act15 卑怯なビュルギャ
「あたしが怪我をしているのは本当の話だ。そして怪我を直そうとしているのも本当の話だ。だから、アダーストーンやエリクサーを探しているのも治療目的があるからだ。残念ながらアダーストーンは惜しくも取り返されてしまったようだけど、ならばエリクサーを何とか手に入れたいと考えているんだよ」
そう話しながらビュルギャは傍に控えるゴブリン達に目配せをした。ゴブリン達は小さく頷き、部屋の本棚の前に移動し、その本棚を横に動かし始めた。
本棚の裏側は小部屋のようになっていて、その小部屋には誰かが鎖で繋がれているのが見えた。
翼竜のような羽、ドラゴンと人が相まったような手足、額から生えた角。
「えっ、フ、フレデリック様!」
そこにはドラゴニュート族の王子であるフレデリックが手首、足首などを鎖で繋がれ拘束されていた。そして、具合が悪そうに項垂れていた。
「な、なんで、フレデリック王子が此処に掴まっているんだい?」
祖母ちゃんは困惑した表情で問い掛ける。
「あたしにも色々と思惑があってね、ただ此処にいるだけじゃないんだよ」
「フレデリック王子は関係ないじゃないか! それにこんな真似をしたら、人魚族とドラゴニュートの間に紛争が起こっちまうよ!」
「ふん、紛争が起ころうが、起こるまいがあたしには関係ないね。あたしはあたしの思惑通りに事が進むようにしていきたいだけなんだからね」
ビュルギャは不敵な顔で笑う。
「ハルシェシス、バステト、フレデリック王子を救出して!」
祖母ちゃんが促す。
「だな、これは、犯罪行為だ。見逃せねえよ」
「そうね、拘束監禁罪ね」
バステトとハルシェシスはずずいと前に出てくる。
「ん? 何をする気だい? 言っておくけど強引に拘束を解いても無駄だよ、フレデリック王子には呪いが掛かっているんだ。拘束を解いても殆ど動かないよ、そして、この呪いはあたしが仮に死んでも解ける事はない、解くにはある条件を達成する必要がある呪いなんだよ」
「えっ、呪い? な、なんでそんな真似を?」
アクアは戸惑い気味に問い掛ける。
「だから、色々思う所があるのさ」
ビュルギャは薄く笑う。
「じゃあ、その条件っていうのは何なんだい?」
祖母ちゃんも問い掛けた。
「真実のキスだよ。愛を以て行われる真実のキスが呪いを解くのさ、只ね簡単なキスじゃ呪いは解けないよ。自分を犠牲にしても相手を救いたいと思える程に心の籠ったキスをした時にはじめて呪いの効果は消えるんだよ」
ビュルギャの声にアクアは困惑した表情を浮かべる。
「自分を犠牲にしても相手を救いたいという気持ちのキス…… そ、それは一体、どうすれば良いのかしら?」
「ふふふ、大丈夫だよ、アクア王女、お前は以前からフレデリック王子に対してその気持ちを持っていたようだからね……」
何か妙な気配があった。ビュルギャは優しく教え諭すような表情を浮かべているが、その表情の裏には得体のしれない欺瞞に満ちた嘘があるように感じずにはいられない。
「以前から?」
「他の奴なら躊躇うような事かもしれないけど、お前は自らあたしの所にその事を相談しにきただろ? だから既にその気持ちを持っていると、あたしは思っているんだよ」
「そ、それは?」
「つまりだよ、自らの体を犠牲にしてもっていうのは、自らの種族を捨てても相手に対し身を尽くし、その上でキスをすればその効果があるという事さ、そう、つまり具体的には、人魚の体を捨てて、他の種族の姿になり、その上で相手に対し真実の愛に満ちたキスをするって事さ。お前は大分前からその気持ちを持っていたと思うけどね?」
「え、ええ……」
なにかお膳立てがされたシナリオのような気配があった。アクアの気持ちがではなく、アクアの気持ちを鑑みて用意されたお膳立てのような気配が。
僕は思わず声を上げる。
「アクア! 気を付けて! 何か誘導してきている気配があるよ、海の魔女のいう事をそのまま真に受けるのは危険だよ」
僕の声にアクアは小さく頷いた。だけど心は此処にあらずというような頷きだった。
「あたしはアクアに説明しているんだから、外野は黙っていな!」
ビュルギャはイライラとした声を上げる。
「ビュルギャ様、つまりは、私が人魚の姿を捨てて、ドラゴニュート族の姿になって、その上でフレデリック様にキスをすれば、フレデリック様の呪いは解けるって事なの?」
改まってアクアが問い掛ける。
「ああ、そういう事だよ」
ビュルギャは頷き返事をする。
「アクア、慌てるんじゃないよ、落ち着いて考えな、ビュルギャの話には奇妙な所や矛盾点が沢山あるよ」
祖母ちゃんも忠告する。
「のんびりしていて良いのかね? 放っておいたらフレデリック王子は弱って死んじゃうかもしれないよ」
「…………」
色々変だ。そもそもフレデリック王子を拘束して此処へ監禁して呪いを掛けたのはビュルギャ本人だ。それを態々アクアに呪いを解かせようとしている。何故そんな回りくどい事をする必要があるのだろうか? ビュルギャのそもそもの目的や何を考えているのかがよく解らない。
「やるわ、私。フレデリック様を助けたいし、その後ドラゴニュート族としてフレデリック様と添い遂げる覚悟が出来たわ、仕方が無いのよ、人魚族を捨てるのに確かに躊躇いもあるけど、これは仕方が無い事だし、これが運命だったのよ……」
考え込んだ様子をみせた後、アクアは意を決した様子で声を発する。
アクア自身にも迷いがあったのだろうが、この状況が気持ちの駄目押しとなったような気配がある。
「だ、駄目だよ、ちゃんと吟味しないと!」
祖母ちゃんが制止するも、アクアは自分の手に持っていた自分が望む容姿に変わる事が出来るという薬の入った瓶の蓋を開け、グイッと口にしてしまった。




