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月夜のセレナーデ  作者: ほしまいこ
第三章 札幌出張編
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第五節 新しい仕事

札幌での新しい仕事に奮闘するふたりです。

第一話 恋人の新しい一面

<久我の動揺: 想定を超えて>


新千歳空港から、俺は札幌支店に直行した。


初夏の札幌は、まさに薫風といった爽やかで新緑の甘い香りが鼻をくすぐる。

俺はユウリに会える高揚感で、足取りも軽く札幌支社の受付を済ませた。


いつもの事だと自惚れるつもりはないが、受付の女性が俺を見てポッと顔を赤らめて、同僚と小声で囁きあっている。


「ねぇ、すごいイケメンね。東京の人ってこんなにイケメン多かったっけ?北海道の男性のほうが俄然カッコいい人多いからノーマークだったけど、今回の2人はかなり当たりね」


んん、2人?それって、俺と、まさか・・俺は探し物をするフリをして、耳をそば立てた。


「ほら、先々週にも来た黒髪の人、名前は確か雨夜さん?あの人もかなり支店で話題になったわよね。20代かと思ったら30代半ばですって。札幌男子より肌白くてキメが細かくて、憂い顔が最高っていうか。

飲み会の誘い殺到したらしいけど、毎日終電だし、結婚しているから宴会はご遠慮しますだって。残念〜。出張期間くらい、遊んで行けばいいのにね。

東京女子より札幌女子のほうが断然綺麗でしょ。分かってないわよね」


ああー、俺の懸念していたことが現実になっている。でも宴会を断るユウリ、ナイス!


確かに札幌、北海道の女性は綺麗な人が多いと思う。身長が高めで肌も綺麗で顔立ちが整っている。

明治からの多くの移住者やアイヌの方、それ以前は大陸や朝鮮半島、ロシアからの血も混じっているのだろう。


人も文化も思考も、混血することで新しい世代に新しいものを繋いでいくためか、様々な文化を尊重しあっている様子が建造物や街の雰囲気から感じられる。

東京などいわゆる本州の人間より、新旧問わず文化を受け入れる道民性は見習うものがあると思う。


札幌新店舗の商品展開も、この道民性の傾向を活かして検討すべきかな。俺は独りごちた。


・・・・・


札幌支社での打合せには、5分遅れでユウリも合流した。


「新店舗のPMO担当の雨夜です。本日は会議に遅れ申し訳ありません。システム運用の委託先との調整が長引き、大変失礼いたしました」


ユウリは丁寧に詫びを入れた。


俺のユウリ、かっこいいな。


ユウリに目配せして、仕事の顔に切り替えた俺は、本社からの意向を会議で伝えた。


「今回、雨夜からの報告を受け、本社で新店舗のオープン日までの予算と更改計画を確定いたしましたので説明させて頂きます。お手元の資料1ページを・・・」


説明が終わり、質疑応答後に会議は終了した。

後はそれぞれの持ち場で、最善を尽くすのみだ。


新店舗へ向かうため、ユウリと2人で札幌支社を出た。

受付の女性達の視線を感じて、俺はユウリを自分の陰に隠して歩いた。ユウリは相変わらず全く気付いていない。


さすが、ナイス鈍感力。


俺は自分が担当する隣接するビルの、同業他社との差別化の案件の予算取りが叶い、これから営業に行くことをユウリに伝えた。


ユウリはタスク整理ができたことで、少し楽になったと俺にお礼を言った。

オープン日までの商品展開とスタッフ教育は、プロジェクトリーダーが対応し、5日後までに成果報告を受けることになっている。その後、微調整が入っても期日内には間に合うと一安心だ。


ユウリはこれでようやく、本来のPMOの業務であるシステム本番と、今後の商品展開に注力できる。


「ユウリ、1人でよくここまで頑張ったな。臨機応変な動き方ができていて、本当に尊敬するよ。


ところで今日は何時頃終わるの?一緒に帰ろうよ。俺の社宅、ユウリと一緒の部屋なんだ。お邪魔かな?

そこに予算割いてもらうより、今回の案件に予算割いてもらったんだ」


ユウリは先程までのビジネス用の顔から、ふははと笑っていつもの俺のユウリ顔になった。


「どうせ別の部屋だとしても、俺、お前の布団入るから一緒だよ。無駄な経費が出なくて安心した。そうだ久我、キスしてよ」


え、今サラッと凄いこと言った?聞き間違い?


ユウリは期待で眼を潤ませ、俺をじっと見上げている。

ここ、札幌の大通公園の中心街、しかもテレビ塔前、、なんだけど。

俺は瞬時に計算をし、ユウリの手を引いて、目の前にあったテレビ塔前の歩道橋に登った。


そこで俺は、カバンを持つ反対の左手でユウリの頭を強く抱き寄せ、キスをした。

久しぶりに胸に抱いたユウリは、ふわりと男性向けのホワイトムスクの香りがした。

俺がプレゼントした香水をさりげなく付けてくれている。


うんん、とユウリは可愛く甘い吐息を漏らす。

そして、あらゆる忍耐力でようやく唇を離した俺を見て、目を潤ませながら濡れた唇を光らせ微笑んだ。


うーん、困った。妖艶な小悪魔がすぎる。


歩道橋は高さもあり、昼間でも歩いている人が少ない。意外と車にも歩行者にも目につかないだろう、という俺の計算だが、今は昼間だ。

逢瀬はこのショートタイムが限界か。


ユウリは満足したのか、じゃ、行くか、と新店舗に案内するために、俺の前をそそくさと歩いて行った。


今夜は手加減できそうにない。

巻で今日の仕事を終わらせる。俺は心に固く誓って、ユウリの後に続いた。




第二話 優秀な恋人

<ユウリの驚き: 新しい試み>


定時になった。

久我には気付かれないようにしていたが、キスの余韻が頭から離れない。


近頃は終電まで残業と長時間労働だったため、流石に今週は少し残業をセーブして早く帰るよう、人事に言われた。よかった、仕事にならないしな。


「雨夜、差別化案件の事で少し良いか?」


新店舗で打合わせ後に営業に出ていた久我に、声をかけられた。


新店舗には顧客向けのお茶を楽しめる休憩スペースがあり、ビルの高さを活かして札幌の街並みを見渡せる。

そこのカウンター席に腰掛け、久我は話しはじめた。


「このビルの屋上に古い昔ながらのサウナがあるの知ってるだろ?ちょうど、この店舗エリアの右奥から上がった階段のところ。

昔は結構繁盛してたけど、このビルのオシャレなコンセプトから外れてきて、古い常連客の足が途絶えて近々畳むらしい。今日、これからそこに一緒に行かないか?」


「おう、いいぞ」


できれば早く上がって、久我に甘えたかったな、と思いつつ、久我がビジネス顔になっていたので、仕事の件だとピンときた。


定時頃の6時台のサウナは貸切状態だった。昭和のサウナさながら、今時の浴場などはなく、サウナと水風呂、簡単なシャワーだけとシンプルな作りだ。


脱衣所で服を脱ぎながら、久我に聞いた。


「久我、もしかして、サウナを差別化案件と考えているのか?ここなら店舗のすぐ横だし、サウナグッズも最近は若い層に人気だから、コラボを考えてるんだな?」


久我はニヤリとしてうなずいた。


「そうなんだよ。ユウリの出張決まってから、ここ周辺をリサーチしてたんだけど、かなり安くこのサウナは手放すらしく、実は今、交渉中。

オーナーが年配なのと、最近流行りのサウナのコンセプトと合わないらしいからな。ま、まずは入ってみるか」


久我とタオルを腰に巻いてサウナに入った。

中はそこそこの広さがあり、サウナ室の横に汗を流すシャワーブース3つ、5人ほど入れる水風呂、低い階段を上がると屋上があり、外気用のイスが5脚ほどある。


連日の仕事疲れが、高温サウナで良い感じに汗が出ることで、肩のコリと共に流れていくようだ。


久我に軽く額にキスをされたが、サウナの風紀を乱すなと、頬を軽くペチンと叩いてやった。


高温のため5分ちょっとで良い汗をかく。シャワーで流して水風呂に入り、札幌の夜風を感じる外気浴をした。

街中での半裸の開放感に、トトノウ体験をした。


「久我、これいけるんじゃないか?スーパー銭湯系のサウナとは違って、軽くサウナして帰るって手軽だな。仕事帰りにも躊躇なく来れるよ。

この件、夕飯食べながら詳しく聞かせて」


久我とサウナを出て、札幌時計台の裏手にある焼き鳥屋で軽く食べて帰ることにした。


「札幌出張、お互いお疲れさま!合流してくれて、すっごい嬉しい。しばらくよろしくな!」


サウナで火照った身体をビールで潤しながら、焼き鳥をつまんだ。


「サウナ後は格別だな。さすが久我だよ。サウナブームに便乗させるんだもんな。

確かにサウナ雑貨とのコラボは今までにないし、サウナ事業はうちの会社としてもチャレンジングだな。


しかも既存施設の買収たから、施設クリーニングと最低限の設備投資で低予算だし、オープン日に合わせたら広報費も割けるな。お前の事だから不動産契約も進んでるんだろ。凄いな」


久我は美味しそうにビールを飲みながら、また仕事用のキリッとした顔になった。

久我のこの切り替え方、好きなんだよな。

それに、プライベートと夜の顔は俺だけが知っている。


「サウナ入ってみて気づいたか?

こう言った昔ながらのドライサウナは電熱線で加熱するタイプで、ベンチの下や背面にヒーターが格納されていてコンパクトだ。


80度以上の高温、20%未満の湿度は、例えば、アロマ加湿器を併設するだけで、湿度とアロマの香りが楽しめて、人気のフィンランド式に装うことも出来る。寒い気温を活かして水風呂と外気浴の設備で充分整うしな。


だから、手軽にサウナを楽しみたい人や観光客にもってこいなんだ。年齢層に関係なく受ける可能性があると思っている。


オープンまでに最低限の手直しで充分オシャレな空間に出来ることも見積済みだし、予算も上と掛け合って確保済み。これで進めようと思う。2週間で行ける見込みだ」


俺は久我の手を握り、やってみようと言った。


さっそく明日から、契約やスタッフ手配、内装発注など忙しくてなるな、と久我は笑った。


そして俺の耳元で、そろそろ帰ろうと囁き、周りに気づかれない程度に耳たぶを甘噛みした。


あまり外では見せない久我のその様子に、俺は想像がつかない夜になりそうな予感を感じた。

そして、期待している自分に気づき、顔が赤くなり目を伏せた。


店を出ると、札幌の初夏の涼しい夜風が火照る身体を通り過ぎた。

大通り公園には数々の花が咲き、月明かりと街明かりに照らされて、昼には見せない新しい色で咲き誇る。


俺は久我に連れられるまま、帰宅を急いだ。


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