act2 カイという名前の少年
「それでさ、その雪の女王って、ニヴルヘイムの何処に居るんだい?」
改めて祖母ちゃんが問い掛ける。
「北の方に雪の女王の城があるのです。私はそこを目指して進んでいたのですが、御覧の通り、途中、川で流されニヴルヘイムの南の果てまで来てしまいました……」
「成程、北の方なのね、かなり遠そうだね」
「でも、ヘルヘルムの入口は更に北になります。一応通り道になるかと思います」
「まあ、そうだろうね、あたし達は南から来たしね」
そう言いながら祖母ちゃんは少し考える。
「それで、その、あんたの幼馴染さんは、何ていう名前なのかな?」
「あっ、そうですね、お伝えしてなかったですね、幼馴染の名前はカイと言います。性別は男です」
ゲルダは答える。
「ふ~ん、カイ君って言うんだ。んで、カイ君って子はなにか秘密があるのかな?」
「秘密?」
「ああ、世界を救う預言の子供だとか、なんが体の中に野獣が封印されているとか、そんな設定がだよ?」
「そ、そんな設定なんてありませんよ、何ですか設定って? とにかく普通の子供です」
ゲルダはちょっと怒ったように説明をする。
「あっ、でも……」
ふと思い出したような顔でゲルダが付け加える。
「でも?」
「そういえば、カイが連れ去られた時に目撃した人が、雪の女王が魂の器とか何とか話しているのを聞いたと言っていましたが……」
「えっ、魂の器だって!」
祖母ちゃんが声を荒げる。
何やら聞き覚えのある用語が耳に入ってきたぞ。
「そ、それは、聞き捨てならない言葉だね、それが本当だとしたら、大分、重い話の気配がしてきたけど……」
「重い話ですか? その魂の器って言うのは何なのでしょうか?」
ゲルダは心配そうに問い掛けてくる。
祖母ちゃんは向き直り改まって説明をした。
「ああ、魂の器ってヤツは、魂の入れ物って事だ。ニダヴェリールで似たような話を聞いたんだけど、強い魔力を持つ魔法使いが、自分の不死性を高めるために、自分の魂を分けて、他の人間や生物に魂の一部を移す事をするらしいんだ。その魂の一部を移す対象が魂の器なんだ」
それを聞いたゲルダは表情を青ざめさせる。
「そ、それって、もしカイがそうだとしたら、どうなってしまうんですか?」
祖母ちゃんは顎に手を添えて少し考える。
「えーとね、まず、体が強くなる。不老不死みたいにもなる。だけど自我が失われる事が多い。つまり魔法使いの使い魔のような感じになっちまうんだ。仮に自我が失われなかったとしても性格が歪む。まあ、嫌な性格になる事が多いって事かな」
「そ、そんな…… じゃあ、カイはカイじゃなくなっちゃうって事ですか?」
「まあね」
「何とか助ける事は出来ないんですか?」
ゲルダは必死に訴えてくる。
「まあ、慌てるんじゃないよ、まだそう決まった訳じゃないだろ」
「で、でも……」
「まあ、残念な話だけど、もし、そうなっていたら、助けるのはかなり困難になるね」
「そうなのですか?」
「ああ、魂の器だったものが魂の器じゃなくなったら、急速に寿命が減ってしまうんだよ」
「寿命が減るって…… じゃあ、どうしたら良いんですか?」
「う~ん、幾つか方法はあるんだけど、どの方法が理想的なのかが見出だせないね、まあ、それも考えながら先を進もうじゃないか」
祖母ちゃんはゲルダの肩をポンポン叩きながら励ます。
そんな話をしながら、僕等は川を越え、崖を登り、ニヴルヘイムの領域に入っていく。
ニヴルヘイムの領域に入ると景色が一変した。粉雪が降っているのだ。そして、明らかに気温が一〇度程低い。
「さ、寒いわね……」
ハルシェシスは服の前のフックを止め、マントを体の前で重ねて防寒態勢を取る。
「ああ、想像以上に寒いね」
祖母ちゃんも顔を顰める。
「この寒さが、他のエリアからの生態系の侵入を阻んでいるんだよな、とてもじゃないが人魚やリザードマンは暮らせそうにないだろ?」
毛が膨らんだバステトが言及する。
「まあね、ホッキョクグマとかトナカイとかじゃないと生きていけそうもないね。それとゲルダ達の種族とか……」
少女ゲルダは普通の格好をしていた。僕等みたいに防寒着ではない。
「私達コルポックル族は、寒さに強いんです。正直今の感じは少し暖かい位ですよ」
「そ、そうなんだ……」
僕としては感心するしかない。




