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月夜のセレナーデ  作者: ほしまいこ
第一章 フランス編
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第四節 欲の深さ

ふたりの再会編です。

離れた期間が、互いの想いをより深めたようです。

*R15の表現があります。


第一話 欲深さの意味

<ユウリの限界: パリへの道のり>


美味しい機内食を食べ終わり、サービスのビールを飲み干した。仕事終わりのフライトのため、疲れに加えてアルコールが身体に染みてきた。


少し酔ってしまったな。長いフライトだし、久我に会ったら寝かせてもらえないだろうから、今のうちに寝ておくか、って俺、またイヤラシイこと考えている・・。


久我と離れて1週間、企画の仕事も忙しくてなり始めたことと、1人で頑張ると気を張り詰めていた事で、寂しさを感じる余裕がなかった。


初めて迎えた土曜日の朝、明方に目が覚めた。そして久我が隣にいないことに激しく動揺した。眠気が覚めない頭には、現実を受け止めるまでに少し時間がかかった。


土曜日の朝は時間を気にせず2人でゆっくり起きて、久我の美味しいコーヒーを飲んでいたが、その日は1人でコーヒーを入れて落ち着こうとした。

同じ豆なのに、さほど美味しく感じない。


枕元の2人の写真に話しかけてみた。

フランスの仕事はどうか、ご飯はきちんと食べているか、夜は独寝できているか。写真の中の久我は優しく微笑むだけだった。


やっぱり俺、寂しいんだ。。

仕事を理由に自分の気持ちを見ないようにしていただけで、本当は空港で久我を見送った時から、寂しくて仕方ないことに気づいてしまった。


久我ロスを自覚した後からが大変だった。

1人で寝ることに耐えられず、久我の枕で寝るようになった。彼の香りに包まれて優しく抱きしめられている気するからだ。俺はまるで駄々っ子のように過ごした。


そして、布団の中で久我との夜を何度も思い出した。


この機会に思いを伝えたくて、旅行ノートに拙く色々と書いてはみたが、久我のテクニックが凄すぎて、それを言葉にすることなんて俺にはできなかった。


久我の動き、余裕のない表情、見上げた時に見える景色、そして刻まれる快楽を言葉になんてできない。


俺はフランス行きの飛行機を思わず予約してしまった。でも彼に伝えてよいか迷った。今伝えたら、今すぐ帰ると言いだしそうだから。


・・・・

機内サービスで声をかけられた。きれいに髪をまとめたキャビンアテンダントに飲み物を勧められた。

俺は追加で赤ワインと水をもらい、アルコールの力を借りて寝ようと試みた。


窓の外は漆黒の闇だ。寝ている乗客も多い。

俺は久我に会える期待と仕事疲れで、夢と現実の狭間を行き来した。

そして、久我との初めての時を思い出していた。


初デートの時、声を聞いただけで胸が高鳴った。もう、以前の関係には戻れないと感じた。


初めてキスした時、何も聞こえず、久我しかいない世界に放り出された気がした。


初めて久我に抱かれた時、快楽を知った身体を呪った。彼を知る前の自分には、二度と戻れないと感じた。


俺は久我に会ったら、きっと激しい感情を抑えることができないだろう。


付き合いたての初めの頃は、これは単なる性欲と思った。でも違った。性欲だけではなく、感情の深淵に何かあるんだ。その何かが分からず、俺は自分の激しい感情に戸惑って怯えるしかなかった。


そんな俺に久我は、『ユウリが思う以上に俺は欲深い』と言った。

その時は久我の真意が分からなかったけど、今ようやく分かった。

久我は俺に、一人では生きられないよう、俺の心身に自分を刻み込んだんだ。しかも意図的に。


たぶん俺が久我を求める中で、彼は俺の奥底にある感情〈欲深さ〉に気づいたんだ。

そして、俺が〈欲深さ〉に遅かれ早かれ飲み込まれる事を知っていた。

知っていながら、俺の身体と心にそれを繰り返し刻んで後戻りできないようにしてきたんだ。酷いやつだよ、久我。


でも一番酷いのは俺か。

俺はお互いの〈欲深さ〉を本能的に知っていたんだ。そしてお前の手のひらで踊っているに見せかけて、お前を更に欲深さの深淵に引きずり込んだんだ。

落ちるなら、2人一緒がいいって駄々をこねて。


だから、空港で感じた身体を割かれる感覚は、互いを縛り付ける〈欲深さ〉と言う紐が、身体部分だけ引き剥がされた痛みなんだ。

心の紐だけそのままで、バランスを崩したのが別離の痛みなのかもな。


お互いを縛りつける〈欲深さ〉は、一緒に背負うしかないな。一緒に深みにはまって、ずっと振り回されような、久我。

きっとこの世でこの紐は解けない。たぶん来世があったらその時もすっと。


・・・・


お客様、朝食はいかがされますか?

キャビンアテンダントの声で目を覚ました。もう、朝食の機内サービスの時間だ。


腹減った。そう言えば俺、食欲にも弱いんだよ。本当に欲深いよな。




第ニ話 恋人との再会

<久我の歓喜: パリの空港にて>


フランス周遊から戻った足で、パリのセーヌ川沿いのホテルを予約し、旅で必要な最低限の荷物を預けた。


観光シーズンもありホテルはどこも混雑していたが、平日ということもあり、雰囲気の良いホテルが取れてよかった。


ユウリが来て数日は、旅の疲れを癒してもらうためにパリでゆっくりしよう。

その後は2人で行きたいところを決めて、身軽に旅をしたい。


大きなスーツケースは、先に日本に送り返す事にした。仕事道具はもういらない。

ユウリとのフランス旅行の必需品だけ手元にあれば充分。


つくづくと、俺は重い男だ。

ユウリの事となると余裕が全くない。

でも良いんだ。そんな俺を彼は受け入れてくれるから。



シャルル・ド・ゴール空港の早朝の到着ゲートから、日本から到着した人々が出てくる。荷物が少ないユウリは早めに出てくるだろう。

きっと走って、息を切らして。


到着ゲートの向こうに、潤んだ黒髪の白い肌のユウリが見えた。なんてキラキラしてるんだ!

俺の決して欲目ではなく、男前のスラリとした男性がこちらに手を振る。少し痩せたな、あ、眩しい笑顔!


「久我!会いたかった!!」


可愛い天使が胸に飛び込んでくる。

俺は最高の笑顔で、カッコよくユウリを胸に抱きしめる。


が、実際の俺は涙でぼろぼろの顔だったらしい。ユウリは破笑してそんな俺の頭を撫でた。


ユウリが嫌がって胸をドンドン叩くまで、俺はギュッと抱きしめ続けた。



「もう、久我さ、いくらフランスだからって、空港で朝っぱらからあんなキスは反則だぞ!反省しろ」


抱きしめた手を緩めた時、胸元から俺を見上げるユウリと目があった途端、激しく唇を貪ってしまった。

ユウリは可愛い抗議の声を上げた。


「ごめんごめん、だってユウリがあんな可愛い顔するから、お前も悪いよ、あざといよ。

ね、美味しいパリの朝ごはん食べよ。機嫌なおしてよ、お願い!」


パリの朝ごはん、と聞いてユウリの瞳が輝いた。

俺、パリのモーニングコーヒーも飲んでみたい!と子供のようにはしゃぎ始めて、可愛いお怒りは何処かへ行ってしまった。

すかさず、ユウリの額にキスを落とした。


空港内のCafé Eiffelでモーニングを食べ、飛行機の機内食や風景なと、旅の話を楽しげにするユウリを見つめた。


「そう言えばユウリ、少しキレイになってない?

なんと言うか、色白が増して毛穴がないと言うか、輪郭もほっそりしたと言うか、肌艶が別れた時より良くない?俺がいない方が、まさか、、楽しかったの?」


ユウリは目をパチクリとして、ふはは!と可愛く笑った。


「まさか、花井さんとの浮気を心配してる?ちげーよ、花井さんの宿題で一生懸命、洗顔を頑張っただけ。実際にサロンにも通ってプロに化粧品の使い方を教えてもらったりしたんだ。

お陰で化粧品のコラボ、プロジェクトとして採用されたよ!」


「おめでとう!!がんばったね。今夜お祝いしよう」


ほんと可愛い、まじ天使だな。天使な上に努力家だし、出会えた事を神様に感謝しかない。

俺はユウリをもう一度抱きしめた。



飛行機は朝6時にパリに着いたため、パリの街はまだ完全に目覚めていない。


「ユウリ、観光にはまだ早い時間だから、一度ホテルに荷物置きに行かない?セーヌ川沿いのホテルでさ、お前と泊まりたかったとこなんだ。少し休んで午後から観光しようか」と俺は提案した。


ユウリは伏し目がちに少し赤くなりながら、おう、と答えた。きっと俺と同じこと考えてるんだな。

久しぶりのこの初々しさ、たまらない。


控えめにユウリが俺の手を握った。

頬を赤らめて、薄赤い唇がぽってりと潤んでいる。

会えなかった期間が、俺たちをまた恋したての頃の気持ちに引き戻した。


お互いの繋いだ手が少し汗ばんだ。

パリの朝空は、そんな恋人達をそっと見守ってくれている気がした。


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