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月夜のセレナーデ  作者: ほしまいこ
第二章 北陸の旅編
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第一節 チル旅の企画

予告させて頂きました札幌編の前に、2人の癒しの旅を入れさせて頂きました。

北陸の優しい自然が、2人の心を和ませる春の三連休の旅編です。

第一話 前日の夜

<久我の金曜日: 疲労困ぱい>


「ただいま」


金曜日の夜、俺は宴会で遅く帰宅した。

玄関から居間への扉の磨りガラスは暗く消えている。

もうユウリは寝てしまったか、と残念に思う。


年度始まりの4月と言うこともあり、毎日取引き先との宴会や残業で遅くなり、ユウリと自宅で話す時間もままならなかった。

今夜も金曜日だと言うのに深夜0時手前で、ユウリが起きているかどうか怪しい。


居間の扉をそっと開けると、テレビの電源が入ったまま、映画の案内画面がついている。

ソファには寝落ちしたのか、ユウリがクッションを枕に身体を小さくして寝ている。


目元は涙が伝った跡があり、ティシュがテーブルに幾つか丸めて置いてあった。


「ユウリ、風邪ひくぞ。ベットで寝よ」


ユウリはううんと言って目をゆっくり開いた。俺を見ると嬉しそうに微笑む。かわいいヤツだ。


「お帰り。お仕事お疲れさま。お風呂追い焚きするよ。ご飯は?宴会できちんと食べられたか?お茶漬け作るぞ」


「お風呂だけで大丈夫、ありがとう」


ユウリは立ち上がり、俺のジャケットとパンツ、ネクタイを受け取り、ハンガーに掛けてくれた。

疲れて家に帰って、待っててくれる家族の存在がとても愛おしい。疲れている時はなおさらだ。


「何の映画見てたの?泣いてたみたいだけど。悲しい映画?」


まだ目元が赤いユウリは、簡単に映画の説明をしてくれた。


「お年寄りに思い出の場所で写真を撮る話しでさ、老人達から赦しの意味を教えられて人生の意味を見出す話なんだ。富山や北陸地方の、のどかな風景や人の優しさに癒されたよ」


北陸か。仕事で新潟県には行ったことはあるが、観光はないな。映画のチョイスが心優しいユウリらしくて、俺は何だかほっこりする。


赦しか…

俺は風呂に入りながら、疲弊した自分の身体をお湯の中でさすりながら労った。ユウリは炭酸入浴剤を入れてくれた。自分が入る時は入浴剤なしで俺のためにお湯を綺麗に使って、今入れてくれたようだ。その優しさが身に染みる。

疲れた身体がゆっくり解けていくようだ。


今週末は三連休なので、ユウリとゆっくり休もう。ここひと月、仕事優先でお互いの時間を取れなかったし、何をしようか。そう言えば忙しくて何も考えてなかった。風呂から上がったら、ユウリの希望聞いてみよう。


すっかり癒されて風呂から上がると、ユウリは2日程度の旅行で使うボストンバックに荷物をパッキングをしていた。


「ユウリ、明日は一人でどこか行くの?」


え、週末俺一人?不安になってユウリに聞いた。


「お前も一緒だよ。三連休、予定ないって言ってただろ。明日は早いから、もう寝るぞ。

久我、仕事忙しくて魂抜けてただろ。さっきの映画見て、行くスポットも大方決めたし。

明日は富山方面に行こう。久我も行ったことないよな。2人でプチ旅だ」


え、富山?北陸の?

俺はキョトンとしてユウリを見つめた。


「詳しくは布団に入ったら話すから、まずはドライヤーしよう。こっちにおいで」


手早くドライヤーで髪を乾かしてもらい、俺は寝室まで背中を押されて連れて行かれた。


布団に入ると、ユウリは俺の頭を抱えて、小さい子をあやす様に髪を撫でてくれた。


「ユウリ?今日はどうしたの?いつも優しいけど、今日はお兄さんぽいと言うか、めっちゃ優しい。しばらく仕事で忙しくて、俺が何もしてあげれなかったのに、なんか気を使わせて悪いな」


ユウリは更に俺の頭をガシガシ撫でて、気にするなと言った。

ユウリには2つ下の妹がおり、結婚して3歳の息子がいる。そのため、おっとりとした性格だが男前な一面もあり、兄がいる俺とはまた違う。


「久我の荷物は俺が詰めたから、明日は貴重品だけ持参してくれ。お前、少し精神的に補給しないと今はダメな状態だから、富山辺りでゆっくり休もう。

すごく良いところみたいでさ、食べ物も美味しいらしい。旅行の事は俺に任せて。

明日8時台の飛行機だから、6時起きな、お休み」


ユウリは俺の額にチュッと軽くキスをして、電気を消した。


俺は柔軟剤の良い香りのするユウリの腕に、風呂で温まった身体をすべて預けた。そして3秒後には深い眠りに落ちていた。



第ニ話 出発の朝

<久我の休日: 新しい土地>


「久我、起きろ!朝だぞ、旅行だぞ」


ユウリに身体を揺さぶられ、俺はハッと目を覚ました。そうだ、今日は土曜日、これから三連休だ!ユウリが何やら企画してくれた旅行プラン、詳細はわからないが何だかワクワクしてきた。


急ぎ身支度して、ユウリと空港行きのバスに飛び乗った。自宅近くから空港行きのバスが6時台からある。


朝焼けの中、バスの窓からの東京の景色を見ていると、数日、この忙しない東京から離れられると実感が湧いてきた。


見慣れた東京タワーやレインボーブリッジが朝焼けで赤オレンジに染まる。

東京湾の水面は穏やかで、高いビル群を映す。

とても幻想的で、初めて東京の美しい一面を見た気がした。日常に縛られた心が、新鮮な驚きでざわめいた。


そっと横を見ると、ユウリが優しく俺を見つめていた。


「朝の東京の街はキレイだよな。特に東京湾の辺り。水面にビルが映ってさ、普段は仕事で見落としていた日常の美しさ感じる気がする。俺、好きなんだ」

と優しく笑った。


「お結び作ったから食べよ。具がなくてオカカと梅干しだけど、腹減ってるだろ?コーヒーは空港で買ってやるからな」


ユウリは早く起きてお結びを握ってくれたんだ。一緒に出されたお茶とお結びを食べ、俺は幸せに包まれていた。


富山空港は羽田空港から約1時間。飛行機に乗て飲み物サービスを受けたらあっという間に着く距離だ。


ベットで叩き起こされて、幻想的な東京を眺めていたら、気づけば富山県に立っている気がする。

まだ目の覚めていない頭で、ユウリに手を引かれてレンタカー屋まで連れてこられた。


手続きが終わると、ユウリに車に案内された。

え、かっこ良くない?マツダのロードスターだ。


「レンタカー、こんなカッコいいの手配してくれたの?乗りたかったんだ!これ、オープンカーじゃん、今日晴れてるから開けられるな!」


俺は子供みたいにはしゃいでしまった。

いつもは俺が休日のイベントを企画することが多いが、車好きのユウリらしい、車の機能とデザイン性を考えたチョイスだ。


ユウリはそんな俺の様子が面白かったのか、ふはは、と笑って俺を助手席に押し込めた。


「まずは俺が運転するよ。久我は運転したい時言って。この連休は、お前は思いっきり何もしないか、自分の好きなことだけするんだぞ」


ユウリはそう言って、俺の頭をまた撫でてくれた。ユウリはこの旅ではお兄ちゃんモード発動らしい。


富山空港の空は晴れ渡り、立山連峰がくっきりと綺麗に見えた。

自然が創り出した圧巻の山波に、自分がとても小さく感じ、俺は更に心が解けていくのを感じた。

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