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月夜のセレナーデ  作者: ほしまいこ
第一章 フランス編
6/16

第五節 パリの朝

久しぶりに再会のふたりの時間編です。

*R15の表現があります。


第一話 朝のふたり

<久我の理性: ユウリの誘惑>


「フランスは初めてなんだ。街並み、やっぱりオシャレだったな。ホテルのエントランスもすげー広くてオシャレで、重厚感と言うか大人の余裕を感じるよ」


ホテルへの道すがら、いかにも観光客らしくキョロキョロしているユウリが愛らしい。

街並みに夢中になっているのを良い事に、俺は何度かユウリを抱き寄せてキスしたり、腰に手を回してさりげなく触っているが、当の本人は上の空で気にもしてくれない。

久ぶりに会ったのに、何だか寂しい。


ユウリは初めてのパリに感動しているのか、メガネを外して口を開けて頬を蒸気させて街並みや店を眺めている。

スーツ姿のためかろうじて大人と分かるが、これが私服だったらフランス人には大学生くらいにしか見えないだろう。


「俺の仕立てた初夏に向けたスーツを着てくれたんだな、すごく似合うよ。ネクタイも俺の好きなストライプだし。よく似合っている」


ユウリに似合う紺のスーツをこの前仕立てた。

ユウリはピンク味のある色白のため、紺色と言っても少し淡めの紺色が似合う。

余りに素材の良さを引き立てるので、原則、会社では内勤の時に着てもらっている。これで外出したら、絶対に声をかけられるので危険だ。


「仕事後フランスに直行したからスーツ着てきたって言うのもあるんだけど、せっかくのフランスだし、レストランや劇場に行くかもって思って。

ドレスコードに相応しい、久我が見立のカッコいいスーツにしたんだ。

中のシャツはカジュアルダウンできるオシャレなものも何枚か持ってきた。これなら荷物にならないし。どうかな、フランスでも大丈夫かな?」


自分の魅力には相変わらず全く気づいていないユウリは、可愛らしくネクタイを正しながら俺に問いかけた。


「いつものカジュアルも似合うけど、確かにフランスだったらこの格好の方がいいね。

ラフな姿のユウリなら、未成年と間違われてバーにも入れずアルコールも飲めないかもしれない。

プラスして、滞在中に動きやすいパンツとサマーニットを買い足しても良いかも」



ホテルの部屋に入ると、ユウリの瞳が更にきらめいた。


「久我、セーヌ川が見えるよ!見て、このカーテン、重厚感があるな。ペルシャブルーの花の色が白グレーの壁紙に合うな!」


ユウリは青色が好きで、今回の部屋のチョイスがお気に召したようだ。


「お風呂溜まったから入っておいで。仕事の後に15時間のフライトで疲れただろ。バスタブも広いし、バスソルト入れておいたから」


バスローブに着替えたユウリは、バスルームを覗いて「真っ白で、日の光が差してきれいだな。これ、大理石とかかな」と、感嘆の声を上げた。


俺はバスタブにお湯を溜めながら、ユウリのスーツをハンガーにかけ、荷物を片付けはじめた。

お湯の温度をチェックしバスルームを出ようとすると、ユウリが後ろから抱きついてきて囁いた。


「久我も入ろう?ずっと一緒に入りたかったんだ」


振り向くと、首すじまで赤くして熱を帯びた瞳と目が合った。先ほどまでの無邪気さは消えていて、妖艶に俺を誘っている。そのギャップに眩暈がした。


薄赤い口元が軽く開いて、物欲しそうな吐息を漏らして俺の返事を待っている。

「すごく寂しかった、、ダメ?」


返事の代わりに服を脱ぎ捨て、シャワーでユウリと自分を濡らしながら何度も激しくキスをした。

ユウリは濡れた黒髪をかきあげて、「早く」と俺の首に手を回して催促してきた。何処でこんなことを覚えたんだ。


俺はユウリの首筋に舌を這わせ、背後から耳たぶを軽く噛んで舐めると、かわいい声が一層熱を帯びた。

俺たちは互いの熱を分け合った。


時計はまだ9時頃。お昼までひと眠りしようと、バスタブから出てベットにユウリを横たえた。

俺は眩暈のするほどの激しい快楽がまだ火照る身体に残っていて、横になっても快楽が収まらない。安心しきって横たわるユウリに手を出すわけにもいかず、俺はそっと目を閉じた。


ユウリには不思議な魅力がある。男なのに妖艶で無垢で可愛らしい。加えて男気がある。

身体の相性は、今までの女性経験と比較にならないほど良く、自分自身を手に負えないほど翻弄される。


この手を放したくない。

俺はユウリのうなじに顔を埋めて、深く呼吸した。



第ニ話 パリの昼下がり

<ユウリの本心: 最終日のノート>


暖かな日差しと爽やかな久我の香りが鼻をくすぐり、そっと目を開けた。

首すじに規則正しい吐息を感じて顔だけ振り向くと、端正な久我の寝顔があった。


今何時だろ?ん、まだ12時前か。お腹空いたな。ゆっくりと身体を起こした。

身体の芯がわずかに痛むが、それを上回る甘い痺れが身体に残っている。


つい3時間前、久しぶりに久我と一つになった。

また、自分から強請ってしまった。昨日まで仕事で各地を移動していた久我に無理をさせてしまったと思う。


「ユウリ、起きたの?身体大丈夫?辛くない?」


眠たげな優しい声と共に、俺は後ろから抱きしめられた。ふわりと久我の香りがした。


「大丈夫だよ。さっきはワガママ強いてごめん。お前こそ身体辛くない?」


俺は振り向いて久我の形のよい頭を抱いた。

久我はしばらく俺に頭を撫でられていたが、ようやく目が覚めたのか、俺をもう一度ベットに押し倒して、首すじに顔を埋めた。


「久我、お腹空かない?俺、朝ごはんしっかり食べたのに、何だか安心したのかお腹空いちゃった。12時だしランチ食べに行こう。お勧め教えてよ!」


放っておいたらまた始めそうなので、腹ペコ攻撃で制して、俺はベットから抜け出した。


残念そうにしていた久我もお店のお勧めを聞かれて俄然出かける気になったらしい。

素早く俺をコーディネートし、2人でパリの街に繰り出した。


・・・・・


バトーパリジャン乗船場からのセーヌ川ランチクルーズに滑り込み、眺めの良い窓側席に座った。


「このクルーズ、観光客にとても人気で一度乗ってみたかったんだ。

エッフェル塔やノートルダム寺院やシテ島とか主要な観光スポットが楽しめて、ユウリが来たら乗りたかったんだ。3時間あるし、ゆっくり楽しもう」


窓側席からの眺めは最高だった。俺たちは美味しい食事とワイン1本が付いた観光クルーズで会話を楽しみながら、明日からの旅の予定を立てつつ、パリ観光を満喫した。



「ユウリ、酔ってない?夕食には早いし、まだお腹空いてないしね。もう少し観光する?」


ワイン1本を2人で開けたくらいで酔うことはないが、俺は余りに美しいランチクルーズに心から酔いしれてしまった。

16時にバトーパリジャン乗船場に戻った俺たちは、夕暮れの始まる時間を手を繋いでゆっくり歩いた。


「夕食はホテルのカフェでもいいよ。俺、はやく久我と2人きりになりたい」


いつもは恥ずかしくて言えない事を、旅先のせいか素直に伝えた。

久我はわかったと言って、優しく笑った。


ホテルのエレベーターで息継ぎもできないくらい深く舌を絡めてキスをした。

久我の瞳には潤んだ瞳の俺がいて、理性のかけらはその瞳に残っていなかった。


「エイジ?部屋に着く前に言っておくね。先にシャワー浴びていい?久しぶりだからキレイでいたいんだ。その後、俺を好きにしていいから。

待っている間、俺のノート読んでいて。今日の分はこれからだろ?」


お預けを食らった久我は、少ししょんぼりした顔をしたが、俺の気持ちを汲んで頷いてくれた。


クルーズと散歩で汗ばんだ身体をシャワーで流し、久我をバスルームに促した。

久我はノートを読み終えたのか、「ノート、ありがとう」と言ってシャワーを浴びに向かった。


俺はベットに腰掛け、水を飲んで一息ついた。

本当だったら明日は久我の帰国予定日だ。だから今日は久我にとってフランスでの自由時間になる日だった。


俺はそれに合わせて、ノートにまだ久我へ伝えていない思いを書いていた。


____________

フランス出張 最終日

久我へ


今日は仕事も終わって自由に過ごせる日だな。

3週間、お仕事お疲れさま。久我に会えるの、とても楽しみにしているから、気をつけて帰ってこいよ。


このノートは久我がフランス出張に行くことが決まってから書いたことがほとんどだけど、今日の分だけは以前からなかなか伝えられなかった事を書くよ。

今まで、伝えられなくてごめん。


俺さ、久我と付き合う前は男同士の恋愛なんて考えたこともなかったんだ。恋愛経験も乏しくて男女のこともよく分かってないのに、男同士なんてもっと想像出来ないしさ。


俺の父親の影響かもな。

きちんと話してなかったけど、父親は仕事であまり家に居なくて、浮気ばかりしてたんだと思う。だから両親が離婚した時はそんなに驚かなかった。


その頃からかな、恋愛なんて一時的なもので、子供作ったら役目も半分終わりみたいな感じがしてさ。愛は家族にはあるけど、夫婦とかパートナーには一時的な妥協の気持ちが大半だと思っていた。


だから将来はどこかで気持ちに折り合いつけて誰かと結婚して、子供できたら自分だけでも努力して、家族を大切にする良い父親になろうって思ってた。


その頃、俺のこと好きって言ってくれる女性が何人かいたから、あんまり深く考えずに結婚したら普通に幸せになれそうだと思っていた。


でもそんな時に久我が告白してくれて、自分の本当の気持ちに気づいて、愛って言う概念が覆ったんだ。


何というか、自分の中の固定概念がパリンって割れたと言うか、損得抜きにして本心から俺は久我が好きなんだって気づいたんだ。

性別や社会的なハードルはもうどうでも良くなっていた。


俺さ、久我と付き合うまでは、会社も俺の小さな世界も本当の居場所じゃなくて、妥協の居場所だ、なんて思っていたんだ。

でも久我を好きになって、自分に自信がついて、仕事が楽しくなって、お前との時間が幸せで、今はここが最高の居場所だと思っている。


だから久我にとても感謝しているんだ。

俺の本当の居場所を教えてくれて、ありがとう。


これで俺が話していないこと全部かな。

口下手で一緒に暮らしてても伝えてないこと、沢山あったなってノート書いてて思った。

今回のフランス出張、良い機会だったよ。


これからはもっと口に出して伝えるよう頑張るから、これからもよろしくな。


ユウリ

____________


バスルームから出てきた久我は、黙って俺の横に腰掛けた。そして、俺のことを優しく抱きしめた。


「ごめんな。久我は俺のことになると余裕なくすし、今更話さなくてもいいかなって思ってた。俺を見つけてくれてありがとな」


久我は俺の額にそっとキスをした。


「旅行ノート、すごく嬉しかった。ノートがあったから3週間の仕事を頑張れたんだ。

ユウリの想いを伝えてくれて、俺こそありがとう」


久我は俺をベットに優しく押し倒し、何度も角度を変えてキスをした。


初めは労わるように優しく触れていたが、次第に激しくなった。

俺は考えることを手放した。

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