ほかほか
「聞こえてた?」
「……うん」
「そっか、うちの親声大きいんだよね」
「……そう」
「もう会うなって言われたよ」
「……そう」
私たちの足音だけがぱたぱた鳴っている。
「なんかごめんね、帰ってれば良かったのに」
「私も帰ろうと思った」
「ふーん、でも帰らなかったんだ」
「……帰れなかった。泣いてたから」
「なんで泣くんだよー、私だって泣いてないぜ?」
「――泣いてた癖に」
「バレてたか」
公園に着いた。梅雨ちゃんが友達を辞めようと言ってきた公園に。そこでは今日も宝石のような夜景が見えた。
「私が泣いてたのは、世界が理不尽過ぎたから、梅雨ちゃんの親を世界と言うのはおかしいかもしれないけど。――私が泣いてたのは、不幸過ぎたから。私たちが、可哀想過ぎたから」
さっきまで軽快な受け答えをしていた梅雨ちゃんが、黙った。
「違う」
「私は可哀想じゃない。不幸じゃない。――だって、今隣に彩月が居るから。好きな人が居るから」
前ここに来た時は貴女は泣いていた。
大きなその瞳に溢れんばかりの涙を溜めていた。
でも今私の横にいる貴女は、強く挑戦的な輝く瞳を携えてフェンスに体重を預けている。
煌めく夜景に包まれながら私が思ったことは一つ。いつも梅雨ちゃんは、
「――綺麗だ」
「だよね」
「夜景のことじゃないよ……」
「あ、そっか……あ! 知ってる? そこの自販機にホットレモンがあるんだよ! 飲もう?」
頬はまだひりひりしていたが、心と身体だけぽかぽかしていた。
私は今、とても幸福だ。