act20 消滅呪文
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
突然、僕の姿をしたペーターが、ペーターの姿をした祖母ちゃんからダガーナイフを一本奪い取り、それを構えビュルギャに襲い掛かった。
「ふん、遅いね! あたしには、そんな攻撃は効かないわよ」
ビュルギャは大鎌をグルグルと回しダガーナイフを弾き飛ばす。更に乱れ散る大鎌から出た波動の余波を浴びて僕の姿のペーターは後方に飛ばされ尻餅を付いた。
「ん?」
ビュルギャが自分の頬を手の甲で拭った。そこには血が付いていた。
「あっ、ああっ、あ、あたしの顔に傷が! あたしの頬に傷が付いているじゃないか! ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ!」
ビュルギャは怒りを露わにする。
「よくもやったね! 身の程知らずが! お前から死にな! 塵と化してやる!」
大鎌杖を構えたビュルギャは呪文を唱え始めた。
「大鎌杖の根元の法玉が光りはじめる。
「……アースメギン・ウェルザンティ・ビスク!」
「くっ!」
「ま、待ちな!」
瞬間、ペーターの姿をした祖母ちゃんがその間に割って入った。
手元に残ったダガーナイフで自分の掌を切り流れ出る血をダガーナイフに塗り付ける。
「ヤイ・セイダマズル・ウェルザンディ・スペイルビルデっ!」
祖母ちゃんはダガーナイフを正面に構え呪文を唱えた。
ビュルギャの大鎌杖から閃光が放出される。光の粒子による攻撃呪文のようだ。祖母ちゃん側からも何か魔法が放出されている。
正直、何が何だかよく解らなかった。ビュルギャの攻撃呪文の威力なのか、祖母ちゃんの呪文が衝突した為なのか、周囲は強い光で何も見えなくなった。
「うわああああああああああああああああああっ!」
僕は只々声を上げるしかない。
そして、何もみえないままビュルギャと祖母ちゃんがいた方から高い音と衝撃波が襲い掛かり、僕は吹き飛ばされ壁にぶち当たり意識を失ってしまった。
それからどの位の時が経ったのかは解らないが僕は意識を取り戻した。ほんの僅かな時間なのか、ある程度経過したのか解らない。
しばらくすると、光が落ち着いてきたのか、目が慣れてきたのか周囲の様子が見えてきた。
皆は倒れ伏していた。だが中身が入れ替わっているから誰が誰だかよく解らない。
ただ外見上は、祖母ちゃん、ハルシェシス、バステト、奥の方には横たわっているアクアと鴉の姿が見えた。
確か、祖母ちゃんの中身がバステトで、バステトの中身がハルシェシス、ハルシェシスの中身が僕で……。あれ? なんでハルシェシスの姿が見えるんだ?
改まり、僕は僕の体を見た。探検服に手にはダガーナイフと背中にはクロスボウを持っていた。
「あっ、元の姿に戻っている?」
確かペーター姿の祖母ちゃんとビュルギャの魔法が衝突していたような印象があったけど……。
「あれ、ペーターの姿が見えないぞ」
僕は周囲を見回すが姿がない。そして、ビュルギャの姿も。
「うっ、ううっ……」
祖母ちゃんやバステト、ハルシェシスから動きが見え始めた。僕は歩み寄る。
「祖母ちゃん!」
「あっ、ああ、ハンス、無事だったんだね…… あれ、お前、ハンスの姿だけどペーターかい……」
「いや、祖母ちゃん、僕はハンスだ。多分中身は元に戻っているよ、中身が祖母ちゃんなら間違いないよ」
「そうかい、となると、一体どうなったんだい?」
祖母ちゃんは周囲を見回す。
「逆に僕が聞きたいよ、ペーター姿の祖母ちゃんがビュルギャと魔法のぶつけ合いみたいなのをしていたけど……」
「あれは反射呪文だよ。ビュルギャの魔法を跳ね返す魔法を使ったのさ」
祖母ちゃんは足元が覚束ない様子ながら立ち上がった。
「反射呪文って事は跳ね返したって事? 僕等の姿が戻ったって事は、ビュルギャの魔法が解けたって事だよね? ビュルギャの魔法が解けたって事はビュルギャは?」
「ああ、大きなダメージを受けている可能性が高いね」
「僕にもそう思えるね」
そんな会話をしていると、ハルシェシスとバステトが足を引き摺りながら近づいてきた。
「ど、どうなったんだ?」
バステトが聞いてくる。
「祖母ちゃんがビュルギャの魔法を跳ね返した。跳ね返したんだけど、その時入れ替わっていたペーターの姿が見えない、そしてビュルギャの姿も……」
「つまり魔法発生場所近くに二人はいたって事よね…… その付近を確認に行きましょうよ」
ハルシェシスが促してくる。
「うん」
僕等は足を引き摺りながら、ビュルギャやペーターが居た場所へと近づいて行く。
「……あっ、ぐふっ、ごほごほごほ…… あぐっ……」
瓦礫の溜まった場所から微かに呻き声のようなものが聞こえてきた。
その声が聞こえる方へ近寄ると、袈裟懸け状に大怪我を負って倒れているビュルギャの姿があった。
「……お、お、おのれっ、ごほごほごほ、まさか反射呪文を使ってくるなんて……」
傍からみても肉が抉れており致命傷と解る大怪我だった。例え魔女だろうが魔法使いだろうが死は免れない状態だろう。
「……く、くそっ、……あ、侮ったわ…… がはっ、がはっ」
ビュルギャは口から血を吐きながら声を漏らす。
「……な、何十年も……探し求めていた、エ、エリクサーを目前にしながら…… エ、エリクサーが目の前にあるのに、こんな事になる、なん……て…… 口惜しい…… 口惜しいわ……」
致命傷を受けているにも関わらず、ビュルギャは赤い目をギラギラさせていた。
「……な、なあ、怖いから止めをさそうぜ」
バステトが呟く。
「そ、そうね、放っておくと復活して仕返しされそうで怖いしね」
ハルシェシスもうんうん頷く。
「苦しんでいるのは辛そうだから終わらせてやろう。ハルシェシス頼んだよ」
「えっ、アタシなの?」
「頼むよ、苦しまないようにするには、あんたの大きなバスターソードが一番だよ」
祖母ちゃんの促しに皆うんうん頷く。
「わ、解ったわよ、仕方がないわね……」
ハルシェシスは少し戸惑い気味ながらバスターソードをビュルギャの胸の上に構え、そして突き立てた。
「ぐっ……」
それを受けて、ビュルギャの体は動かなくなり、しばらくすると黒い煙のようになって消えていった。
「……終わった。終わったね」
「僕は皆に確認するように問い掛ける。
「ああ、終わったよ……」
祖母ちゃんの声を聞いて、僕は少し安心して大きく息を吐いた。
「そ、それで、肝心のペーターは何処なんだろう?」
僕は周囲を見回す。親友の無念を晴らす為ビュルギャを倒す事を一番望んでいたのはペーターなのだから。
しかし、ペーターの姿は見当たらない。
気が付くとアクアを拘束していた烏は何時の間にか姿を消していた。アクアだけがその場で静かに横たわっていた。
「ペーターが居ないぞ、何処にも……」
改めて探すも何処にもペーターの姿は無かった。




