act6 情報収集
山脈の先に山に囲まれた盆地があった。盆地の広さは隣の王国と同じぐらいの感じだ。盆地の奥側には湖があり、更に奥には大きな森林が広がっていた。
「ああ、見えた、ここが私の国メーラル王国です。か、帰ってきた……」
カエルは感慨深げに伝えてくる。
「ふ~ん、奇麗にまとまった感じの国なんだね…… さてさて、その国が現在どうなっているかだけど……」
祖母ちゃんは王国全体を俯瞰しながら言及する。
「兎に角、端から様子を見ながら進んでいこうかね……」
「はい」
カエルは緊張気味に答える。
僕達は気を付けながら山を降っていった。降りきった盆地には農地などが散見し、次第に国や人々の営みが見えてくる。
「なあ、アンナ、この後、どういう流れで考えてるんだ?」
ペーターが問い掛ける。
「とりあえず、城近くの町まで行こう。そして飯屋かなんかで情報収集だよ、国が今どうなっているのか、王子の生死行方不明なんかの状況も知りたいしね」
「なるほどな」
ぺーターの問い掛けに答えた祖母ちゃんはそのままカエルに視線を送る。
「因みに、あんた、正式名称は何て言うの? ずっとカエルって呼んでいたから、名前を知らないや……」
祖母ちゃんはカエルを見ながら質問する。そういえば名前を聞いていない。
「そ、そうですよ、ようやくですよ、ペーターさんやアンナさんとハンスさんが自己紹介をし合っているのに、私の事だけほったらかしにしていたでしょ!」
カエルは抗議の声を上げる。
「で、名前は?」
祖母ちゃんはそんな抗議はさらりと無視する。
「……私はヘンリック・ラスムッセンです。これからはヘンリック王子と呼んでくれたまえ」
「それ却下、バレる」
そりゃそうだ。
「そうだね、カエルって呼んでもバレるし、何か呼び名を決めないとね…… そうだ、ミを付けてミカエルってのはどうだい?」
「ミカエルですか…… なんだか天使の名前みたいですね……」
「取り敢えずだよ、我慢しな」
「わ、解りましたよ……」
カエル改めミカエルは渋々といった様子で返事をする。
どんどん国の中央に近づいていくに従って町は栄えていった。王や王子不在でも特に国は乱れていないようだ。ただ国の至る所に衛士とか衛兵らしき姿を見掛ける。
何だかちょっと物々しい感じだ。
僕たちは城近くまで至った所で飯屋に入った。
ヘンリック王子であるミカエルには金属製のマスクとシャツ、ブーツを履かせてある。カエルとはバレない筈だ。
僕らが席に座ると、中年の店員らしき人物が近づいてきた。
「おう、いらっしゃい、あんたら何を用意するかい?」
この店に関してはオーダーを取りに来るスタイルらしい。
「え~と、取り敢えず、蜜酒を4つ、あとメニューを置いておいてくれない?」
「おう、了解だ」
祖母ちゃんは早速、蜜酒を注文した。また酒だ。
「さてと、何を食べようかねえ?」
祖母ちゃんはちらりとペーターを見る。
「ペーター、あんたのお勧めを教えてよ、地元でしょ?」
「えっ、地元って訳でもねえけど、お勧めかい? まあ、俺が好きなのは、ハッセルバックとかフレスケスタイとかかな~」
ペーターはちょっと悩みながら答えた。
「ハッセルバックとかフレスケスタイか、それメニューにあるかな~」
祖母ちゃんがメニューを凝視する。
「おっ、あるねえ、両方あるよ」
そんなこんなで祖母ちゃんはハッセルバックという芋料理とフレスケスタイという豚肉料理を注文した。
そして、僕らは歓談スタイルで酒と料理を口にする。
「お待たせだ、追加のハッセルバックだぜ、おっ、そういや、あんたら冒険者かい? ここいらじゃあんま見掛けねえよな、派手なメイド服の姉ちゃんと、探検者君と小人族に…… 魚人……いや、蜥蜴男かな、兎に角、変な組み合わせだな」
料理を運んできた店員が話しかけてくる。騎士風金属マスクのお陰で、カエルとはバレていないようだ。
「こいつはサラマンダー男さ、まあ、そんな事は置いて於いて、この国は良いね、国が安定しているようだし……」
「いや、ちょっと前までドタバタしていたんだけどな、ようやく最近落ち着いてきたんだ」
「ドタバタって、何かあったのかい?」
解っていながら祖母ちゃんは何も知らない体で問い掛ける。
「いやな、王が死んだり、王子が行方不明になったりと色々あったんだよ、まあ、最近になってようやく安定してきたけどな……」
「王が死んだり、王子が行方不明?」
「まあ、王が死んだのは病気だから仕方がねえことだが、後継者の王子様が行方不明になっちまったんだよ、もう死んじまっているなんて話も聞いたがな……」
「王子が行方不明? それは困るじゃないか、統治者が居ないなんて……」
「ああ、それでしばらく主導権争いで国が乱れてな、だか近衛軍が混乱を抑え込んで、今じゃ近衛軍の将軍が執政として国を治めているんだよ」
「とすると、王国が軍事国家になっちまったって事かい?」
「ああ、そういう事になるな…… まあ、統治者が変わっただけで、自由に商売が出来れば俺らは困らんけどな……」
店員は笑って答える。そんなやり取りを聞いているミカエルは握った拳を震わしていた。
「……因みに近衛軍の将軍って名前は何ていうんだい?」
祖母ちゃんが改まって質問する。
「ハインリッヒ執政様だよ」
「ば、馬鹿な!」
ミカエルは思わず声を漏らす。や、やばい! 僕はすぐに重ねるように声を張る。
「バ、バッカーナ! バッカーナ! そうだ! バッカーナ料理ってあります? バッカーナ料理をお願いします!」
「ん? バッカーナ料理だと? なんだそれ? そんなもん此処にはないぜ!」
「あっ、あれ~、無いんですか? 最近流行りの料理なんですが! 残念だな無かったのですか?」
慌てて僕は誤魔化す。その隙に祖母ちゃんがミカエルに黙るように厳しい顔で牽制した。
「へ~、そんな流行りの料理があるのかい、今度調べて用意するようにしておくぜ」
「宜しくお願いします。商売頑張ってくださいね」
そんなこんなで店員は下がっていった。




