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ハンス・アンデルスンの異世界大冒険紀行  作者: Y・セイ
ーEpisode one カエルの王子様
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act8  メアリー・ゴドウイン

 翌日、僕等はミカエルのこの国で王子だった頃の記憶を頼りにメアリーの行動を予測する。城の召使達は毎日午後二時頃に町へ出て買い出しを行っていたらしい。


 現在もそのスタイルが維持されているか解らないが、僕達は城近くで召使達が城の裏門から出てくるのを待ち構えていた。


「出て来るかな?」


 僕は小さく呟く。期待を込めて呟いたが、王や王子が不在なのだ。召使が以前と同じ動きをしているとは限らない。


「で、出てきたよ……」


 ミカエルが少し興奮気味に言及する。


 見るとエプロンを付けた召使風の女性がぞろぞろと裏門から出てきたのだ。年配の者、若者等、色々だ。


「あっ!」


 ミカエルの視線が一点に集中する。その先には飾り気はないが真面目で堅そうな女の子がいた。


「メアリーかい?」


 祖母ちゃんの問い掛けにミカエルは小さく頷く。


「おっ、中々綺麗な女性じゃねえか、聡明そうで俺好みだぜ」


 ペーターは気があるような事を言う。これはミカエルには内緒だが狙っている女性を横から奪われそうになると奪え返したくなり本気で好きになるという症候群を突いているのだ。


「だ、駄目ですよ、ペーターさん、メアリーには私の呪いを解いてもらうんですからね……」


 症候群は既に発動し始めたようだ。


 そんなこんな、町で買い出しをしている隙をついて、祖母ばあちゃんがさり気なくメアリーに声を掛け、ミカエルを含む僕達の前に連れてきてくれた。


「あ、あの~、何か私に御用なのでしょうか?」


 メアリーは戸惑った様子で問い掛けてくる。近くでみると派手さはないが本当に賢そうな女性だった。ブラウンの髪を一本に束ね真面目な感じだ。


「申し訳ないね、メアリーさん、少しだけ話を聞いてもらっても良いかな?」


「良いですけど、買い出し中なので、手短にお願いできますか?」


「ああ、ただ、本題に入る前に、メアリーさんは今付き合っている人はいますかねえ? 好きな人がいるとか?」


「えっ」


 メアリーは少し顔を赤らめる。恋愛話とかだと思ったようだ。


「い、いえ、いませんけど…… それが一体何の関係が?」


 祖母ちゃんは胸を撫でおろす。


「じゃあ、本題に入るよ、ちょっとメアリーさんに会わせたい人が居るんだよ」


「会わせたい人?」


 メアリーは緊張気味な表情をしつつ、ペーターや僕の顔を覗き見た。ちょっと品定めされているように感じる。


「実は、彼なんだけど……」


 祖母ちゃんは後列に並んでいたカエルを前に押し出す。


「えっ、ど、どちら様ですか?」


 メアリーは緑の肌の鉄仮面男を紹介され怪訝な表情を浮かべる。


「え~と、大きな声を出さないで欲しいんだけど、彼は実はヘンリック王子なんだよ」


「えっ!」


 メアリーは驚きの表情のまま手で口を押える。


「そ、そんな馬鹿な! 王子さまは行方不明だけど、多分死んでしまっているって聞きましたけど!」


「死んでしまっているって聞かされていたのかい?」


「ええ、ええ……」


 改まってミカエルはメアリー声を掛ける。


「メアリー、私は本当にヘンリックだ。魔女に呪いを掛けられてカエルの姿にされてしまっているんだよ」


 ミカエルは真面目で紳士的な態度で説明をする。


「そ、そんな事って……」


 メアリーは手で口を覆い驚きを隠せない表情でいた。


「で、でも、そのような奇怪なお姿でヘンリック王子だと言われても俄かには信じられません。本当にヘンリック様なんですか? その姿じゃ私としては信じられませんよ」


 それはそうだろう。ペテンだという事もある。聡明そうな者なら簡単には信じないだろう。


「でも、私はヘンリックだ。ヘンリック王子なんだよ」


「も、申し訳ありませんけど、顔や体付きからはヘンリック様の面影は全く感じられません。正直カエルにしか……」


 メアリーの視線からは猜疑心がにじみ出ていた。


「そ、そんな事はない、信じてくれ、メアリー私を信じてくれ! 本当なんだよ!」


 ミカエルは必死に訴える。


「な、なら、私とヘンリック様しか知らないような事を言ってもらえますか?」 


 少し考えてからメアリー問い掛けてきた。


「えっ……」


 ミカエルは戸惑いつつも少し考える。


「……う~ん、それじゃあ、私はリコリスの味が苦手だったじゃない。それは覚えているかい?」


「そ、それは確かでしたが、その事はこの国の比較的多くの人が知っています。その内容だけじゃ信用できません」


 メアリーのハードルは高かった。


「そ、そうしたら……」


 そして、かなり思い悩んだ末にミカエルは躊躇いがちに声を発した。


「ほら、あのさ、洗濯を出すときに…… 多分、ほぼ毎回ウンチの付いたパンツを……」


 うおっ、や、やばい告白だ。


「…………!」


 メアリーは滅茶苦茶顔を赤らめる。


「……なるほどね、身の回りの世話をしてくれていた訳だし…… 確かにそれはメアリーとヘンリックしか知らない内容だね。だけど、それが本当だっとしたら、滅茶苦茶不潔だよね……」


 祖母ちゃんも怪訝な表情を浮かべる。ペーターもかなり引いてた。


「そ、それは正しいです」


 マジですか!


「でも、まだ信じ切る事は出来ません。まだ五割位です。他には?」


「えっ」


 ミカエルは考え込む。


「う、う~ん、う~ん……」


 もう出てこないらしい。


「ま、まあさ、メアリーさん、そこんところは一度保留にしてもらって、彼を王子様だと仮定してもらった上でさ、あたしらに協力してもらう事は出来ないかな?」


 祖母ちゃんが話に割って入り提案する。


「協力?」


「ああ、あたしらは彼の呪いを解いて王子の姿に戻してあげたいと考えているんだ」


 祖母ちゃんは改まってメアリーを説得する為の話をし始めた。

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