛けた魔法使いの痕跡だ。
「こんばんわ」
声を掛けるも何の返事もない。
「ちょいと話を聞きたいんだけど……」
「…………」
老人は何も返して来ない。
「あんたが森で魔法使い……」
老人はビクンと反応する。
「……森で魔法使いに会ったって話を聞いたんだけど、その話を詳しく教えて欲しいんだけど……」
「あ、ああ…… ひああああああああああああああっ」
老人は急に頭を抱えて呻き出した。
「ゆ、許して下さい! 許して下さい! 嘘を付いてしまいました。わ、儂が落としたのは普通の斧でしたああああああああああああぁ……」
激しく怯え、答えになっていない答えを口ずさむ。
「そ、それはもう良いから、その魔法使いとは森のどの辺りで出会ったんだろう? あたしたちはそれを知りたいんだよね」
祖母ちゃんは本題を問い掛ける。
「……い、居場所?」
「ああ、その魔法使いと出会った場所さ、若しくはその斧を落とした池の場所でも良いんだけど……」
祖母ちゃんは僕らのテーブルから持ち出した蜜酒を老人に手渡した。
「まあ、これでも飲んで少し落ち着きなよ」
老人は促されるまま蜜酒を受け取るとグイッと飲む。
老人の手の震えは少し収まり、蜜酒をまた口に運んだ。
「……あ、あんたさん達は、あの魔法使いの居場所を知りたいというのかなぁぁぁぁぁ?」
「ああ、そうだ」
「わ、悪いことは言わんが…… 探さん方がいい……」
老人は俯いたまま呟く。
「あのさ、あんたがその魔法使いに魂を奪われたって話は本当なの?」
「……魂というか、心臓、ハート、いや命そのものを奪われたんだ。儂の命はあの魔法使いが持っている…… 儂の生死はあの魔法使いの思いのままなのだ」
老人は自分の両肩を掴み身を震わしている。その様子をメアリーとミカエルは強張った顔で見ていた。
「……なるほど、随分と酷い目に合わされたんだね、誘惑しておいて罰を与えるとは、何様のつもりなんだろうね……」
祖母ちゃんは大きく息を吐いた。
「で、その魔法使いの居場所は? 池はどの辺りにあるの?」
老人は躊躇う。躊躇いつつも重い口を開いた。
「この村に北側から森に入ったら、北西方向に五時間程進んでみな、比較的大きな池がある。儂はそこで斧を落としたんだ…… その池には島があり、島には館みたいなのが建っていた。恐らく魔法使いはそこに住んでいるのだと思う…… そんな所だ……」
そのことを言い終えると老人は再び寡黙になり話しかけてくれるなという気配を滲みだしてきた。
「なるほど…… ありがとう。とても参考になったよ」
僕等はお礼を言って席を離れる。
「……一つだけ教えておくよ、命が別の場所にあるのは儂だけじゃない…… 恐らくあの魔法使いも同じだ…… 儂は同じ処置をされたんだよ……」
老人はぼそりと呟いた。




