act14 ペーターの仇
改まって、ペーターが問い掛けてくる。
「な、なあ、アンナ、さっきの話を改めて聞かせてくれないか? ヘンリック王子をカエルに変えた魔法使いの名前の件だけど……」
「ペーター、その話はミカエルから直接聞いた方がいい、あたしのはミカエルから聞いた話だからね」
祖母ちゃんはミカエルに視線を送る。促されたミカエルは小さく頷いた。
「ペーターさん、私をカエルに変えた魔法使いは、自分はフレン・コシチェイだと名乗りました。それは間違いありません。姿は黒いフード付きローブのような物を被った細身の体形で、背は2~3メートル位だったと思います。その者が魔法で私の姿をカエルに変えたのです……」
「コシチェイ…… フレン・コシチェイ…… 俺の聞いた名の方にはフレンというのは付いていなかったな…… そして体形はガッチリとした頑強そうな体付きをしていたと聞いているが……」
ペーターは困惑した様子で僅かに首を傾げる。
「そいつがペーターの探している仲間の仇なのか、それとも別の者なのかは解らないけど、コシチェイと言う名前が共通なんだし、何かしら関係がありそうだね……」
「ああ……」
そう答えながらもぺーターは考え込んでいる。
「だけどね、そのフレン・コシチェイはこの国のこの黒い森を根城にしているようだ。館まであるんだからね、なんで、ペーターの故郷が此処から大分遠いようだと別人というか別のコシチェイの可能性が高いかもしれないねえ」
「…………成程だね」
ペーターの感情は解らないが、何かを思い出そうとしているのか、心の整理が付かないのか、口に手を添え思案に暮れている。
「……あっ、み、皆、聞いてくれ、ちょっと、今思い出したことがあるんだ。俺の追っている仇のコシチェイって奴の話なんだが……」
ペーターが改まり声を上げ始めた。
「コシチェイの話?」
「ああ、そのコシチェイって奴の話なんだが、そいつは簡単には倒せないって聞いたんだ。何でもそのコシチェイって奴は魂と肉体を分離していて、魂は別の場所に仕舞われているという話を……」
「魂を分離?」
「ああ、だから肉体というか本体を攻撃しても不死身の如く死なないと……」
そのコシチェイの館は目前だ。今になってそんなハードルの高い情報が入ってきてもどうにもならない。皆は表情を強張らせる。
「つまりは、魂の方を倒さなけらば駄目って事だね」
そんな祖母ちゃんの声を聞き、僕はある事を思い出した。
「そういえば、あの木樵のお爺さんも、命が別の場所にあるのは自分だけじゃない、あの魔法使いも、って言ってたよね?」
「ああ、そう言ってたね、自分の体と同じように木樵にもしたって事だね、多分……」
「でも、どうやって魂を探せば良いの?」
僕は誰へという訳でではなく問い掛けた。
皆は困惑した表情を浮かべている。
「……俺が前に聞いた話だと、コシチェイの魂は卵の中にあり、その卵はカッコウの中にあり、カッコウはイタチの中にあると言われていたが……」
ペーターはぼそりと呟いた。
「えっ、なに? 何て言ったの?」
僕は意味がよく解らず聞き返す。何のことを言っているのか理解できない」
「俺だって意味は解らないさ、だけど、俺の仲間の仇であるコシチェイは魂をイタチの中のカッコウの中の卵に仕舞っていると言われていたんだよ」
ペーターは少し苛立ち気味に答えた。
祖母ちゃんは纏めるように言及する。
「何だか、難しい話だね、兎に角、コシチェイに会って戦っても普通には倒せないって事だね。コシチェイを殺すには分離している卵を破壊しないと駄目だって事か…… まあ、とにもかくコシチェイに会ってみない事は解らないよ、一応コシチェイ本体は強そうだからあたしとペーターが当たり、魂の入れ物の方はハンスとミカエルとメアリーで当たってもらっていい、但し、魂の入れ物が見当たらない場合は一度退こう。退却する」
「え! 退却するの?」
「ああ、あたしらが逃げ出せばコシチェイはきっと追ってくる。追ってくるという事は魂の器も一緒に追ってくるはずだ。大事な魂の器をほったらかしにはしないだろうからね、そこで魂の器の目星が付くんじゃないかとあたしは考えているんだ」
「な、なるほど」
「そこで魂の器が解ったら再度作戦を決行するんだ」
「解った」
僕だけじゃなくメアリー、ミカエル、ペーターも一斉に答えた。
そんなこんなしていると小舟はゆっくりと池の中央にある小島へと到着した。僕等は周囲を警戒しながら上陸する。いよいよだ。